ただいまー。その声と共に、ボロボロのままの戸をガラリと開ける。

すると目の前に、出るときには無かった藍色の渋い暖簾が掛けられていて。…アレ、いつの間に用意したんだろう。

「ん。コレお土産」

リビングに入れば寛いでいた銀ちゃんと桂さん。ソファーに横になってジャンプを読む銀ちゃんはスルーして、未だに座布団の上に座っていたエリーにコンビニ袋を手渡した。

なんとなく雰囲気的に、話とやらは済んだ後っぽいので一安心。さすがに30分以上はコンビニにいられない。

漫画立ち読みしてたら凄い視線感じたし。…あんなんじゃ集中して読めないっつーの。

「おーお帰りぃ。アレ?銀さんには?銀さんのイチゴ牛乳は?」
「あるよ、はい。桂さんにはコレ、お〜い緑茶」
「ああ、すまないな」

エリーに渡した袋からそれぞれに買ってきたものを取り出すと、自分に買ってきたホットスナックを口に入れる。

フォーイレブンのビッグアメリカンドック。地球に来て初めて口にした時からハマってます。

「アレ?もしかしてもう神楽ちゃん帰ってき…え、ええ?誰ですか?」

モグモグとアメリカンドックを頬張っていたら白いエプロンを付けた眼鏡の少年がひょっこりと顔を出した。

…さっきまでいなかったのにいつの間に現れたの?え?ていうか、誰ってこっちの台詞なんだけど。

そう言いかけて、あーそうだ、と思い出す。多分この男の子がここの従業員の一人なんだよね。

えーと、桂さんに教えてもらったんだよ名前。なんだっけな…確か。

「ああ、そうそう思い出した。新七くんだ」
「新八だァァア!!」

そうそう。この鋭いツッコミが彼の特徴…って私、彼のこと何にも知らないけどね。桂さんに聞いただけだけどね。

なのに、何でだろう?噂通り地味だからかな…初めて会った気が全然しない。なんかこう、久しぶりに会う旧友のような…

「何だろう…凄く馬鹿にされてる気がする」
「うん、君とは仲良くなれそうな気がする。よろしく、新六くん」
「だから新八だっつってんだろーがァァア!何なのそれわざとなの!?」
「うん」

うん、じゃないよォォオ!ていうか本当に誰ですか!?と、もはや叫び声に近い声を上げて私を見る彼に、銀ちゃんが気怠そうに紹介をしてくれる。ヅラんとこの、あー…なんだ?と。

…アレ?それって説明の内に入んの?

「神無です。桂さんには3食、たまに+αお世話になってます。ヨロシク、新八くん」

銀ちゃんのあまりのテキトーさに呆れて、もう自分で自己紹介することにした。にっこり、笑顔を向けて手を出せば彼はボッと音を立てて顔を真っ赤に染める。…ん?どした?

「よ、よよよろし…」
「…オイ、新八。鼻血出てんぞ」

タラリ、鼻から垂れる赤いもの。私の差し出した手に向かって伸びていた震える彼の手よりも、それをマジマジと見ていたら。

「ウワァァァア!!」

ガラッ!ピシャン!と、あのボロボロの戸をこれでもかと強く開け閉めて、万事屋を出ていってしまった。…あれ、私何かした?

「もしかして、まずかったか…私の自己紹介」
「何でそこ?違うから。ま、気にすんな。アレだ、耐性ねーのアイツ」

耐性?と首を傾げる私の頭に置かれた銀ちゃんの手。ま、許してやってくれや。そう、苦笑しながら言う顔はまるで新八くんのお父さんみたいで。

「…まさか、新八くんって銀ちゃんのこ」
「言わせねーよ」

言いかけて、思いきり叩かれた頭。全然痛くなかったけれどもうちょっと手加減してほしい。完食済みだったアメリカンドッグの串が喉に刺さりそうだったんだけど。

「もう、銀ちゃん叩くことないじゃん」
「悪ィ悪…ぶべらっ!」

もー、お返しだぞ★的なノリで銀ちゃんの頭を(軽く)叩き返す。

するとどうだろう。彼の上半身が床にめり込んでしまったではないか。…どうやら思いの外、私の力が強かったらしい。

「ごめんごめん、そんなにめり込むとは思わなくて」

ぐいっと力任せに引き抜けば顔を真っ青に染めた銀ちゃんが、イイヨと笑っていた。…どうしてカタコトなのかは敢えて突っ込まないでおこうと思う。

「ただいまヨ〜」

その時だ。聞こえてきたのはこのメンバーには似つかわしくない高い少女の声と、犬の鳴き声。トタトタと廊下を歩く軽い足音と、ドスドスと大きな足音がして…それから。

「おー、おけーりー」
「リーダー。定春殿も。久しいな」

銀ちゃんと桂さんが出迎えた先に現れたのは、真っ白の大きな犬と。

「おお、ヅラ。何でウチにいるアルか?また銀ちゃんに…え、」

嫌というほど見飽きた、真っ赤な髪とその青い瞳を覗かせてこちらを凝視する少女が一人。

絶滅危惧種とも言われる、ウチの一族特有の青白い肌と合わせて見れば…嫌でも彼女が誰か、なんて理解して。

…まさか、こんなところで会うなんて。

その手からポトリ、と何かを落とした少女は揺れる瞳に私を映す。

…もう十年近く会っていないのに、分かるものなのか。お互い見た目も変わってしまった。

きっと中身だって…

「…姉ちゃん?」

私を憎み、殺そうとしている彼によく似た青い色。震えた声で私をそう呼ぶ彼女に曖昧な笑顔を返すことしか出来ないのは…何故なのか。

(会いたくなかった、なんて嘘だけど)

end

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