実写/バンブルビー | ナノ
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『ユマ、此処は?』

バンブルビーは、一際大きなツリーのあるショッピングモールを検索し、ユマに見せてきた。

「綺麗!!でも本当にどこでもいいよ、クリスマスのデートはだいたいどこも混んでるし、でもどこでもイルミネーションは綺麗だよ」

ユマは柔らかい笑顔で、まつげを上げながら答えた。
12月24日、夕方。
休みを取って出掛けようと言ったバンブルビーに、ユマは従った。イブの公休希望を出すのは、それだけで勇気のいる行為だった。でもそのお陰で、こうしてデートの行き先を決めるだけでわくわくするような、幸せな時間を過ごせる。

『まだ睫毛上げてるの?』

呆れたような声に、ごめんね、と軽く謝った。普段しない化粧を、今日は控えめにやってみた。けれど左まつげだけが上手く上がらない。

『イルミネーションを見た後は、買い物だっけ』

そう言ってバンブルビーは、色の抜けた淡いクリーム色の髪を、鏡の前でちょんとはねさせた。これ、どう?と言わんばかりにユマを鏡越しに見る。それに気づいたユマは、うーん、と困ったように首を傾げた後、

「部屋に飾る小さいツリーを探して、今日は早めに帰ってこようよ、ケーキも今朝焼いたの食べたいし」

と答えた。





磨かれたようにピカピカの鮮やかなイエローのカマロに乗り込み、ユマはハンドルを握る。バンブルビーはエンジンを噴かせて走り出した。
走りながら景色を二人で楽しんだ。街は煌めき、イルミネーションが目立ち始める。周りは、楽しそうな恋人や、家族でいっぱいだった。

『こういう雰囲気は好きだよ』

バンブルビーが静かにカーステレオから声を出した。

「うん」

宛てもなく走り出したいつも通りのデートに、やっぱりいつも通りかなぁと二人で笑う。
ふとバンブルビーは、横切った沢山のキャンドル群をアイセンサーに捉えた。

『今のは?』
「え?」

バンブルビーはUターンして先程のキャンドル群が見えている細道へと入っていった。なぜこんなに小回りがきくのだろうと思うくらい、すいすいと入っていく。

「なにを見つけたの?」

不思議そうにカーステレオを見つめるユマに、バンブルビーは

『あれは…』

と言って止まった。

「うわあ……」

小さな教会の入口に飾られているのは、無数のキャンドルで飾られたクリスマスツリー。

『目的地が決まったね。中に入ってもいいのかな?』

バンブルビーはそう言うと、扉を指さした。

「うん、多分…」

バンブルビーが静かに入口の扉を開ける。
規則正しい長椅子がサイドに並び、静かに牧師がクリスマスを説いている。
流れる静かな音楽に、二人は邪魔にならないよう一番手前の席を選んだ。

『此処、何をする所?』

小さな小さな声でユマの顔に口元を近づけて、バンブルビーは尋ねた。

「ここは教会って言って、もともとは信者の人達が礼拝に使う場所なんだけど、信者じゃなくても解放してあって、誰でもこうして入ることが出来るの。儀式をする場所、って言えばいいのかな?結婚式とか、あ、結婚はわかる?」

ユマも周りに気を使いながら小さな声で説明をした。バンブルビーは、彼女が並べた言葉全てにサーチをかけた。
周りを囲むキャンドルが幻想的で見とれる。バンブルビーは横で、手を握ってきた。それに気づいたユマは、手を握り返す。

『歴史に残すべき場所だね』

牧師を見ながら、バンブルビーは言う。

『全ての希望が失われる時、とかそんな時は来ないに越したことはないんだけど、路頭に迷うと思うんだ。戦う術がない人、弱い者を守らなくちゃならない人なんか特に』
「うん」
『何かに直面したとき、信じる何かが必要だよ、支えになるような』

ユマは黙ってバンブルビーを見つめる。バンブルビーは握っていた手を離して、祈るよう手を組んだ。

『俺には必要ないけど、ユマの分、一緒に願っておくね』
「………うん」

言葉の全てを曖昧にしか飲み込めなかったユマは、バンブルビーを見ながら、ただ頷く事しかできなかった。





幻想的な演出に見とれて、大幅に時間をオーバーしながらもギリギリに買い物に行ける時間に教会を出た。
近くのショッピングモールで、小さなツリーと、売れ残ったへんてこなサンタクロースがくっついた、ツリー用の飾りをいくつか買った。
閉店まで、あと20分。
手を繋いで、人気のない駐車場を、歩く。
トランスフォームしたバンブルビーは、ユマに

