「ありがとう!本当に助かった!」
「いや、何のこれしき」

黒い長髪を靡かせて隣を歩く男。モグモグ、と口を休ませることなくホカホカの肉まんを咀嚼する。そんな彼の隣で私もまた、同じように肉まんを飲み込んだ。

「しかし、驚いたぞ。道端で倒れているから何事かと思えば空腹で力が出ないとは…なんか、今時アレなんだな。古風なんだな、お主は」
「もごもごもご」
「え?なんだって?さしずめ俺はアンパ●マンの如く正義の名の元に他人を助けることの出来る攘夷志士だろうって?ハッハッハ!やめないか、照れるだろう」
「っあー、飲み込むの大変だった。あ、お茶もらえます?」

肉まん15個分の包み紙を丸めてコンビニ袋の中に押し込んで、ずっと後ろを歩いている真っ白いオバケからお茶を貰う。まだ足りないけど、とりあえずは胃に何か入っただけよしとして。

「しかしよく食うな。そんなナリのどこに入るのだ?」
「え?あぁ、私生まれつき大食いなの。夜兎族って知ってる?」
「夜兎…おぉ、知ってるぞ。確か、三大傭兵部族だろう。実は俺の知り合いにも一人いてな。リーダーと呼んでいるのだが、彼女もそのナリからは想像もつかないような大食いで凄まじい馬鹿力を併せもって…」
「あ、そういえば私人探ししてるんだけどお兄さん知らない?」
「アレ?俺の話聞いてない?…まァ、いいだろう。こんな広い江戸で人探しとは大変だ。なかなか見つからんやも知れぬが…名前だけでも聞いておこう。して、なんという名前だ?」
「お兄さんも知ってると思うよ。えっとね、穏健派攘夷志士の桂小太郎って人。超面倒くさいんだけどなんかさァ…上司の命令で取らなくちゃなんなくてさ、首」

桂小太郎。この江戸でその名を知らぬ者はいない。

最近穏健派に鞍替えしたらしいその男は少し前までは鬼兵隊と同じ過激派だった、という話。

いや、私は正直知らないんだけどね。全部万斉とまた子からの情報だからね。

渡されたお茶を飲み干して彼らに向き直れば物凄い形相で私のことを見ている。え?アレ?…もしかして、知り合いだったりする?

「え?もしかしてお兄さん知り…」
「知らない知らない!俺そんな奴知らない!なっエリザベス!なっ!」
「はい、知りません桂さん…って言ってるけど」
「エリザベス貴様ァァア!あ、スイマセンじゃねーよ!わざとだろお前!絶対わざとだろ!ふざけんなよお前ェェエ!」
「ねぇ」

ポン、と肩を叩けばギギギ、と音を立てて振り向いた目の前の桂さん。顔中に冷や汗をかいているのはどうしてだろう。変な人。

「あぁ、もしかしてお兄さんも桂っていうんだ?ごめんね、人違いを恐れてた感じ?大丈夫だって。本物じゃないなら殺さないから」
「物騒なこと言うね君は!」
「?なんで?桂小太郎じゃないなら危害加えたりしないよ?」
「アハハハハ!そうだったね、うん!そうだよね!」

最初の落ち着いたキャラはどこに行ったのか…だんだんキャラが崩れ始めてる桂さんは置いといて。

「私、神無。桂さん下の名前は?」
「あぁ、俺はこた…違ったァ!あー、アレ!太郎左衛門!」
「太郎左衛門?変な名前!呼びにくいから桂さんって呼ぶね」
「あ、あぁ!何とでも呼んでくれ!」

だらだらと汗を垂らして笑う桂さんに笑い返せばその表情をピシリ、と固める。あ、もしかして私の考えてること伝わった?

「というわけで、桂小太郎が見つかるまで面倒見てね!」
「なんで!?」

どうやら長期任務も、なかなか楽しいものになりそうです。

(桂小太郎と桂太郎左衛門)

end

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