実写/ラチェット | ナノ
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いつもの日曜日


明日も
太陽がのぼりますように
明日も
目が覚めたときに
きみがとなりにいますように
なにもかわらない
きみと過ごす
明日がきますように


『いつもの日曜日』
-Ratchet編-




──82%
────96%
─────complete!
よし。
かたん、と軽くステンレスのボウルとプラスチックのトレーがぶつかり合う音がして、ラチェットは眠っているユマに視線を移した。
まだ起きる様子も、ラチェットが今立ててしまった少し大きな音に気づく様子も、ない。
ラチェットは眦をさげた。ほっとしたのだ。
連日、仕事で体力を消耗している彼女の休日。体を休めなくてはならない貴重な日に、体力回復途中で物音に起きて、彼女の睡眠が妨げられるのは、いくら自分の行動でも許せない。
今は午前8時。
ひとりで暮らしているこの部屋にラチェットが訪れることは殆どないが、ユマは訪れるたときはとても喜び、笑顔になる。それがどのくらいの荒波でいつも冷静なラチェットの回路をかき乱すのか、ユマ本人は気づいていない。
自分ばかりが、ラチェットを好きだと思っているのだ。
単身者向けのマンションというのは、キッチンが狭い。以前ユマはそう言って、料理がしにくい、と嘆いていたっけ。

ピーマンと、バジルは緑。
輪切りにしていく赤唐辛子も鮮やかだった。ニンニクも、ショウガも、手際よくみじん切りにしていき、ピーナッツを刻む。
地球というのは、不思議な世界だ、本当に。
刻む材料を見て、単純にそんな風に思った。

さっき検索したレシピ通りに、ロースを均等に切っていき、下拵えをしたところでフライパンで目玉焼きを作っていく。
フライパンに卵が落ちた瞬間、じゅわっと音がして、ユマの瞳が開かれた。

『やっと起きたか』
「…………」

まぶしそうに眉間にしわを寄せ、ゆっくりまばたきしたあと、はっとして、今度は明らかにびっくりしたように目を瞬く。


「ら、ラチェット!」
『おはよう、ミス寝坊助』


あ?なんで、え?と、指を差しながら状況を把握しようと必死なユマの表情に、思わず微笑んだ。

『悪いが勝手にあがらせてもらった』

目玉焼きをはらって、野菜を炒める。

「…い、いいにおい」
『待っていなさい、もうすぐだ』

うん、としおらしく頷き、シーツで顔の半分を隠してキッチンのカウンターにいる自分を見つめてくるユマは、可愛い。

『顔洗うんだ。手も』
「あ、はい」

ゆっくり立ち上がって、タオルを手にしたまま、でもなんでラチェットがいるの?と聞いてくるユマに微笑んだ。
まだ少し寝ぼけているようだ。

白いプレートに、ライスをのせ、その横に、オイスターソースをからめて炒めた野菜と肉をのせ、粗挽きの胡椒をかける。

「うわお、はやくたべたい」

そう言って、フェイスタオルを首にかけたままキッチンに入り込んできた、彼女の頭を撫でる。

『食べてみせてくれ』

にっこり二皿をテーブルに持って行こうとするユマが、キッチンに引き返す。
スプーンがいる、と慣れた手付きでそれを探し、こちらに預けた。

席について、わくわくしている子供のような顔をしたユマを、思わず抱きしめたいと思うが、まずは食事をさせねば、と思い直す。

「いただきまーす!」
『待て』

え、と顔をしかめたユマに、思わず微笑む。

『仕上げがまだだ』

そう言って、プレートに目玉焼きを乗っけてあげると、いよいよユマは、わーい!と喜んだ。

「朝ご飯作ってもらえるなんて幸せ!」

ありがとう、と笑いながら、混ぜ合わせて、美味しそうに頬張る顔を、のんびり眺める。
ん、と気づいて、ユマが今度は微笑んだ。

「ラチェットは食べないの?」

といってはぐはぐ食べている彼女にまた笑って、スプーンを握った。

おいしい!と笑顔100%で評価したのユマに、テーブル越しにくちづけた。
驚いたように目を開き、それから、微笑む。

『この顔が見たくて作ったようなものだし、私に食べることは必要ないから構わんのだがね』

そう言いながらスプーンですくって、口に入れたところで、ユマが見つめてくる視線に気がついた。

『?』
「一緒に食べるのが、いいんだよ」

一瞬動きを止めて、それから、頷いた。

『そうなのか』
「うん、そう。でも来てるんなら、起こしてくれても良かったのに」

作るの手伝ったのに、と言うユマに思わず笑顔を返す。

『作り方は企業秘密なんだ。もしユマが起きていたとしても、私一人で作るという結果に変わりはない』
「そうなの?」
『ああ』

ふうん、と頷いて、食べるのを再開したユマが、おいしい、ともう一度言って、笑った。

「唐辛子が効いてるね、なんか熱くなってきた」
『…ふむ』

もくもくと食べる、ユマをゆっくりと見つめ返す。
とろっと潤んだ瞳に、効果はまずまずだな、と確信。

「あ、あー…ラチェット」
『どうした?』

かしゃん、とスプーンがプレートにやわらかくぶつかる、音がした。

「…キ、」
『き?』

ユマが、ラチェットの唇を見つめて、それからとろんとした目を開いてはっとする。

「ご、ごめんなんでもない」
『ん?』

そそくさとライスをかき込みながら、ユマがまた、おそるおそる見つめてくる。

「あ、あのらちぇ…っ、」
『なんだね?』

効果が出てきたか。
なかなか早いな。

「う、」
『ユマ?』
「キス、」
『食事中だぞ、あとにしなさい』

潤んだ瞳に、微笑む。

『今がいいのか?』
「うん、なんか…そうだね、でもなんか…」
『どうした?』
「わかんない、なんか熱い」

は、と据わっていた目が開く。

「ラ…チェット、まさか…」
『…なかなか気づくのが早いな』

な、なに入れたの?と見上げてくる目は、もう欲しい目だ。

『……今日は、私だけのものだからね』
「な、なん…」

そんないつもの(?)、日曜日。

2009 log
シリーズ・ゆるゆるサンデー