実写/ジャズ | ナノ
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いつもの日曜日



明日も
太陽がのぼりますように

明日も
目が覚めたときに
きみがとなりにいますように

なにもかわらない
きみと過ごす
明日がきますように



『いつもの日曜日』
-Jazz編-




ジャズはユマの部屋の入口で、ノブを回す。
がごん、と鈍い音がして、納得のいかないところで、ノブが止まる。
鍵がかかっていた。

『…………』

ポケットに入っていたキーを出す。
ストラップをつけるホールには、ホワイトにシルバーのギンガムチェックが入った小さなリボンが結びつけてある。ジャズの装甲と同じ色をしたユマの部屋を開けるキーは、彼女がくれたものだ。

いつでも来てね、
だとか、
勝手に入って大丈夫だからね、
だとか、
渡される時に言われた。
去年のクリスマスにくれたものだ。
ジャズはこのプレゼントを心底気に入っている。シルバーのギンガムチェックのリボンを探すのに苦労した、と言っていた時のユマの赤い顔は、いつまでもきっとメモリーに残るし、いつもは冷静なジャズの判断能力や分析回路をどうにかしてしまいそうだった(実際にどうにかなっちまったんだが)。
だからこそ、贈られたままの、この小さなラッピングがついたままの状態で、鍵を持っている。
かちゃ、とすっきりする音がして、ノブがそれまで到達することのなかった場所まで降りていき、扉が開く。
寝室で生体反応。
…寝てるな。
予想どおり、その眉を下げて、抱きたい放題抱き枕を抱きしめて、パジャマのボトムは膝まで捲れ上がった子供のような寝相のユマが、すうすうと寝息を立てている。
思わず、ジャズの眦もさがる。
とりあえず、気持ちよさそうに寝ている彼女を起こすのに気が引けて、ベッドのわずかに空いている縁に腰掛けた。
…………
だが悪戯したくなるというのが俺だ。

『ユマー』

鼻をつまむ。
無反応。

『…おいっ』

ぺいっ、と額を軽くたたいてみる。

「……う」

いつもの三分の一しか開いていない彼女の目に吹き出し寸前になりながらも、ちょっと怒っている風に、厳粛な雰囲気を出す。

『もう11時だぞ』

本当は8時だが。

「…………」

一本線をひいたようなユマのまぶたが、心底あわてふためいて開かれる。

「う、うそ!ご、ごめんね!本当ごめん!」

すぐ準備するから!とベッドを飛び出したユマは、寝起きでかなりふらふらしている。
ジャズは可笑しさをぐっとこらえる。

『ああ、早くしろよ』

そっけなくそう言って、ああ〜、と背を伸ばし、彼女の温もりと香りが残るベッドへ寝転がる。
人間ってほんとあったかい。
くつろいで寝転がっていると、ユマがちょっとむくれて戻ってきた。着替えてはいるものの、まだメイクはしていないようだった。しなくてもいいから別にいいんだが。彼女の雰囲気に合った、柔らかくて薄手のニットに、スキニーを履いている。

『うん、似合うな』

一瞬だけ表情が困惑したように赤くなって、それから、またすぐにむくれ顔に戻る。

『どうした』
「…まだ8時じゃん」
『今日も元気に二時間前行動だ』
「早いよ!!」
『まあ、いいじゃねえか』

むくれてメイクボックスを持って寝室を出ようとした彼女の腕を掴む。

「あ」

ベッドに引き込んで、頬に手を差し入れる。
少しはにかんだけれど、快くそれを受け入れてくれたしるしに、頬に差し入れたジャズの手を、ユマの手が包んだ。
ジャズの手のひらの感触を味わうようにややかぶりを捻ったユマが、気持ちよさそうな顔をして、

「化粧する、待っててくれる?」

と言う。

『今日は映画に行こう』

そう言うと、本当に嬉しそうに頷いたので、思わず跨った彼女を引き寄せて抱き締めた。





日曜日の街を歩く。
手をつないで、モールを歩いて。
ジャズが興味を持ったものすべてに、丁寧にユマがこたえる。
ジャズはとにかく知らない文化にふれたりするのが大好きだと知っているから、自然と質問が増えても、ユマは嫌な顔ひとつせず、とにかくこれは何に使うものだ、と教えてくれる。
彼女しかしてくれない、特別な事だと思えるのは幸せだ。
こうやって、ずっと一緒に、生きていけたらいいのにな。

「え?」

日曜日の喧騒にかき消されたジャズの呟きを、ユマは聞き返した。
見上げてくるその眼差しは、きれいに睫があがっていて、朝よりも瞳が大きく見える。

『…すっぴんでもよかったのに』
「ん?」

どういう意味?と言いながら笑うユマは、笑顔が最高。
横で見る笑顔も最高。

『すっぴんでも充分いけるってことだ』

あらそう?とおちゃらけた彼女の体を引き寄せて、隣を歩いて。
こうやって少しずつ、距離を縮めていけたらいい。
そんないつもの、日曜日。

2008 logdesu