天気の良い休日。私はいつものように屯所に向かっていた。けれど今日は“いつも”とは違うの。今日はね、今日は…

「っ十四郎さん!お待たせです!」
「おォ、やっと来たか」

初めて二人で出掛ける休日。そう、初めての、デートです!


―…事の始まりは、一週間前。


「…そういや、土方さんとは上手くいってんのかィ?」

縁側にて。総ちゃん持参のせんべいをバリバリ、音を立てて噛み砕いていた時のことである。普段そんなことを聞きもしない彼がやけに真面目そうな顔をして私を見るから。

「上手く…いってるよ?」

多分、と。続いたのは思ってたよりも小さな声だった。それに対して、ふ〜ん?と。まるでどうでもいいと言うような、大して気にも止めていないであろうリアクションを返される。

…自分が聞いたくせに。そう思いながらせんべいを噛み締めて。

ちなみに今日もサボりな彼。さっきここまで十四郎さんに見つからないように来れた、と自慢気に話していたけれど多分しばらくすると見つかると思う。…いつものことなので敢えて言わないけれど。

「…なーんだ。だったら既に経験済みってことですかィ」
「何?経験?」
「そっ。土方がお前を●●して××をアレして、終いには▲▲を…」
「ちょっとォォオ!!何言ってんの!?やめてくんないそういうの!」
「あれ?なんだ、土方のヤローまだ手ェ出してねーんですかィ?ヘタレだな、アイツ。まさか、今さら自分のナニに自信が…」
「いいからちょっと黙って!!」
「フゴッ!」

惜し気もなくサラッと危険な言葉を重ねる彼の口にせんべいを三枚一気に押し込んで、とりあえず危険を回避。…あ、危ねェェエ!!こんな会話誰かに聞かれたら危険なんてもんじゃないよ!どうすんの、十四郎さんに聞かれでもしたらどうすんの!

乱れた息を整え、そんなことより…と言いかけて止めた言葉。隣でせんべいを三枚一気食いした(私のせい)彼が、涙目になりながら急須ごとお茶を煽っていた。…あ、そうだった。このせんべい激辛なんだったね。真っ赤だったよね。

噎せかえる総ちゃんの背中を軽く叩きながら、ごめんごめん!と笑えば、笑い事じゃねー!と恨めしそうな顔と言葉が返ってくる。どうやら相当辛かったらしい。あれ、なんか普段より唇厚いね。あ、もしかして腫れた?

「…ま、お前らの性活なんてどうでもいいでさァ。んなことよりナマエにプレゼントがありやす」
「もうその話やめてくれる!?って、え?プレゼントって何?何くれるの?」
「これ。今やってる映画のチケット」

私の言葉を見事にスルーして総ちゃんは言う。これで二人で出掛けて来いって近藤さんが、と。私の手に二枚、置かれたチケット。総ちゃんを見れば悪戯っ子みたいな顔をして。

「行ってくれば?初でえと」

ま、せいぜい楽しんできなせェ、と一言残して去っていった総ちゃん。どうやら彼らにはお見通しだったらしい。…うん初デート、まだでした。

しばらくそのチケットを眺めていたら、総ちゃんを探しにやって来た十四郎さんが現れて。

というわけで今度のお休み、デートしましょう!そう言えば、どういうわけだ?と一瞬怪訝そうな顔をした十四郎さん。近藤さんがくれました!と、今しがた総ちゃんからそう言われて貰ったチケットを見せれば仕方ねェな、と承諾してくれて。


…そう。そんなわけで、冒頭へと戻るわけです。

「十四郎さん!早く早く!」
「分かった。分かったから走んな」

屯所から二人並んで歩いていたのは数十分前のこと。映画館に近付いてテンションが上がってしまった私は十四郎さんの手を引いて足を早める。…自然と手を繋ぐ形になっている事に、私は夢中で気が付いていなかった。

観る映画は決まってる。妹情報だと、総ちゃんが(正しくは近藤さんが)くれた映画のチケットはどうやら今大人気のらしく、なかなか手に入らないんだそうで。

「楽しみですね!」
「…あぁ」

振り返って見上げた先に、柔らかく微笑う十四郎さん。そんな彼を見るだけで私は幸せです!

(頭に伸びてきたその手に擦り寄って)

end



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