桂さんのとこに居候してから1週間が経った。
とはいえ居候、というほどのモンではないということもこの1週間で十分理解したけれど。
「かーつらァァア!」
ドカァァアン!!と破壊された屋根。
パラパラと落ちていく瓦の破片やモクモクと上がる煙。いくつ目なのか分からないアジトの中で私たちは空を見上げながら蕎麦を啜っていた。
幾松さんという女主人が一人で切り盛りしているらしい店の出前を取って、である。
「ちょっと桂さんまた奇襲?」
「そのようだな」
「エリーがそんなことより早く逃げましょう、だって」
「うむ」
器を持って屋根から屋根へ飛び移る。というのも店からの帰り際、幾松さんがいい加減皿を返して欲しい…とぼやいていたのを思い出したから。
ので、3人分の皿を持って走るのは私の役目。
…ていうか、洗ってもない皿を素手で持つのは何だか微妙な気分だ。下手すりゃ汁が残ってる事だってある。
この器入れ専用の、袋かなんか欲しいなぁ。
「あ、また飛んできたよ爆弾」
「なんだって?よし神無殿、頼む」
「了解。じゃあエリー殿、皿を頼む」
ガチャガチャと鳴る皿をエリーに渡し、私は目前に迫る爆弾に向き直る。その瞬間、肩に発射砲を抱えていた若い男は驚いたように動きを止めて。あ、そういえば初めて見る顔かも。
「…おま、チャイナ?」
「?」
「隊長ォ!あの女が出てきたらヤバイんで下がって下さい!アレで神山もやられたんです!」
「マジでか」
チャイナ?私のこと?とりあえず手を振ってから番傘を思いきり振って爆弾を跳ね返した。ドカァァアン!!桂さんのアジトが破壊された時と同じくらい大きな音がして、あの男がいた場所からもうもうと煙が上がる。
「ナイスショットだ神無殿!」
「そりゃどーも」
「よし、この隙にトンズラするぞ」
「古い言葉使うね、桂さん」
チラ、下を窺えば声が聞こえたので死んじゃいないんだろうけどいい加減アジトを破壊するのはやめてほしい。ゆっくり食事も出来やしない。
ハァ、と溜め息を吐けば桂さんが、何だ?ホームシックか?と聞いてくる。こんな状態でホームシックになるわけないだろ。
…でも、ある意味ホームシックなのかもしれない。最近まともに闘うってことがないせいかウズウズして仕方ない。血が見たくて堪らないし、肉を斬る感触が懐かしくさえ思える。
一度箍が外れると私ってなかなか止まらないらしいんだよね…ヤバイなこりゃ。桂さんが近くにいたら殺しかねないし。うん、1日でも早く桂小太郎を探して殺るしかない。それに限る。
「んんっ!?なんだ、今の悪寒は」
「えー?風邪でも引いた?人間は弱いからなぁ…生姜湯でも買って帰る?」
「そうだな…そうしよう」
ヒョイヒョイと屋根を飛び越えて、次のアジト探しに明け暮れたある日の出来事。
(彼女はまだ、気付かない)
end
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