実写/オプティマス | ナノ
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星月夜

「外を歩かないか」

地球の廻り具合で、季節が変わっていく。
夏が終わり、彼女の住む地では、植物達が実り出した。互いの休日を楽しみ、そして当たり前に長い秋の夜がおとずれる。月が大きく宵の口の空を照らし、それに何か情緒のようなものを感じたのだ。
秋の葉の色に似たジャケットをクローゼットから出し、それを羽織りながら、

「お散歩、いいね」

そう言って、表情に笑顔を混ぜた。
彼女を乗せて、いつかの霊廟へ走る。
もう秋だね、あっというまに、一年が終わるね。
そう呟いた視線の先は通り過ぎていく風景があり、どこかそれが物悲しそうで、計器越しにその憂う眼差しをみつめた。
辿り着くと案の定ひと気は皆無、安心して擬態を解いた。辺りに落ちた朽葉さえ、片されることのないまま佇んでいる。見上げた彼女を手に乗せようとすると、

「散歩にきたんだし、今日は歩くよ。大丈夫、ありがとう」

そう返される。
荒廃し崩れた墓石を避け、慎重に歩く。
祈りを捧げる天使の像の肩と羽根の間に、枯葉が入っている。天使とは目が合わない。

「……オプティマス」
「なんだ」
「どうして散歩に行こうと思ったの?」
「……月を」

指をさすと、彼女がそれを追い見上げた。

「……月を君と並んで見たいと思った」

彼女が顔を顰めた。

「……どうした」
「……ここからじゃ月、見えない……」

鬱蒼とした森の上に月は照っていたが、彼女の背丈ではそれが見えぬ角度のようだった。
そっと彼女の身体を掴んだ。

「肩に」

しがみつく手のひらの暖かさを感じる。彼女は月を見つけ、感嘆の声をあげた。それを耳元で聞き、思わず口角が緩む。

「……なんか、澄んでるね……」
「……ああ」

いつのまにか、彼女は私の顔を見ていた。

「……ね、オプティマス」
「ん?」
「……ちゅうしていい?」
「……構わないが」

落ちないように、そっと身体を顔に近づけてくる小さな身体を落とさぬよう、手をあてがいいつでも受け止める体勢を取ろうとしたところで、彼女の唇がそっと頬に触れた。小さな温かさがそこに落ちてくる。控えめな彼女の、熱。

「……温かい」
「……オプティマスは、冷たくなってきたね」
「ああ、寒ければ下ろ……」
「ううん、この方が近くにいられるし」

視線がかち合い、互いに仕方なく笑む。
気持ちを伝え合う手段は少ないが、それでも構わない。指で身体を包むと、彼女はくすぐったそうに身動ぐ。それから、人差し指に抱きつき、人差し指にもキスをしたあと、指の隙間から見えた月を覗き込んだ。

「あれ、もう色が変わってる」
「……色?」

月は月だろう、色が変わるなんて事が……

「うん、さっき濃かったんだけど、今もう薄い色になってる」

ああ、それは月が変わったのではなく、

「月の色、時間によって変わるよね。ちゃんと地球が回って、月も回って、太陽も、違う国を照らしてるって事がわかるから、なんか安心する」

「…………」
「……ん?」

その情緒があれば、我々は、もっと違う方法で、戦いを終わらせる事が、出来たのだろうか。
黙った私を見つめ、彼女は首を傾げた。

「あっ!?なんか間違ったこと言った?あれ?月も回るよね?」

思わず笑った。

「え?回らないんだっけ?」
「君を心から尊敬する」
「は?なんで!?」

両手で包み込み掬いあげ、正面に彼女を連れてきた。とても控えめな熱が愛しく、何もかも違う構造のその瞳の奥に抱える独特の価値観、それから、優しい声。全てが何か数秒でも違ってしまったら出来上がらなかった奇跡であると噛み締め、スパークを込めて見つめる。
瞬きを繰り返して首を傾げ、しかしそれもどちらでもよくなったように微笑む彼女の額に、そっと触れるだけのキスをした。

「わ、……」

……つもりだったが、彼女は押し倒されて手の中で仰向けになった。しかし、私を見上げ、それから背後の空を見上げ、目を見開いた。

「……月に負けない星もあるんだね、オプティマスと星、すごく綺麗……」

星月夜の密やかなランデヴー、私のオプティックの水色が、僅かに彼女の瞳に反射している。同じ目の色になっている。
私の背の星達が、何も言わずに、我々を見守っている。
新たに故郷と呼ぶことのできたこの星の生活も、

「───悪くない」

2017/10/07
夜散歩