年がら年中、雨でジメジメした星。そこで私は生まれて育った。

治安なんか最悪で確かに良い星ではなかったけど私にとってはそこが故郷。…短いながらも家族と過ごした、その場所が。

(…今はもう、帰る家などないけれど)

ずし、と肩に乗る重みがちょうど良い。愛用している番傘をさして江戸を歩けば燦々と降り注ぐ太陽に目を細める。まるで私の故郷とは真逆のこの星が実は嫌いじゃない。だけど、

「…迷いそう」

三日前、初めてやって来た江戸に少々困惑気味である。今までいた京という街は分かりやすい造りをしていて迷うことなどほぼなくて。

それに比べて江戸は人で混雑している上にあっちこっちに細い路地やら住宅地やら何やらがあって全然分からない。…いや、別に私に土地勘なんてものは必要ないんだろうけども。

突き当たりを右に曲がれば目に入るのは広い大通り。…確か、ここはかぶき町?だったっけ。

何軒も建ち並ぶ家々を見ながら歩いていればポケットの中のものがぶるぶる震える。取り出して確認したら相手は職場の同僚で。

「…なに?私今日は非番なんだけど」
《何言ってんッスか!?非番なんてモン存在しませんよウチには!》
「いや、だって暇だし〜、船の中」
《マジで何言ってんッスかァア!?晋助様がもうカンカンッスよ!勝手に出歩いたりするから!》

キーン!と耳に響く彼女のその声に携帯をこれでもかと離す。そしたら受話器の向こうから、ちょっと!聞いてるんッスか!?とこれまたキンキン声が聞こえてくるから。

「…夜には帰るって高杉に言っといて。あ、それからまた子機嫌取っといて」
《は!?そんなの私が出来るわけ…ってちょっと神無!?オイッ!切るなッス!オイッ!》

勢いよく電源オフボタンを押して無造作に折り畳まれた携帯電話を再びポケットへしまいこむ。…帰ったら高杉よりもまた子からのお説教が待っていそうだけど、ま、次の任務でもちゃちゃっと終わらせば文句は言わないだろう。

彼はそういう人だ。自分の利益でしか動かない。多分私たち全員駒ぐらいにしか思ってないだろう。…まァそれも、鬼兵隊総督っていう重苦しい肩書きと共についてくるオプションなんだと思えば別になんとも思わないけど。

あ、ちなみに私は同僚の彼女のように一心に彼に付いていくと決めて共にいるわけではない。彼の回りは血の気が多い。…血を見ると、己の血が沸き立つ。闘争本能、というやつか。とにかく私の一族はそーいうのが好きらしいのだ。

だから、高杉といる。世界を壊そうと企む彼の隣に。沢山血が流れる場所に。ただ血を、闘いを求めて。…そう。ただ、それだけ。

「…しつこいなァ、また子」

ぶるぶる、再び震えだしたポケットの中身は見て見ぬふり。私の遥か頭上にあるかぶき町一番街と書かれたアーケードをくぐり抜けて傘の合間から空を見上げた。…雲一つない、真っ青な空を。

この空を傘無しで見上げることが出来たなら、私はこんなにも血を求めなかったのかもしれない。…そう思うのは、もうこの世にはいない大好きだった師匠の背中をずっと見てきたからかもしれない。

(…なんて、それこそ馬鹿げてるか)

end

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