彼女。神無と出会ったのは二週間前。攘夷活動の為の資金稼ぎに看板を持って街中を歩いている時だった。

人目につかないであろう、暗い路地裏で倒れている女。近くには身の丈ほどの番傘も落ちていて。

もしかしたら野垂れ死んでいるのかと思い慌てて近付き肩を揺すれば、腹が減って今にも死にそうだという。

ので、近くにあったコンビニで肉まんを一つ購入。渡してやれば一口で下し、まだ足りぬと再び地に伏せるからもう二つ程買って与えてやればまだ足りぬと…結局15個も買う羽目に。

ついでに俺とエリザベスの分も購入し、合わせて17個。うーん、痛い出費だ。そう思いながらも、地道に行っている資金稼ぎのお陰で蓄えはまずまずあるので良しとする。

それから話の流れで彼女が夜兎族だと言うことを聞いた。どうりで晴れているのに傘をさしているはずだ。肌も雪のように白いし、服装もどこかのリーダーを彷彿とさせる。…ん?そういえばどことなくリーダーと似ているような。気のせいか。

そうして話をしているうちに彼女の目的を聞く機会があって。どうやら人探しをしに江戸へやってきたらしい。何か力になってやろうと声を掛ければ返ってきたのはとんでもない一言だった。

桂小太郎の首を取るために探している。

まさか、この俺を狙っているとは思いもしなかった。隣を歩く彼女は一見、ただのか弱い女にしか見えない。

が、しかし。あのリーダーと同族となればただの女ではあるまい。ていうか首を狙ってくる位だ。腕に自信があるとしか思えん。

ゾッとした。殺られる。桂小太郎だとバレたら俺、確実に殺られる。

背筋を滑り落ちていく冷たいもの。それが顔に出ていたのか、勘繰りを入れてくる彼女になんとか誤魔化そうとしていたら…

エリザベス貴っ様ァァア!!ほんっと!ほんっとお前は!お前って子は!!そんなに俺を殺したいのか!言っとくけどな!俺が死ねば誰がお前なんて気持ち悪い生き物拾うと思ってんだ!天涯孤独になんだかんなお前!覚悟しとけよお前!!

エリザベスがわざと間違えて出した看板を回し蹴りでぶっ飛ばし、その勢いのままエリザベスに突っ掛かろうとした時だった。

彼女のであろう手が肩に置かれたのは。

…もう、終わりだと思った。俺の人生、なんて呆気ないんだと。

…そしたら、なんだ。彼女は勘違いをしているではないか。桂という名字が同じなだけの、ただの一般市民だと。

騙すつもりはなかったが、致し方ない。俺の命が何より大事だ。

すまん、神無殿。許してくれ。

そうして桂太郎左衛門だと名乗った俺はこのまま別れると思っていた。探し人は見つからぬやもしれんが、きっと諦めて帰るだろうと。

そしたら、信じられないことが起きて。

「というわけで、桂小太郎が見つかるまで面倒見てね」
「なんで!?」

まさか。そう来るとは。

ニッコリ、まるでそんな音がしそうな程の笑顔を見せられたら何も言えない。というか、断ろうものなら拳が飛んでくるんだろう。そうだろう。

「私この通り大食いだけど、桂さんなら大丈夫だよね。お金持ってそうだし」

だからよろしく、と手を差し出した彼女に気付いたら自分の手を伸ばしていた。…まぁ、出会って数分だがきっと悪い女子ではないだろう。この笑顔を見れば。

自分の勘に任せて、その身を委ねる気持ちで手を握った瞬間…

「ギャァァァア!!」

ベキバキととんでもない粉砕音が自分の手からしたのを、俺はきっと一生忘れないと思う。

***

ー…そんなこんなで、彼女と生活を共にして二週間が経った。毎日俺たちの倍の量を胃袋に流し込む神無殿。

しかし…昨日は凄かった。ここからここまで全部ちょうだい、と。まるでどこぞの社長ばりのオーダーをし、幾松殿の店のメニューを全て頼むという所業を成し遂げたのだ。

幾松殿は儲けだと目を輝かせて喜んでいたが俺はそれどころではない。二週間。この二週間で既に家計は火の車。

銀時よ…お主の気持ち、少し分かるぞ。浮かぶのは食欲旺盛なリーダーと、旧友のだらしない生活。…いや待て、それは違う。

毎日毎日、今まで貯めていた活動資金が神無殿の胃袋へと消えていく。…変だな、雨が降ってきたぞ。晴れているのに。

…違うんだ、決して涙なんかじゃないんだコレは。コレはアレだ…汗だ。

「ん?桂さん?どうしたの、涙なんか流しちゃって」

そう言って不思議そうな顔で俺を見る目の前の彼女になんでもない、と返す。

せっかくかっこ良く決めようとしたのに…そもそも誰のお陰でこんな思いを…いや、待て。それよりも未だ彼女が俺の事を桂小太郎だと気付かない事の方が幸いだろう。

ここしばらく、俺たちは真選組に追いかけ回され、ことごとくアジトを破壊されている。

何故真選組に追いかけ回されるのか、疑問を持たれてもおかしくないはず。だが彼女は最初は驚きはしたものの、これが江戸の日常ね。なんて勝手に納得して、真選組の破壊を奇襲と呼んでいる。

まァ、気付かれないに越したことはない。バレた時は死ぬ時だと腹を括って過ごしているから。…それにしても、神無殿の上司とは一体誰なんだ?そもそも俺の命を狙う輩は誰なのか…それも気になるところだが。

最近の悩みは、時たまゾッと背筋が凍るような悪寒がすること。…もしかしたら、近くにその上司とやらがいるのかもしれないと細心の注意を払いながら日々過ごしています。

(彼もまた気付かない)

end

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