生き急ぐ僕の心臓
日本列島台風一過、連休なのにどこにも出かけられなかった方も多いのでは。そしてそんななか誕生日だった方に、せめてものお祝いを。
生き急ぐ僕の心臓
護るものが地球、だとか、果ては宇宙、という広範囲だと、いくら懐が広くてあまり世間のことに流されないオプティマスを好きでも、気は遣う。彼に敢えて連絡しなかったのは、この連休で、こちらに戻ってきてとお願いするのも、会う約束をするのも、どちらにしてもそれらを守ろうとして彼が無理をすると思ったからだ。
連休中は、あいにく嵐だ。
「───今日は予定が?」
電話から聞こえてくるオプティマスの声はとても穏やかで、その声を聞いただけでも、ほっとするし、やっぱり穏やかな月夜みたいな低音で、彼の声は秋に似合う。
「ないよ。こんな日は家でゆっくりするのが一番」
「───……そうか」
「オプティマスは?今どこにいるの?」
「───ロンドンだ。回収せねばならないものがある」
「……忙しいねぇ」
「───……不満そうだな」
気づいて欲しいと思うが、実際気付かれると少し気後れする。本当に忙しい彼に、本心が伝わることは、自分がとても幼いという気持ちにさせられる。
「……そうじゃないんだけど、」
言いかけた時、インターホンが鳴った。
「待ってて、誰か来た」
「───では後程また連絡しよう」
オプティマスがそう言って、あっけなく切れた電話に、肩を落とす。
「やっぱり、忘れてるなぁ」
今日は、誕生日だ。
もう大人だし。誰かにお祝いされなくても。
誰かに、じゃないや。
……ただ、会いたかっただけなんだけどなぁ。
もう一度、インターホンが鳴った。
渋々出ると、地味なレインスーツを着たずぶ濡れの配達員が立っていた。
「わ!ご苦労様です」
こんな嵐の中仕事をするのは大変だ。今まで世界で一番不幸だと自分を庇護していた気持ちが急にしぼみ、サインをしながら配達員を哀れんだ。
扉を閉め、雨に少し濡れた小包を開く。宛名は確かに自分だが、差出人はない。
訝しみながらもそれを開けると、箱の底にぴっちりと貼り付けられた、小さな何かが、入っている。ゆっくりそれを剥がすと、シリコンの部分の形に見覚えがある。よくある市販の、
「ワイヤレス……イヤホン?」
首を傾げながら何気なく耳に近づけると、
───受け取ったか
「───ふぁっ!?」
耳に直接、オプティマスの声が聞こえる。
思わず耳に差し込み、次の言葉を待つ。
「……」
───なんとか言え
「……は、これなに?」
ふっ、と微笑む吐息さえ直に聞こえる!背中のあたりがぞわりとした。よく彼に抱きしめられた時になるそれ。低音の声は体じゅうに響く。
───通信とは全く違うものだ。私の最もプライベートな機能に……直結している、と説明すればいいか
「??」
───……離れていても、より隣にいられるように、な。付けていればいつでも会話が出来る
「……でも、これ……」
───……特別な日に、共に過ごせない事が残念だ。誕生日、おめでとう
「……へ……」
覚えていてくれた。
それだけで、嬉しい。
「あ、ありがとう……!」
───……あまり……
「───え?」
───あまり、生き急がないでくれ
「……」
───君の誕生日が巡ってくるたびに、そう思う。だが、君が一年、無事に生きてくれたことに喜びも感じる。複雑だ
そう言って、また微笑む吐息が伝わる。
今抱きしめてくれたらいいのに。
今、ここにいてあの綺麗な水色のオプティックを、覗き込めたらいいのに。
だけど、この気持ちだけで今は。
「……また、この歳の一年も、どうか、よろしくお願いします。一緒にいてくださいね、司令官」
───……勿論だ。共に生きていける事を、誇りに思う
かしこまって挨拶をする機会なんて、そうないから、心を込めて。
次に会える約束も、プレゼントだと、思って、いい、よね。
2017/09/17
HappyBirthday
With Optimus Prime
(台風お見舞い申し上げます!)
HappyBirthday
With Optimus Prime
(台風お見舞い申し上げます!)