実写/オプティマス | ナノ
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no title

『失礼、尋ねたいのだが…、ここの就業時間は、もう終了しているのか?』

清潔なオフィスの入口で見上げて来た受付の女性の大きな瞳が、更に見開かれ大きくなった。漆黒の化粧品(ユマが使っているのを見た事はあるが、名称は不明)が塗りこめられた分厚い睫毛がばさばさと動き、此方の意図を汲めなかった様子であった。

「あ…」

受付の女性は、ゆったり座り込んでいたデスクの小さくて機能性よりデザインを重視したデジタル時計に目線だけを配せ、

「はい、あと1分56秒で18時です。当社の就業時間は…ええ、もうすぐ終了しますね」

そう言って再び見上げてくる。

『そうか』

手元の資料をせわしく開いた女性は、どうやら予約を確認しているようだ。

「当社の者にお約束が?間に合わせる事は可能ですが…、お繋ぎします?」
『勿論会う約束はしているのだが…迎えに行くとは告げていなかったな』
「……はい?」
『つまり…サプライズだ』

女性は何がなんだか分からないと言う顔をした。こんな理解力がない女性を会社の顔にしていいのか疑問だ。仕方がないので結論を述べた。

『あー…、迎えにきたのだ。私の家族を』



休憩時間に、オプティマスからメールが届いていた。

"From: OPTIMUS.P
Subject: 任務終了
今本部を出たところだ。今夜は時間が作れそうだが、仕事か? ''


「文字、青っ!」

思わずひとりごちた。必要ないところまで青い(もちろん通常の機能でそこまでデコレーションできるわけがない)。とにかくそんなどうでもいいことは置いておき、返信を急いで作った。

"To: OPTIMUS.P
Subject: Re:任務終了
18時に終わるけど、家に着くのは30分くらいかな。そっちが先に着くかもね。ゆっくり休んでて!"

送ったメールがエラーで跳ね返ってくる時のように、"了解"の返信は早かった。彼と最後に会ったのは一週間前。彼に会えない一週間は長い。今回は中東での任務とだけ聞いていた。
オプティマス率いるオートボットが今担っている事は、平たくいえば"和平交渉"。少々手荒な時もあるらしいが表立ってはそれが主で、もちろん、恐ろしい脅威が舞い戻って来た時の警戒も忘れていないと言っていた。NESTは訓練を怠らないのが、"まだ完全に平和ではない"何よりの証拠。
オプティマスと会えない時間は、そんな考えてもどうしようもないことがよく思考を支配した。
考えなくてもいい事なのだろう。しかし考えずにはいられないのだ。それがおそらく自分の中の性である。



帰りしな、受付の方でやたらと帰宅する社員たちの目を引くものがあった。立ち止まってまでは見ていかないが、通る人々みんながそこを見ながら歩いている。角になって見えなかったので、自分も便乗する野次馬のごとく近くを通ってみた。それで皆の目線の先に吃驚した。
そこにいたのは、人の姿を模ったオプティマスだった。

「!」

とっさにオプティマスの辺りを見回した。確かに目立つ見た目で、髪の色も普通ではないし、長身、透き通ったアクアブルーの瞳も、白人のブルーアイのような色味ではなく…どこか機械的だ。人々の好奇の目にさらされている対象が自分の恋人。状況を把握するより体が先に動いた。思わず歩み寄る。

「ど、どうしてここに?」
『迎えに来たのだ』

穏やかな笑みと一緒にそう言ったオプティマスの腕にゆっくり自分の腕を絡ませる。何も言わずそっと歩き始めると、目線は30%くらい少なくなっただろうか。話しながら出口へ向かう。

「と、とにかく出よっか」

ビルを出て歩きながら、横にいるオプティマスを見上げた。『…まずかったか?』と不安を入り混ぜて眦を下げた彼に首を振りながら笑顔を返した。彼は何も悪くない。

「まさか来てくれるとは思わなかったから少しびっくりした」
『…早く会いたかった』

そう付け加えた彼に申し訳ないのと嬉しいのと今抱きつきたい気持ちでいっぱいだ。
手を繋ぎ直し、ゆっくり並んで歩く。

「サングラスがいるかもね」
『ん?』
「有名人みたいだなー」
『何の話だ』
「早く帰ろう、オプティマス」
『待て、会話が成り立っていない』
「いいんです。独り言です」
『……』



『顔が赤いな。酔ったか』
「酔ってないよ」

酔っているたいていの人間がそういうらしい。上気した彼女の頬を少し距離をとって眺めた。少しくたびれた表情で、しかし楽しそうに微笑んでいる。
ゆっくり立ち上がった。もう充分に今日は話ができた。

『もう寝た方がいい』
「え、寝ちゃうの?」
『ひどく眠たげに見える。心配だ』
「大丈夫だよ」

出来るだけはっきり話しているつもりだろうが、声が甘ったるくなっている。眠たげな眼差しをこちらに向け、やや不服そうな顔をしていた。

『寝室へ連れて行こう、つかまれ』
「……」

手を差し伸べると、ユマは迷いなく体をこちらにあずけ、その両腕を首の周りに巻きつけた。
抱きかかえると、今度は両脚が腰に巻きついた。子供のような仕草に思わず笑顔になる。ゆっくり歩く。ユマの柔い頬が肩にへばりついた。歩くたびにそれが揺れ、髪が揺れ、その度に花のような香りがした。

「…オプティマス…」
『ん?』
「…ずっと一緒にいてね」

首に絡む腕の力が、僅かに強くなった。

『…ああ』
「そっけないなあ」
『君の酒気がなくなれば言葉を増やそう』
「酔ってないのになあ」

思わず微笑んだ。
寝室に着き、ゆっくりとユマをベッドに降ろした。

「今日ねー…あしがつかれた…」

眠たげな声が、きちんと言葉を紡げていない。柔らかな足を撫で、脹脛をさすった。その瞬間、ユマの体がぴくりと跳ねた。
「!」
『マッサージだ。方法を調べた。楽になるはずだ、ああ…冷えているな』

ユマは跳ねるように起きた。

「ごめん!そ、そんな事させるつもりで言ったんじゃ…」

かまわずに摩った。

『…小さいな』
「え?」
『…』
「……」

ユマは戸惑いながら摩られていく脹脛と、摩っていく手を目で追いかけていた。

『…こんな小さな…足で、私と共に歩んでいるのか…』

そう呟くと、ユマの目にはなぜか涙が溜まっていった。見つめ、その涙の意味を考えていたが、いてもたってもいられなくなった。
儚い彼女に跨り、とても静かに、キスをした。

『……』
「……」

彼女の両手が頬を包んだ。いつもより、温かく感じた。こうして欲しかった。今、ユマに。それを言わずとも叶えてくれるこの奇跡を、

「ずっと…」
『……それは私の台詞だ』

君を、儚い夢だったと、いつか思う日がくる。

『…ずっと私のそばにいてくれるか』

ユマは迷う事なく頷き、

「…他にどこにいけばいいかわかんないよ」

そう言って、儚く笑った。

あなたは恋人で
同時に親友でもあった
自分が何者でもない場所を
くれたのはあなただけ
言葉に出来ないさまざまな気持ちを
すべて受け入れてくれてありがとう
2013/08/06
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