実写/バンブルビー | ナノ
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その時彼女はいない

たとえば故郷を思い出す時
君と出会う前は ただ懐かしむだけ
それが今となっては
生まれた星の銀色を
君にも見せてあげたいと思うんだ
(俺の場合はあんまり綺麗な銀色の記憶はないけど)
この思いに名前があるとしたら
どの宇宙にもあるのか分からないが
それこそが───



その時彼女はいない
───バンブルビー編───



「上だ!」
───バンブルビー、俺が手を貸してやる!飛べ!

レノックスが上空のディセプティコンに気がついたのと、アイアンハイドが通信をしてきたのはほぼ同時である。
体を敵のもとまで飛ばしてくれようとしているアイアンハイドはオートボットの精鋭のなかでは確かに怪力だが、出来るだけ負荷を軽減させる為に接合部を走りながら軽量化させ、ギアを切り替える。その間に、右から全速力で走ってくる勇気ある別のディセプティコンへ賞賛の一発。その勇気を讃えよう。しかし悪いね、勇気のスペックは俺の方が上だ。
アイアンハイドに着地!オプティマス、俺、鳥になってきます!!せー…

『いけ!バンブルビー!!!』

…のっ!!!
ふわりと体が浮きあがり、勢いがつき10m、…20m、25…27…

『───ワォ…』

目の前の夜景に思わず声が少し出る。
も、ものすごくいい眺めだ───!
ハイこの思い出の一枚、スクリーンショット!撮ります撮ります!あとでユマに見せよう!
地球、さいっっっこ──────!!
そして敵には派手に一発!

『───”Say Goodbye to Earth.”』

プラズマキャノンが正確に相手のスパークを貫いた!と思ったが、思ったより敵は頑丈だった。思い切り負荷をかけて体をかぶせてきた。このまま落下すればひどい怪我をしそうだ。この野郎怪我をしたらユマに会う時間が削られるだろ!?ラチェットのラボで休暇を過ごすのは…うえ、最悪!ラチェットに聞かれたら怒りそうだけど…嫌なものは嫌だ。というわけでもう一度脇腹へ…プラズマキャノン!と思ったけど火力で自分も吹っ飛びそうだから必殺!バラバラパーーンチ!脇腹からスパークまで届け!この俺の───最新ナックル!
キューのお手製ナックルは殴ると敵の金属に食い込んでめり込んで0.5秒でどっかん爆発!痛そう!キューって天才だ!
貫かれ、断末魔の叫びをあげて息耐えたディセプティコンに一度だけオールスパークの大赦があるよう祈り、被さっている体を放りなげる。これ、文章にすると長いけど10秒ほどの出来事。あとでユマに話そう。それにしても着地までになんとか間に合ってよかった。
あーでも着地は痛そうだな、砂利だらけじゃないか。地球の石って硬いんだよ。

『おわ、おっと!』

胸が削れた!足が擦れた!顔を擦りむいた!なんのこれしき!これが終わればしばらく休暇!ユマと遊園地!ユマと散歩!ユマとドライブ!ユマと………あーんなことこーんなこと──────!!

『派手な着地だったな』
『…うん、かなりね』
『いい判断だ、なかなかの戦いぶりだった』
『サンクス』

アイアンハイドから褒められるとかなり嬉しい。終わったな、と言いながらキャノン砲を回転させて体内にしまいこんだアイアンハイドを見上げていると、ずいぶん遠いところから味方の人間が操縦するヘリが見えた。

「───よし、帰還するぞ!」

兵士が叫んでいる。アイアンハイドの手を借りて立ち上がる。アイアンハイドに引っ張られた腕と手のジョイントがチリチリと音を立てた。ショートしているみたいだ。自己修復が始まっているが、早く治るかな。早く治さないとユマに触れた時に感電でもしたら大変だ。

