きみとなつまつり
・時季もの(おまつり、花火)
・視点移動混在
たまには連絡せずに突然帰るのもいいと思う、ユマすごく喜ぶと思うわ!
ミカエラがそう言ったので一般的に女性は連絡を怠ると狂乱すると認識していた、と言うと、
されて嬉しい事は、突然の方が効果的な場合もあるのよ。
と人間の心理の不思議な部分をていねいに教えてくれたので、今日はそうして彼女に会いに行ってみた。ディセプティコンの不穏な動きが見られない限り、しばらくは休むことが出来そうだった。照りつける夏の日々、オートボットのつかの間の休息である。
「──オプティマス!?」
玄関を開けた、目の前にいる驚き顔のユマは、見慣れない恰好と、見慣れない髪型だった。
「ど、どうしたの!?」
『休暇だ』
ミカエラが言った通り、普通に連絡をして帰ってきた時よりも驚喜している彼女を見ると、内なる穏やかさを取り戻せる。
今日の笑顔は格別だと思った。だがそれよりも、いつもと違う恰好なのが気になった。
『見たことがない服装だ』
彼女の全身を眺めてみる。ああ、とその言葉に反応したユマは、その場でくるりと回転した。
「浴衣。今日花火大会だから」
『花火大会?』
発せられた言葉をオウム返ししたあと、サーチをかけた。
「でも友達とちゃんと約束してたわけでもなくて予定もなかったんだけど、浴衣を久しぶりにクローゼットから出したら、着てみたくなって」
『似合う』
穏やかにそう言うと、彼女はじんわりと、柔らかく笑った。
ゆっくり抱き締める。
「おかえり」
『ああ』
頷ける幸せをかみしめていると、彼女が、あ、と思いついたように見上げてきた。
「行こっか、一緒に」
『ん?』
「花火大会」
─Sparkler─
キッチン用の小さな踏み台が、まさかこんな時に役に立つとは思わなかった。オプティマスくらい背が高くなると、浴衣を着せるのは大変だ。
『着方さえ教えてくれるなら、自分で着るが』
簡易に素材や形をスキャンすれば造作ない、と言ってきたオプティマスに、首を振った。
「着せたいんだよ。少しだけ、ここをかかとで踏んづけて」
オプティマスは下を見ずに完璧に踏んづけた。
「こうしてればつんつるてんにならないからね」
『ツンツルテン?』
オプティマスの発音に、思わずぶっ、吹き出した。
「服の丈が短くて恰好悪いこと」
『なるほど』
ひとしきり笑い、着付けを続ける。
「…みんな元気?」
オプティマスは一瞬考えて、ゆっくり答えた。
『ああ。勇敢に戦ってくれている』
「そっか。あんまり無理しないように伝えてね。あ、でもそうも言ってられないか」
と大真面目にため息をついた、いつも他人のことばかりを気にする彼女に苦笑した。
『君は?』
「ん?」
きょとんとして見上げてくるユマの髪にふれる。
『元気だったか?』
会ったのは、1ヶ月ぶり。ディエゴガルシアから抜けることが出来なかった。
「うん、元気元気!!もうモリモリよ!」
にこりとして、両腕を上げた彼女に、ふ、と笑った。けれど彼女は、すぐ眉を下げて、今にも泣きそうな顔をした。
「でもあいたかった」
きゅ、と帯を締めながら、そう言った彼女は寂しげで、そう言われただけでキスをしたくなり、引き寄せてそうした。
『いつも寂しい思いをさせてすまない』
唇を離した後そう言うと、ユマは、大丈夫、とだけ言って、帯を締める作業を再開した。
「よし、出来上がり」
藍青色の浴衣が、よく似合うひとだと、ユマは思う。
「やっぱり背も高いからばっちりきまるね!」
ユマが笑った。
二人で出かけるのは珍しいと言った彼女に、確かにそうだなと、頷いた。
「曇ってるね」
宵の道を、手をつないで歩きながら、空を見上げため息をついたユマを見た。
『雲が覆っていると何か問題があるのか?』
ん、と言って、
「花火が綺麗に見えないかもしれない」
と答えたユマに、
『それは残念だが、共に過ごせるからまあ良しとしよう』
というと、
「うん、まさか一緒に行けるとは思わなかったから、ほんと、気の利いたこと言えないけど、すごく今幸せだよ」
とごく自然に笑ったユマは、どの角度から見てもいつもと違った。
『本当によく似合う』
「褒めても何も出ないよー」
頬を赤らめて笑うユマは、格別なのだ。彼女は、誰にも譲りたくない、自分だけの自由。
『すまない、何か出してもらいたくて言ったわけでは、』
「うん、わかってる、大丈夫だから」
あはは、と笑うユマに、首を傾げた。
しばらく歩いていて気がついた、人の流れ。行き交う人は多いけれど、祭りの方向へ行く人々よりも、明らかにこちらに向かってくる人の方が多い。
「残念だったなあ」
「中止だってよ」
「今にも降りそうだしね」
そんな会話が、行き交う人々のざわめきの中から、聞こえた。
「…オプティマス、これって…」
ユマが人の流れを眺めてそう呟いた時、ぽしゃん、と肩に滴が落ちた音がした。
