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旅立ち

プロローグ

荒廃した墓前に立っている。とても小さな墓碑には
"サミュエル・ジェームズ・ウィトウィッキー、ここに眠る"
とある。その当時ここがアメリカという地名だった頃に作られたもので、もう彫ってある文字も擦れてしまったから、人間が解読するのは困難だろう。しかし、私は幸い水でできた不安定な目を持っていないので、解析ができる。最も偉大な地球人の親友の名前だ。
この名を見ただけで、あのみずみずしい日々を思い出してしまう。
この墓地の前に寄ったのは、ウィリアム・レノックスの墓だ。そして───
さらに体を走らせ、いつか彼女に魂の指輪を渡した霊廟へたどり着いた。しかし彼女がここに埋まっているというわけではない。彼女は私の胸のスパークとマトリクスの隣で、遺灰という粉末になった体を小瓶に入れ、私といつも行動を共にしている。私の心の奥底で安らかに佇み、私のスパークの灯火をただ見守り続けている。それをこの記憶の詰まった霊廟で、ほんの少しの時間、眺める。そして静かに、彼女と過ごした愛ある日々をメモリーから引き出す。毎度の墓参りの締めくくりだ。
これは、我々の短い、そしてとても輝いていた自由の日々の記録だ。

我々は何度もこれまで静物の真似事をしてきた。自動車、戦闘機…、ありとあらゆる機械の真似事を。擬態は我々のありのままの姿。生きる道といっていい。
そしてこの星に辿り着き、静物ではなくここで生きる種族の真似事をした。最初は順応の為に。そして時が経つと愛の為に。互いを求めあい、命を営んでゆく日々の真似事をした。
当然だが我々が何度愛し合おうと、それを何度愛と呼ぼうと、我々が本当の意味で交わることは出来なかった。命の営みを紡ぐ事は叶わなかった。
しかしあの時、私は彼女との間に、揺るぎない真実を感じていた。誰の理解も見解もいらない。確かに我々は愛し合い、求めていた。
生涯の最も輝ける時間、その時私は…生きていた。生きるということがあらゆる細胞にしっかりと行届いていたのだ。命の息吹を感じていた。

彼女は大気に溶けたあとも、この星のとりまく柔らかな風に乗り、今もあの柔らかく優しい手で、この私に触れているのだろうか。

そうあって欲しいと願う。
隣に眠っていたころの彼女の控えめなぬくもりを、昨日の事のように正確に───

2013/08/02