実写/ジョルト | ナノ
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いつもの日曜日


明日も
太陽がのぼりますように

明日も
目が覚めたときに
きみがとなりにいますように

なにもかわらない
きみと過ごす
明日がきますように

『いつもの日曜日』
-Jolt編


一週間を7日間で区切るのは、センスがある。地球人の平均的な体力と持久力で換算すると、7日間というサイクルは理にかなっていて非常にバランスがいい。…と、ラチェットが言っていた。
そして週の最初が安息日、日曜日だ。
……まあ、休みたいって素直に言えない人間が作った「休む口実」だ。聖なる日、安息日という言葉は。
そうすることで気兼ねなく休息が取れるのなら、それでいいんじゃないのと思いながら、ジョルトはケトルのスイッチを押した。
ユマの家の中はこぢんまりとしていて、とても心地がいい。彼女を箱に入れて持ち運びたいけれど、そうするにはなかなかいいサイズの箱がない。だから家という概念はとてもいい。求めているその人が約束もしていないのにそこには必ず住んでいるのだから。
持ち運びができないというもどかしさも手伝って、俺を突き動かす。任務がないときには必ず会いに行ってしまうこの不思議な感覚。

「あ、ジョルト…」

気がついたらとなりにユマがいた。いつも物思いにふけると周りが見えなくなる。

『ん?』

ユマは眠たげにパジャマのままでキッチンまできたものの、目をこすりながらケトルを指さした。

「コンセントつながってないよ」
『え?』
「ほら」

コンセントの先っちょをつまんで、ユマが笑った。

「いつまでたっても沸かない」
『ああ、ごめん』

レトロな接合部品だな、地球のコンセントっていうやつは。そう思ってまじまじと眺めていたが、思いついてユマにゆっくりと笑いかけた。

『大丈夫、わざとなんだ』
「え?」
『見てて』

むき出しになった接合部に指を挟み込んで電気を流し込む。
ケトルがふつふつと騒ぎ出した。

「!!」

彼女の目がきれいに丸く開く。
俺は少し得意になり笑う。ケトルにつながったコンセントは本来の役割を十分すぎるほど果たしている。

「すごい…!」
『尊敬する?』
「するする!すごい!」

普通のことなんだけどな。発電できないユマや人間にとっては、やっぱりすごいことなんだと、改めて思う。そうすると、おのずと自分に自信が持てるようになってくる。

『感激屋だよね、ユマ』
「いやいや、これは本当にすごい。いいよ」
『まあ、電気を生活で使う人間には便利に見えるよね。俺等には不可欠なものだから。あって当たり前、生きていくエネルギー』
「………」

ぼんやりとパジャマの彼女が見上げてくる視線に、首を傾げた。

「これがジョルトの…エネルギー」

電流を少しずつ送り出す指先を見つめている彼女の目をのぞいていたら、ケトルが沸騰を知らせる合図を出した。

『沸いたね』

密封されていたドリップパックの包装が小気味よい音を立てて開き、ふわっと広がる薫りに、思わず瞳が閉じられる。

「いい匂い」
『コーヒーメーカーを買ったらどう?』
「いいよ、そんなこだわりないし、インスタントも充分おいしいし」
『俺には美味しさは分からないけど。まあ、薫りはいいんじゃない』

そう答えると、満足そうにユマが笑った。

「ジョルトがくれたエネルギー」
『?』
「今、私の中に入っていきます」

そう言いながら、マグカップに入れたコーヒーに口を付けた彼女は、優しく睫が揺れている。
そして口を付けたのを「熱っ!」と言って素早く離した。

『エネルギー、入っていくんじゃなかったの?』
「熱いからちょっと無理」
『熱いうちに採らないと、俺のエネルギーはなくなるよ』
「う…そ、そうだよね」

もったいないよね、と呟いて、ユマは再び恐る恐るマグを口につけた。しかしやはり、

「うあっつ!!」

熱いらしい。
思わず吹き出した。なんだろうな、このたとえようもない気持ちは。こみ上げてくるこの存在への焦燥にも似た慈しみの思いは。
伝えるのが難しい。
なんせ人間には電波を受信する回路も、起伏に反応するセンサーすらない。支えるのは安定感のない第六感だけだ。空気を読み込む原始的な感覚だけで生きている。

「ん?どうしたの?」
『…………』

ああ、
だからこういうことをしようという衝動がくるのか。

『勿体ないなんて思わなくていいさ』
「え?」
『エネルギーなら俺がたくさん持ってる』

額を寄せ合うと、柔らかく伝わってくる穏やかな鼓動と優しい熱。

「……」

小さく脈打つ鼓動が、俺の言動一つで早くなったり激しくなったりするその純粋な君がたまらなく好きだ。

『俺のエネルギーでよければ、いつでもユマにわけてあげるよ』
「ジョル…」
『直接ね』

それからこの唇の感覚も、大好きだ。
ああどうか、このささやかな安息日よ、また来週も変わらずに俺に訪れて、そして幸せを噛みしめさせてください。
そんないつもの、日曜日。

2010/08/18
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