実写/オプティマス | ナノ
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Distance

・一作目後
・リベンジ等の前知識なく、GOY規準で考えたお話なのでご了承ください




12月の太陽は、遠い。別に太陽の位置は自分と空の距離と関係ないとは分かっていても、夏に比べて、宇宙に近くなった気がしていた。
そんな慰めは気休めだろうか。
ユマはオプティマスに会えなくなって、もう2ヵ月になる。
オプティマスは、彼らの母なる星であるサイバトロン星のコアであるオールスパークと呼ばれる資源を失い、新たな資源を求めていた。故郷を再生するきっかけを見つけるために、常に動き続ける惑星の動きに合わせ、定期的に探索に向かっていた。
ほんの2ヶ月前まで一緒に居た、見上げる程の背の高さと、頭をすっぽりと包んでしまう大きな手。
地球のどこに行っても今は彼には会えなかった。
彼は今、地球にいない。

『もっと笑顔をよく見せてくれ、しばらく見納めだ』

そう言って頬を包んでくれたあの温かい手の感触だけ、はっきりと覚えている。
ユマは空を見上げた。何処を見れば、彼に向くのかいつも知りたかった。


─アーク号─

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Dear:オプティマス

お元気ですか?
ちゃんと送れていますように。
探索、どうですか?進んでいますか?
今、地球は一年の終わり、12月です。
朝も昼もないそちらは、寒くはないですか?(サイバトロン星の人って寒いとか暑いとか感じるのかな)
地球は今とっても寒いです。コートを出しました。もうすぐ、クリスマスです。知ってるかな?クリスマス。
いつ帰ってこれそうですか?
くれぐれも怪我とかしないように気をつけてください。心配です
みんなにも宜しく伝えて下さい。

P.S今回添付した画像は、友達の赤ちゃん。抱っこして撮ってもらったの。11月の末に産まれました。私にもこんな時代があったんだよ(こんなに可愛くはないけど)


ユマ.xxx


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オプティマスは司令室にあるパネルの一つに、データを移した。再生させた人間の赤ん坊の画像を拡大させる。
司令室にちょうど入ってきたジャズが、

『なんだ、そりゃ』

とかなり間の抜けた声を出したので、オプティマスは振り返った。

『人間の産まれたばかりの姿だそうだ』

オプティマスはじっと画像を見つめて答えた。

『ユマの添付メール?』

ジャズの問いに頷いたオプティマスは、

『地球時間で換算した場合、地球を離れて2ヶ月になるらしいな』

と答えた。

『…寂しいんじゃねぇのか』

ジャズは、画像を見ながら呟いた。オプティマスは画像を消すと、

『彼女は強い』

と一言、言った。
まぁ…とジャズは呟いて、

『俺達の考える1日と、人間の考える1日は違うって事を言いたかっただけだ』

と付け加えた。

『と、いうと?』

オプティマスが顔を上げた。

『言葉のまんまの意味ですよ』

ジャズの答えた声とほぼ同じ瞬間に、メインルームのラチェットの通信が入る。

『─オプティマス、問題が発生した─』

間髪入れずに、ジャズがラチェットに皮肉めいた返事を返した。

『─そうじゃないことなんてあんのか?俺なんて、問題の無いときはショートサーキットに切り替えてるくらいだ─』

ラチェットがすぐに応じた。

『─面白いな、だが私はいたって真面目に言ってるんだ─』

生き残ったのはたった5体でも、軍隊だ。もう誰か一体でも欠けると致命的なこの状況で、自分たちを支えるのは、この巨大な輸送船と、自分自身でしかないのだ。

『ラチェット、了解した。すぐそちらへ向かおう』

オプティマスは司令室を出た。





仕事から帰ったユマが家に入ってまずする事。パソコンを起動させる。
最初はオプティマスからメールが来たのがきっかけだった。信じられない気持ちを抑えて、受信メールを開いた時の感動を覚えている。
ユマは、オプティマスから届いた宇宙の果てからのメールを、何度も繰り返し読んだ。
最初のメール。

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ユマ

通信状況、良好だ。其方の言語に切替出来るようにした。
時間が出来れば、またこうしてメッセージを送りたいと思っている。
調べていた惑星は、我々の星と同じく荒廃した星だった。単純な炭素分子からなる有機体は見つけられたものの、やはり求めているようなものはそう簡単に見つかるものではないと実感した。また次の星に移らねばならない。

どうしている?
記録装置の再生機能がショートしそうだ。何度も君の声を再生している。
早く本当の声が聞きたい。

Optimus Prime


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本当に本当に、オプティマス!?


