好きになるつもりは微塵もなかった。そんな感情はアイツが死んでから無くしたつもりでいた。俺にはもう、そんなモン必要ないと。そう思ってたはず、なんだがな。

…ナマエにミツバの話をしたのは俺だ。好きだったと、そう伝えたのも自分だ。なのに、どうしてだ?どうして…泣きそうな顔で、自分はミツバじゃないと言ったナマエに上手く伝えてやれないんだ。

「…十四郎さ、」

好きだ。お前が好きなんだよ、ナマエ。

部屋を出ていったその背中を掻き抱けば不安気に俺を呼ぶ声が聞こえて。…気付いたら、叫んでた。小さな体を閉じ込めて出来る限りの気持ちを込めて。

伝わったか?俺の気持ちは。届いたか?

「…十四郎、さん。本当に?夢じゃ、ない?」

肩を震わせながら小さな声でそう言ったナマエを、先程よりも少し強めに抱き締める。今にも消えてしまいそうなほど儚げなその姿に夢じゃねーよ、と言うのが精一杯で。…なんて情けねーんだ俺は。

「…どうして?私なんか、私なんか…」
「あぁ」
「嫉妬深くて、最低で…優しくもないし、綺麗でもないし頭も良くないし」
「…あぁ、」
「ミツバさんには何一つ、敵わなくて」
「…おい、ナマエ」
「だけど、十四郎さんのことは…私が一番、好きだもの!その気持ちだけは、ミツバさんにも、誰にも負けない。でもね、そう思ってる自分が、また凄く汚く見えて…」
「っナマエ!」

頬を伝っていくその涙をもう黙って見ていられなかった。そこまで想われていたなんて思いもしなかった。腕を引いて、その頭ごと自分の胸に閉じ込める。すると震える腕で俺の背中に手を回すから。

「…ナマエ、もう泣くな」
「っごめんなさ」
「謝んな。とりあえずほら、これ」
「…ふぁい」

ポケットからハンカチを取り出して押し当てる。俺の胸に押し付けていたナマエの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。真っ赤な鼻と少し腫れぼったい目に笑みが溢れてしょうがない。バレないように小さく笑ったのも束の間。

「わ、笑うなんて酷い!」

…どうやら見られていたらしい。慌てて表情を固めたものの、時すでに遅し。腫れぼったい目を細めてそう言ったナマエは再び溢れた涙を拭って、十四郎さんの意地悪!と言う。その顔が、あまりにも。

「と、十四郎さん?ちょっと、近…」
「馬鹿にして笑ったんじゃねェよ」
「え?じゃあ…なん」

で?と。続くはずだったその唇に自分のそれを押し当てて、触れるだけのキスをする。一瞬で離れれば目の前の彼女はパクパクと声にならない声を上げて。

「…すげェ顔」
「っ十四郎さん!もう!からかうのもいい加減に…」
「好きだ」
「!」
「…お前は?」

ぐ、と押し黙った彼女の耳元にわざと口を近付ければその細い肩を揺らして俺を見上げて。それから。

「…好きです。十四郎さんが、大好き!」

そう言って笑うナマエをもう一度強く抱き締めた。

end



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