「へッ!?」
『……』
驚いて肩を眺めているうちに、人々も降り出した!急いで帰ろう!と口々にかけだした。
『どうやら…』
滴の落ちる間隔が短くなっていく。
『雨だ』
「…まあじで…」
彼女に似合わない落胆した言葉に、オプティマスが眉を下げて微笑み、彼女の髪が濡れないように手で覆ったが、オプティマスの手の大きさでも、間に合わないほどに、雨が降る間隔が短くなっていった。
『帰るか』
「…がっかり…」
もときた道を歩き出したユマを、オプティマスは引っ張った。歩いて帰れない距離ではないのは分かるが、人通りのない場所へ彼女を引っ張っていき、トランスフォームする。
『この方が早い』
かちゃり、とユマが運転席のドアを開けて、頷いた。浴衣の裾を引っ張り上げて下駄と足が見えたとき、急に抱きたくなった。
帰宅して、結局その間に雨は止んでしまっていた。庭に続く窓を開けて、落ち込んだ瞳は寂しそうに外を眺めていた。
「あー…、オプティマスと見たかったなあ、」
振り向いて、ね、と言ったユマを、後ろから抱き締める。
『来年でもいい』
腕の中にある、いつもと違う憂いのある瞳を、ただただ見下ろして様子を窺っていると、ユマはまた思いついたようにするりと腕を抜け出した。
「ちょっと待ってオプティマス!!私に…」
元気を取り戻した瞳をまっすぐに向けるユマは、本当に表情が忙しい。
『なんだ』
企みを含む笑みを見せた彼女は、自分がよく使う言葉を口にした。
「…私にいい考えがあるの」
駆けだしたユマは、クローゼットの横にある物置をあさりだした。
「多分去年のが」
ほどなくして、
「あった───!!!!」
と取り出したものは、
『?なんだこれは』
紙を細長く丸めたような棒がいくつも連なった袋を得意げに見せてきた彼女は、子供のように無邪気に笑っている。
「待ってて、ライター、あるかな」
せわしくぱたぱたと部屋中を歩き回り、ライターを探してきた彼女が、庭側の窓から外に出た。それをゆっくり追いかける。
『ユマ、これは…』
「はい、こっちを持って」
渡されたとても細い棒に、ユマが火を近づける。
「小さいけど、綺麗なんだよ」
手に持った棒の先で、ちりっ、と音がする。
火薬を消化しだした音だった。ユマが嬉しそうに笑う。
『これは?』
「線香花火。去年の余り物だからどうかなと思ったけど、良かった、ついて」
ちりちりとお互いの手元にある線香花火は燃えている。ゆっくりと、けれど穏やかに、それでいて小さな粒は、激しく。
『これも夏の風物詩、か』
「そうそう」
しゃがんでそれを眺めている時間に、何の意味があるのかというのをオプティマスはいまいち理解できないものの、忙しかった彼女の表情が眠る前のように穏やかになったのに気づいて、安堵した。
『季節があるというのはいいものだな』
「なかった?」
『ああ』
「お祭りとかは?ないかな」
『文化を嗜むという事を好んでいる者は勿論居たが、遠い記憶だ。定義が不明だ、君の言うものと合致するかどうかは、わからない』
ただオプティマスは、線香花火の核を、どこか遠い所を見るような目で、見てそう言った。
「そっか」
ユマも線香花火に視線を戻す。
「でも、たまにはこんな何も考えない時間が、オプティマスには要るよ」
『?』
「いつも司令官だし、いつもみんなの事考えなきゃだし、いつも何かを守ってると、疲れるでしょ。たまには息抜きしなきゃ。自分のこと大事にする時間」
ジリジリ、とわずかな光になったユマの方の花火の核が、鳴った。
「あ、」
ぽと、と雨で濡れた地面に落ちて、しゅわ、と灰色になった。
「早死にした」
ポカンとそう言って笑いかけてきたユマを、なぜか今、たまらなくなり引き寄せた。
『私が私で在る場所は、最初で最後、君だけだ』
オプティマスは線香花火をいつの間にか放っていた。抱き寄せられた彼の背中の向こうで、その花火がしゅわ、と地面にとけた音がした。
『君に寂しい思いをさせ続けるかもしれない。だが私には君が必要だ、これまでも、この先も』
切羽詰まったオプティマスの低い声は切なくて、急に目頭が熱くなった。
『どうか遠くへ行かないでくれ』
当たり前だよ、
「オプティマス、」
『私の傍にいてくれ』
他にどこに行けばいいか分からないくらい、好きになっちゃったから
「うん」
ふたりだけの
ささやかで 穏やかな
なつまつり
何もいらないから
今夜も 私を
抱いてくれますか
09/09/09
アンケート1位 司令官!
6万打企画
「きみとなつまつり」了.
(ありがとうございました!!)
ささやかで 穏やかな
なつまつり
何もいらないから
今夜も 私を
抱いてくれますか
09/09/09
アンケート1位 司令官!
6万打企画
「きみとなつまつり」了.
(ありがとうございました!!)