チラホラ、と。暗闇の中、白い小さな粒が空から落ちてくる。

どうりで寒いはずだ、と。

いつの間にかキンキンに冷えた手に吹き掛けた息も勿論真っ白。…出てくる前に見たニュースでは雪が降るなんて言ってなかったのになぁ。

なんて、そう思うのはきっと寒いのが苦手な私だから。

ぶるる、と身をすくめて町を歩く。

向かうのは近くのコンビニ。こんな時間に出ることは滅多にないけれど、今日は無性にお腹が空いて。家には何もないから何か買おうと思ったんだけど、こんなに寒いんなら温かい飲み物を買わなくちゃ。

あ、それから肉まんも食べたいな。

内心ルンルンで、コンビニへ続く道を歩く。夜なのに目の前が明るいのはきっと店の灯りが漏れているせい。

こんなに遅い時間だというのに私の行く先を照らしてくれる光に安心していた。安心、しきっていたせいか。

「…あ、すいません」
「あァ?姉ちゃんどこ見て歩いてんのォ?」

とん、と軽く当たった肩に頭を下げれば返ってくるのは不機嫌そうな低い声。…なんと運の悪いことか。相手はヤのつく職業らしき柄の悪い男で。

「あいたたた!肩いてーなァ、オイ」
「ご、ごめんなさい」
「…いいよォ、許す。今夜1日付き合ってくれたらね」
「へ、?」

その言葉を理解する間もなく詰め寄られて。ニタニタと笑う顔が目の前にくれば嫌でも分かる。…そーいうこと、って。

思いきり顔を逸らせば無理矢理こちらを向かされて浮かぶ涙。怖い。怖い…!ガタガタ震えだした私を見て男はウブだねェ、なんて笑って更に顔を近付けた。…時だった。

「…オイ、その辺にしとけ」

聞こえたのは凛とした低い声。誰かなんて分からないまま私は伸びてきた手に救われる。

「あァん?元はといえばこの女が…っその、制服は!」
「…まだ何かあんなら屯所で聞くが?」
「べ、別に何も…っ!それじゃっ!」

そう言ってアッサリ逃げていった男を唖然と見やる。見た目やあの喋り方からして相当しつこそうだったんだけど…アレ?まさかこんな簡単に追い払えるなんて思わなかった。

…そう、私は忘れていたのだ。背後に立つ彼の存在を。

「…アンタもこんな夜遅くに出歩くな」

じゃあな、と離れていった瞬間にハッとして。振り返れば灯りに照らされた黒い大きな背中が見える。風に乗って流れてくるのは少しきつめの苦い煙草の香り。

「っあの、ありがとう!ございますっ!」

自分でも驚くくらい大きな声が出た。…そんなに声を張り上げなくても余裕で届く距離だろうに。

そしてやはり、私の声は大きすぎたらしい。ビク、と一瞬肩を揺らした彼はそのまま立ち止まると何事もなかったように振り向いて手を上げた。

…初めて見た、その顔は。横から照らされる光のおかげか凄く煌めいて見えて。

それに加えて見ず知らずの私を助けてくれたという勝手なポイントも付属するから余計にね。なんかもう、全てがかっこよすぎてね。

「あのっ!」
「あ?」
「好きになっちゃいました!」
「…あァ?」

ポロ、落ちてったくわえ煙草。ニコリ、と笑えば引きつり笑いを返された。…何故?

(落ちるのはそう、その一瞬で)

end



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