私の好きな人の名前は土方十四郎。彼は真選組という名の武装警察で幹部を務めている。切れ長の目に整った顔立ち。体中に纏うあの煙草の香りがまた、癖になるというかなんというか。

「…またお前か」
「ハイ!待ち伏せしてました!」
「そりゃーまた立派なストーカー精神だな、オイ」
「えへへ」

真選組屯所、重々しく掲げられた看板の前で待ち伏せすること早一週間。…あの日、ヤのつく職業らしき男から助けてもらい一目惚れしてしまった私はこうして毎日彼が通る道に佇んでいる。

一週間ともなればさすがに彼も慣れっこになりつつあるんだろう。最初よりは驚かれることもキレられることもなくなりつつある。

照れ笑いを溢す私に、いや、照れる意味が分からねーんだが、と辛辣な言葉を浴びせるけれどその声に棘なんて感じられないから。

「というわけで好きです!付き合って下さい!今日こそは!」
「悪いが俺ァ忙しいんだ、他当たってくれ」
「嫌です!十四郎さんじゃないと意味ないもの!」
「…そればっかだなお前は」

そう言って溜め息と共に煙を吐き出す彼を見つめて目を細める。…この一週間、私が何を言っても返ってくるのは同じ答えばかり。

分かってる。彼にとって私は眼中にないことも、この気持ちが迷惑なことだって。だけど好きなんだもの。好きになっちゃったんだもの。

きゅ、と両手を握り締めて笑顔を向ければ十四郎さんは複雑そうな顔をする。そんな彼から目を逸らせば何か言いかけて、やめて。見上げればやっぱり変わらないその表情に口を開きかけたら。

「あれ、また来てんのかィ」
「…あ、総ちゃん」

飽きねーなァ、ナマエは、と屯所の奥から現れた総ちゃんに口をつぐむ。眠そうに目を擦りながら、やめとけってマジでこんなマヨラ〜とわざと十四郎さんを挑発するような言い方をするから毎度ハラハラするんだけど。

…この一週間で彼とは急激に仲良くなれた。同い年だし、ある意味気が合うのかもしれない。十四郎さんを好きな私と嫌いな総ちゃん。性格も考え方も勿論真逆ではあるけれど。

「…あァ、こいつの言う通り。俺なんかやめとけ」

それだけ残して彼は私の前を通り過ぎてった。振り向きもせず、早く来い総悟!と大きな声で隣にいる彼のことを呼んで。

見れば総ちゃんは無表情で私のことを見ている。私は、苦笑いを返すしかなくて。

「…嫌われちゃったかな」

ハッキリ、断られた気がして少し凹む。あはは、と乾いた笑い声を漏らす私に総ちゃんは小さく溜め息を吐いて。

「ヤローの気持ちなんざ知らねェが…」

お前はそのままでいいでさァ、と。妙に優しい言葉をかけてくれるから。やっぱり、頑張ろうって思うんだ。

好きなんだもん。あの人が。

…だけど時折、寂しそうに空を見上げるその姿がどうしてか切ない。

(貴方は今、誰を想っていますか?)

end



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