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本当に、本当に、私だ。

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やり取りは、もう15通程になった。
受信するのは夜中だったり、明朝だったりする。寂しさを堪える事が出来るのは、このやり取りがあるからだと、改めて思った。
メールが途絶えて3日。やっと新しいメッセージを受信した。思わず顔が綻ぶ。


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ユマ

産まれたばかりの君の友の子供を見た。
感想だが、未完成だ、と思った。あんな時代が君にあったとは何とも不思議なこともあるものだ。想像が出来ない、こんな事は初めてだ。
質問の答えだが、察している通り我々と君達では感覚が違う。地球にいて熱や冷気を感じ影響を受けることはなかった。それよりも、空の色が変わる事に感動した。
地球は素晴らしい星だ。
分からない単語があった。クリスマスだ。我々のデータにはない言葉だ。何の事を指すのか知りたい。

追伸
赤ん坊を抱いて写る君ばかり見てしまった。髪が伸びたようだな。

Optimus


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ユマはキーボードをたたいた。
彼の新たな一面ばかりが見えて新鮮だった。


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Dear:オプティマス

今回も、ちゃんと届いていますように…!
クリスマスは、この地球で最も信者の多い宗教の指導者の生誕を祝う祭典です。
サンタクロースと呼ばれるおじいさんが、子供達にプレゼントを配ったり、家族で一緒に過ごしたり、礼拝堂へ行ったり、決まったしきたりはあるものの、みんなそれぞれ過ごし方は違うんだよ。今年は出会って初めてのクリスマスだから一緒に過ごしたかったけど、こうしてメッセージを貰えれば幸せだから、頑張れそう。
探索頑張ってください。
怪我とか、しないでくださいね。


P.S.一応、サンタクロースの画像貼っておきます。赤い服が特徴です。(私の元に本物が来たことはまだないんだけど)

オプティマス、大好き。



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写っていた丸い老人を眺めた。ずいぶんお人好しな老人だな、と思った。
大好き、という文をなぞる。
インプットしている彼女の肌の感触を思い出した。自分の名前を、穏やかに柔らかく呼ぶ声。

『─オプティマス、敵だ!─』

アイアンハイドの声に笑顔が消される。立ち上がった。







小さなツリーを買った。普段は取り立ててクリスマスの準備をする事はなかったユマだったが、オプティマスにツリーを見て欲しくなった。宇宙にいる彼が、少しでも第二の故郷を感じてくれるように。

クリスマスの一週間前。
綺麗に飾りをつけた膝くらいまでの高さしかないツリーを、デジタルカメラにおさめた。
ツリーは二人がいつも使うホームシアターを設置した部屋の、一番隅へ置いた。

クリスマスツリーの写真を送った日から、全く返信が来なくなった。もう5日は経つ。オプティマスの身に何かあったのではないかと、心配になった。寂しさと不安だけが、降り積もっていく。
クリスマス商戦の真っ只中の世の中に巻き込まれて、出会って最初のクリスマスは、仕事三昧であと6時間で終わろうとしていた。
もしかしたら帰ってきてくれるだろうかという期待は、あっさりと裏切られてしまった。
帰り道、街行く人達は自分以外はみんな幸せに見えた。
宇宙に飛び立ってしまった彼に、もう一生会えない気がした。
あとどれぐらい待てばいいのだろう。

家に着く。
どんなに疲れ切っていても、パソコンだけは開いた。
けれどもやはり、メールは着ていなかった。

ホームシアターを設置している部屋の扉を開けた。電気をつけずに、肩を落として、室内を歩く。此処にくればいくらか気持ちが紛れた。
この場所にいるオプティマスと自分なら、容易に想像できた。
ソファーは毎日埃を取って、部屋には毎朝掃除機をかけた。
オプティマスがいつ帰ってきてもいいように。

けれど、もうほとんど限界だった。メールは、いつも本当の気持ちを書けなかった。本音は、探索の邪魔になりかねない事しか思い浮かばなかった。

「声が聞きたい。
会いたい。
帰ってきて。
寂しい。
苦しい。
抱いて。
キスして。
体に触れて。
探査になんか行かないで。会いたくて死んじゃう」

思い浮かぶ単語を呟きながら、自分の愚かで依存した気持ちに幾度となく気づいて、涙が出てきた。背負うものが多い彼は、言ったら責任を感じて帰ってこようとするだろう。それはいやだった。
邪魔を、したくない。