『休暇はサムのところへ?』
『ううん、ユマ』
『そうか』

オートボットを輸送する機も到着したようで、向こうの方でジャズとオプティマスがビークルモードに姿を変えながら輸送機の方向へ走り出した。

───オートボット、帰還せよ

オプティマスからの通信がオートボット全員に送られる。これで、ひとまずは一件落着というやつだ。オプティマスの出動という号令で始まり、帰還という号令で終わる。自分がオートボットであることというのは当たり前だが、いつもオプティマスの号令はあらためてそれを再認識させてくれる。号令の重要性は───、つぶされそうになる時や、陽気さを取り戻せなくなる時に、彼が無意識に正義の方向へ軌道修正してくれることにある。
オールスパークに感謝することはふたつ。この時代に生まれ、リーダーがオプティマスプライムであったこと。それから、地球に降りたてたことで本当にいつぶりかは分からないが友達が出来て、守りたい存在が出来たということ。守りたい存在があると、任務にも張り合いが出る。友達がいると、勇気が湧く。そんな当たり前を、この星に来てどれだけ俺は取り戻せたんだろう。ユマに早く会いたい。
そんなことを考えながら輸送機までアイアンハイドと連なって移動している間、一度輸送機に入ってしまっていたジャズが輸送機から出てきた。ラチェットも。

『───ん?』

アイアンハイドが止まった。
次いで止まる。

『───アイアンハイド、バンブルビー!ちょっと足止めだ』

ジャズがこちらに向かって走ってきて、擬装を解いた。
つられてアイアンハイドもロボットモードに戻る。

『どうした』
『負傷者が多いから輸送機が一杯らしい。ビークルモードに戻れん奴が何体かいる』

ジャズが輸送機の方を指差してそう言った。それを聞き、アイアンハイドが腕を組んだ。俺もロボットモードに戻った。

『ああ、なるほど』

たしかに負傷者って場所を取るんだよな。

『もう一機くるまでここで待機だ。その間、怪我が酷い者は優先してラチェットとジョルトが修理する』
『了解』
『”了解です”』
『ああ、バンブルビー』
『───なに?』
『いい戦いっぷりだった。成長したな!』

ジャズに褒められた!嬉しい!力強く頷いてみせた。ユマに報告しなきゃ。

『アイアンハイド、俺にも今度あれやってくれ』

ジャズがアイアンハイドを見上げている。

『む?』
『ジャンプ』
『……』
『おい、何故こいつはよくて俺は駄目なんだ?俺もやりたい』
『絵的に変だろう、それに』
『変?どこが』
『お前だと飛び過ぎる』
『そんなことあるわけないだろう、飛ばせよ』
『……』
『飛ばせ』
『飛びたいなら勝手に飛べ、いくつだお前は』
『あのなぁお前よりも俺の方が───…』

ああ、平和だな…。
平和じゃないけど、地球も内乱は絶えないし、戦争もやってる。
だけど…その間につかの間の平和はある。アイアンハイドとジャズのばかな会話も…平和…。
星空が綺麗だ。
これも、スクリーンショットで撮っておいてあげよう。ユマにスライドショーで見せてあげるのがいいな。
目をきらっきらさせて見るんだろうな。もし今俺が人間なら、ニヤついてるかもしれないな。こういうの想像するのやめよ…
そう思っていたら、すうっと夜の風が吹き抜けた。戦いで熱くなった装甲を、穏やかにクールダウンさせてくれる、地球の夜風だ。

『いーい風だな』

ジャズのバイザーにたくさんの星が写っている。

『…そうだな』

アイアンハイドの黒い身体に写っているのも、幾多の星々。
ほーんと、いい星だな、ここ。
アームジョイントの自己修復が終わった。ギュッと掌を握り、パッと開いた。そこにも穏やかな風は当たっている。この風は…掴めない。写真にも…撮れない。この瞬間を、ユマと分かち合えたら、どんなに───

『……』

いつでもとてつもなく必要だと思っている時に限って、───その時彼女はいない。

『バンブルビー、どうした?』

ジャズの湿度のない穏やかな声に、なんでもないと首を振る。

『お、迎えが来たぞ』

アイアンハイドの声に夜空を見上げると、追加された輸送機が星を隠しながら降りてきた。これに乗って報告が終われば、あの愛しい笑顔に会いに行ける。

───諸君、しばしの休暇を楽しもう

オプティマスの優しくて穏やかな、低い声を受信し、再びビークルモードに戻った。

2014.08.21
シリーズ・その時彼女はいない