江戸で重要な任務とやらに就いてから、今日でちょうど1ヶ月。
…え?桂一派に潜入出来たかって?アハハ、んなわけないじゃんプは時々土曜日に出るから気を付けろマネスク〜。
…ええ。この1ヶ月私はひたすら奇襲から逃れることに精を出してました。
だって桂さんとエリーが何故かバイト中でも奇襲を受け始めてるんだもの。思いきりバズーカ向けられてるんだもの。
本当に江戸って変わったところだと思う。京ではそんな風習ないのに。
「お前それでも人間か♪お前の母ちゃん何人だ♪」
そうそう。変わってるって言えば、この星の音楽ってヤツは変わってると思う。何人だ?ってそんなこと聞くのは野暮ってもんだ。そもそも私の母ちゃんは人じゃない。天人だもの。夜兎族だもの。
「フンフンフーン」
「何だ、神無殿。最近その歌ばかり口ずさんでいるが気に入っているのか」
「いや、別に?」
ズズズ、隣で蕎麦を啜りながら言う桂さんに首を振れば、何だそうかと一言返ってくる。
既に蕎麦10人前を平らげていた私はゆっくり麺を咀嚼する桂さんをじっと見た後、空になったグラスに水を注いだ。
「あ、そういえば神無」
「ん?」
「アンタ、もしかして妹いたりする?」
目の前のカウンターに頬杖をついていた幾松さん。ふと思い付いたように上がった声の後に続いたのはそんな突拍子もない質問で。
たまに新メニューについて相談されることはあるけどこうして何かを聞かれるのって初めてかもしんない。
「いるっちゃいるけど、何年も会ってないよ。急にどうしたの?」
「いや、アンタによく似た子を知っててね」
「へぇ〜!」
もしかしたら姉妹かと思ったのさ、と笑った幾松さんに、そりゃ会ってみたいねと返せばどうやらその話を聞いていたらしい桂さんがよし、と何かを決意したように立ち上がって。
「ならば善は急げ、そのそっくりさんとやらを探しにゆこうではないか」
「いや、そこまで言ってないよ」
「いや、何を言う幾松殿。よく似てるとはそっくりさんということだろう!さっ行くぞ神無殿!」
「ええ?桂さん一人で行ってきなよ〜。私まだ食べたりないからコンビニ行ってくるから。あ、エリー何かいる?」
「えええ?神無殿最近冷たいんじゃないのォ?つまんねーよォ。行こうよォ!」
「…アンタら、本当に危機感ってもんがないよね。ある意味羨ましいよ」
ズルズルと私の傘に巻き付く桂さんは放っておいて、店を出る。幾松さんの言ってることはイマイチ理解出来なかったけど、また来ますと一言残して出てきた。
とりあえず私は付いてくよ、と言ったエリーと共にコンビニへ。
桂さんは気が付いたらいなかったから、もしかしたら本当にそのそっくりさんとやらを探しに行ったのかもしれない。…いや、多分、絶対。
近くにあったフォーイレブン、にて。
エリーはオレンジシャーベットを。私は新発売のイチゴミルクアイス(つぶつぶ果肉入り)ってやつを3本。それぞれ購入して。
うん、勿論桂さんのお金で。
あー甘くて美味しい。でも、もうちょっと大きいサイズが良かったかなぁ。
二人でペロペロ、アイスを舐めながら歩いていると前から歩いてくる男に目が止まる。ふわふわ揺れる銀色の頭。
近付けば近付くほど目に入ったのはヤル気がないように見える気だるげな瞳と、それから。
「あれ?誰かと思ったらエリザベス。お前こんなとこでどうし…え、?」
「…貴方、強いでしょ?」
瞳の奥に見え隠れする、強い光に。今まで感じたことのない何かを感じたらしい。
ぶわりと全身の血が沸くの。久しぶりの感覚。肩に掛けていた番傘を握る手に力を込めた時、目の前の男が慌てたように一歩後ずさって。
「…お、おいおい、どうなってんのコレ。え?ちょ、お姉さん?会って数秒の仲だよね?俺ら初対面だよね?なんで俺アイスの棒突きつけられてんの?え?見せつけ?見せつけてんの?貴重な諭吉をパチンコですっちまって一文無しの俺を嘲笑ってんの?」
まるで場違いなその言葉に一気に気分が萎えていく。え?なに?なんて?諭吉?パチンコ?何それ?何言ってんのこの人?
言ってる言葉が理解出来なくて頭を捻っていると、スッとエリーから助け船が出る。えーと、なになに?
「あー、なんだ。この人エリーの知り合いだったの。え?お金をなくしちゃって、アイスを買うお金すらない?それで私のアイスを欲しがってるって?しょうがないな、分かったよ。アイス1本あげるよ」
「な、何だ?この屈辱感…!しかし、待て。貰えるモンは貰おうじゃねーか。その方が賢いって。そうだろ?エリー。なっ!そうだよな!なっ!」
「噛み締めて食えよマダオ、だって」
「急に辛辣ゥゥウ!!」
袋の中には残り2本。実はもう1本自分用に買った分と、桂さんの分があったんだけどまぁいいや。溶けちゃ不味いし。
水滴が浮かびだしたアイスを取り出して1本彼に渡してあげれば、わーわーとまるで子供みたいに喜んで。
「あー生き返るわー。うめェ…全身に染み渡るぅ!生きてて良かったァ!」
ま、そんなに喜んでもらえるならあげた甲斐があるってもんだ。
私は私の分を噛み砕き一人イチゴミルク味を堪能している彼にじゃあ、と手を挙げた。
エリーが持ち歩いている看板に、銀時さんまた!と書いてあったからきっとそれが彼の名前なんだろうと思う。
「あ、ちょっと待てって!」
しばらく歩いたところで肩に触れた手。振り返ればさっき別れたばかりの銀時さん、がアイスの棒片手に背後にいて。…あ、もう食べたの。早いな。
「えーと、銀時さん?何?」
「え?何で俺の名前知って…」
「エリーが言ってたから」
そう言えば、あそ、と何ともおざなりな返事が返ってくる。
どうでも良さ気なその態度にムッときたものの、まぁどうでもいいかと私も流して。それでも、未だに肩に乗るこの手だけは不思議で堪らないから。
「…まだ何かある?」
首を傾げて彼を見上げれば、あ!悪ィ!と慌てて手を離す。その反応が何だか可笑しくて。
「ゴメンゴメン、意地悪しちゃった。私、神無」
エリーの友達ですか?そう聞けばズル、とどこぞのお笑い芸人みたいにわざとらしく滑る。うん、私も今のわざと。
「あー、神無?まァ、ヅラの方とちょっとな。腐れ縁ってやつ?あ、俺ね、坂田銀時っつーの。銀ちゃんでも銀さんでも、好きなように呼んでちょーだい」
「ヅラ?え?もしかして桂さん?うん、分かった。なら銀ちゃんって呼ぶ」
「おお…あー、つーかよ」
「ん?」
「…もしかして神無って、夜兎だったりする?」
よね?絶対そうだよね?と。
そう言って心なしか震える銀ちゃんにニコリと笑えば、ビクッと分かりやすいくらいに肩を跳ねさせるから。
つい、ね。意地悪したくなっちゃうよね。
「兎はお嫌い?」
「だだだだ大好きですよォ!!?」
…だけど。だけどさ、
(んなにビビらんでもいいじゃんね?)
end
[#prev] [next♭]
back