「良かったですねぇ、映画」
「あー…女は好きそうな内容だったな」
「うん、最後感動しました。十四郎さんはお嫌いでした?」
「いや?嫌いじゃねェ。ただ、男一人じゃ…ちょっとな」
「あは!確かに。周り女の子やカップルばかりでしたもんね」
私たちが観た映画は、なんていうか…コテコテの恋愛モノだった。付き合って長いカップルの日常を描いた話。二人の思いが上手く折り合わなくて、すれ違ってみたり、反発し合ってみたり。
だけど結局ラストでは、二人が手と手を取り合って愛を確かめ合う。…なんて、どこかで聞いたことあるような、ありきたりな内容だったけど。
「なんか…いいですよね。いつまでもあんな風に、お互いを想い合えるのって」
「…そうだな」
私も、十四郎さんとそうなれたらな…なんて思ったの。まだまだお互いのこと理解しきってないけれど、いつかは…って。
…だけど、それは思うだけに留めておいた。伝えたら、重い女だと引かれてしまいそうで。私から、離れていってしまいそうで。…私は十四郎さんの重荷には、なりたくないから。
チラ、その横顔を盗み見て自嘲気味に小さく笑っていたら、何笑ってやがる?と私の鼻に手が伸びてきた。ぐい、と強めに摘ままれたそれが痛みを訴えるから、慌てて彼の手を両手で包んで。
「十四郎ひゃん!いひゃい!」
「…ふ、言えてねェ」
「だ、誰のひぇい…っもう!十四郎さんの意地悪!」
パッと離されたそれをもう逃すまいと強く握れば、上から押し殺したような笑い声が降りてくる。…バカにしてる!酷い!十四郎さんのせいなのに!
キッと睨み上げれば口角を上げて私を見ている彼と目が合う。私とは対照的に、ふわりとその目を細めて柔らかい笑みを見せていて。…ズルい。ズルいよ、十四郎さん。
そんな顔で見られたら、もう怒れないじゃないか。
「悪かった。別にバカにして笑ったんじゃねェよ」
くしゃり、少し荒く撫で付けられた頭。…こんな撫で方をされるのは初めてかもしれない。
だけど全然嫌じゃなくて。そのままされるがままになっていたら、あー悪ィ。ぐしゃぐしゃになっちまった。とさっきよりも優しく、セットした私の髪の毛を直すように撫でてくれて。
…それだけで、私の機嫌なんか簡単に直っちゃうんです。知ってましたか?
見上げれば、せっかく綺麗にしてんのにな、と。真顔で、サラリと。とんでもないことを言ってのける貴方に驚きはしたものの。
「ありがとう、十四郎さん」
大好き、と。その腕に自分のものを絡めて。
「どうした、急に」
「えへ、急に言いたくなっちゃって」
「…なんだそりゃ」
変な奴。呆れたように笑ってそう言うものの、決して嫌がったりしない十四郎さんが好き。腹減ったか?そう言って私を覗きこむ、細められた優しい目が好き。
…最近ね、凄く思うの。こんなに幸せで、いいのかなって。
「ナマエ、どうした?」
「ううん!何でもない!」
ねぇ、十四郎さん。
…私も幸せになっていいんだよね?
(静かに近付く暗い足音)
end