泣き崩れながら、その場にへたり込んで、鼻を啜った。窓際はひんやりしていて、外の冷気を少しずつ吸い込んでいるのが分かった。

カーテンが閉まりきれてない部分に手を伸ばして、きちんと閉めようとしたユマの、手が止まる。

「……?」

カーテンの隙間から見えたのは、倒れた、ブロック。

「?」

不信に思い、もっとよく見ようとカーテンを開けた。庭全体が、嵐が去った後のように滅茶苦茶になっていた。

「………!!」

ユマの胸は早鐘を打ち始める。この光景には見覚えがあった。しかも、幾度も。

…帰ってきている。
間違いなく彼が帰ってきている。

ユマは辺りを見回した。ホームシアターの部屋を出て、急ぐあまりもつれそうな足をなんとか地面につけて、家中を探した。

涙が沢山出る。

「オプティマス!!」

返事はない。庭へ向かった。やはりここにもいなかった。

「オプティマス…どこ…」

部屋を隈無く探した。キッチンも、バスルームも。けれどどこにもいなかった。
また、ホームシアターのある部屋の扉を力無く開ける。ただの庭荒らしだったのか。余計寂しくなった。
ぼうっとした光に気がついて、ユマは顔を上げた。
部屋の周りには、無数の、キャンドルが光る。
状況が飲み込めずにまばたきを何度もするユマがホームシアターの部屋に足を踏み入れた瞬間、どうしようも懐かしい声がした。

『さっきから此処にいるのに、なぜ気づかなかった?』

最後のキャンドルを灯し終えたオプティマスはすっと立ち上がって、ユマを見た。
穏やかな光が彼をうつしているにも関わらず、遮光カーテンも手伝って曖昧にしか表情が窺えなかった。

「オプティマス…」

近づいてくる長身の彼は確実にオプティマスだった。夢を見ているようだった。

『久しぶりだな』

穏やかな笑顔が見えて、溜まらずに抱きついた。力強く抱き締められたのと、ほぼ同じ瞬間に。
会いたかった。

『…会いたかった』

オプティマスが気持ちを抑えるとき、ほんの少しだけ声が低くなる。その癖を知っていた。

「良かった…無事に帰ってきてくれて…」
『髪が伸びたな』

そう言って指で優しく髪をなぞったオプティマスに、

「いつからいたの?」

とユマが聞くと、

『君が最初にここに入ってきた時には既に居た』

とあっさりとオプティマスは答えた。

「…………」
『なんだ』
「電気くらいつけようよ」

はあ、とため息混じりにユマが返した。

『ああ…すまない、照明をつける癖がない。それから…庭の件だが…本当に悪かった、うっかりしていた』

そう真面目に返したオプティマスに、またユマは抱きついた。

「久しぶりにこの格好になったんでしょ?今日は許してあげる。クリスマスだから」
『…クリスマス、願い事を叶える日か』
「ううん、叶う日。調べたの?」
『ジャズから聞いた。キャンドルで演出するといいという、アドバイス付でな』

オプティマスの回答に、ユマが小さく微笑んだ。

『ユマの願い事は』

そう言ってオプティマスはユマを見つめた。

「叶った。会いたかったから」

そう言ってにっこり笑ったユマに、オプティマスが首を傾げた。その表情に今度はユマが首を傾げて、

「え、何か変?」

と聞いた。

『"抱いて。
キスして。
体に触れて。"
まだこれだけ残っているぞ』

まばたきを何度もして赤面するユマに、オプティマスは真面目に、

『ひとつひとつ叶えてやろう、何からがいい?』

とユマ見つめて聞いた。

「き、聞いてたの?わざとでしょ!電気つけなかったのわざとでしょ!!」

赤面しじたばたするユマをオプティマスはしっかりと力強く抱き締めた。
ユマは、一瞬で黙った。

『会えなかった分の日々を取り戻したい。君達と我々が感じる1日の長さは違うらしいからな』

その言葉に、ユマはまた涙ぐんだ。優しさが伝わる。

『…私にどうして、欲しい?』

青い瞳を独占しているユマは、オプティマスのその眼差しを一心に受けて、彼の両頬に、手を差し入れた。

「ぜんぶ、ほしい…」

オプティマスが部屋のドアを閉めると、全ての光が遮断され、キャンドルの光だけが部屋を灯した。
ホームシアターに二人きりで閉じ込められたような気持ちになった。

それが至上の幸せであると噛みしめたのは、6秒後。

ソファーの上で2ヶ月分の愛を一心に受けた。

生まれて初めて、クリスマスにサンタさんはやってきた。子供の頃想像していたそれよりも、ずっとロマンチックだった。


青い目をして、プレゼントのたびに庭を壊す、遠い星の、赤と青のサンタさん。

2008/12/25
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