『帰ろう』

と言って、ドアを開ける。

「楽しかったね」

穏やかにユマはそう言うと、カマロに乗り込んだ。





夕食のあと、作ったケーキをぐちゃぐちゃに切ったバンブルビーに、ユマが笑って文句を言いながら、仕方なさそうに皿に盛る。
キッチンで、それを食べさせ合いしながら、顔の周りについたクリームにお互い笑う。
笑顔がふと止まり、お互い、引き寄せられるように唇を重ねる。

『……』
「……」
『最高』
「!」

含み笑いをして、バンブルビーは今度は息をするように自然に、キスをした。
甘かった。





穏やかな夜をゆっくり過ごして、日付が変わる頃、約束をしていたプレゼント交換の時間がきた。
ユマは自信がなかった。出来れば先にあげたい。
寝室のクローゼットから、ラッピングした小さな小箱を出して、パジャマ姿のユマはベッドで胡座をかいて待つバンブルビーに、

「ごめんね、本当につまらないものな気がする」

と言って手渡した。
青くて丸い目が、

『なんでそんなこと』

と大きく見開かれた。
バンブルビーが大きな手で、開けにくそうにリボンを解いて、小箱を開けた。
小さな、フェルト生地で作られた、まるはなばちだった。

『これは?』

にっこりしながら、バンブルビーは、ユマに問いかけた。

「お守り、作ったの。あんまり上手じゃないけど…一応中にちゃんと"祈願成就"の願いが込められた石が入ってるんだよ。あ、お、オールスパークに代わる資源が見つかるようにってことと、えーとあと、偵察先で怪我をしないように、あ、それから必要ないかもしれないけど、交通安全の石も一応…」

懸命に説明する彼女をたまらずに抱き締めた。

『もう、ほーんと、…なんなんだよ!』

抱き締められた感触と、その言葉に、思わず赤面して言葉を失った。ユマを引き離してバンブルビーは、

『でも俺の方のプレゼントが…なんか自信なくなってきた』
「なんでそんなこというの?」

今度は、ユマがバンブルビーの言葉を繰り返した。

『こんなラッピングするとか、おいら知らなかったから』
「?」
『プレゼントがむき出しなんだ』

こういうのリサーチしたりあんまりしないんだよ、と困ったように笑ったバンブルビーに、
ユマは微笑んで、

「どうでもいいよラッピングは」

と目を細めた。

『…うーん、よし。じゃあ…
…"宇宙艦隊からメッセージです"…"始めようぜ!"…』

突然の得意の演出にユマは、声を出して笑った。
ベッドに座って向き合う二人が、互いに見つめ合う。

『…"あなたは"…』
「?」
『…"君のガードマン、バンブルビー"…"常に"…"彼を愛してるの!"…』

オプティマスの声や、ラジオドラマの継ぎ接ぎが続くので、ユマはほほえみながらも、何度もまばたきした。

『…"顔がふやけて力が出ない"…"そんな時も"…"元気100倍!!"…"どんな時も"…"この命、燃え尽きるまで!!"…"愛する事を"…
───誓ってくれる?』

バンブルビーが手のひらを見せる。大きな手に不釣り合いな、シルバーの小さな指輪が乗っていた。咄嗟に反応出来ないユマが、大きく目を開いて、バンブルビーを見た。

『…こうやって永遠を誓うんだよね?俺はこの星の生物じゃないから』

ユマの左手を取って、薬指にその指輪をはめながら、バンブルビーは続けた。
涙が溜まる。

『何にも印がある約束なんて出来ないんだけど、守るよ。俺が、あらゆることから、ユマを』

ユマはバンブルビーを抱き締める。
誓いの、キスをした。
言葉なんて、要らなかった。


あなたが見てきた
惑星の数よりも
たくさんのキスをして
あなたという
宇宙一素敵なクリスマスプレゼント

2008.12.24