十四郎さんからミツバさんの話を聞いた日から気が付けば1週間が経っていた。…私は相変わらず毎日屯所に通っていて。だけどあれから…あの話を聞いた次の日から。まともに十四郎さんの顔を見れないでいる。

そして私は、毎日の日課になりつつあった待ち伏せをしなくなった。…それも、この胸のモヤモヤと共に、彼にどんな顔して会えばいいか分からないからっていう自分勝手な理由。

でも、十四郎さんからしてみたら喜ばしいことだよね。きっと迷惑してたから。

それからか、屯所の中で十四郎さんと出会うことがめっきり少なくなった。

いつもなら待ち伏せから始まって、お昼時は食堂で見かけたり、近藤さんや総ちゃんとお茶しながら大声で喋ってたら呆れた顔で目の前を通りすぎたり。広い廊下ですれ違ってまた来てんのか、と言われたり。

それがまた日常になりつつあったから。

鈍感な私でも分かるの。ああ、避けられてるのかな、って。

…あの日。もしかしたら私は、十四郎さんに嫌われるような事をしちゃったのかもしれない。

それでもう私の顔なんて見たくなくなったのかも。そう思うと悲しくてたまらないのに、何でかな。顔を突き合わせるのは怖くて。

…弱いなァ、私。

「アレ、ナマエちゃん?どうしたの、そんなところでサナギみたいに丸まって」
「近藤さん…私、サナギに返ります」
「?」

客間に敷かれた大きな座布団の上でゴロゴロと。…失礼なのは承知している、けど何だか座っているのも億劫で。切れたお茶菓子を取りに行っていた近藤さんはそんな私を見るなり困ったように首を傾げた。

「どうしたの?トシと何かあった?」
「…なんで分かるんですか?」
「だって元気ないもの」

ふわり、と頭に落ちてきた優しい手。見上げればその手と同じように優しい目をした近藤さんがいて。

…なんでだろう。その目を見るとね、何もかも吐き出してしまいたくなるから。

「…私、」
「え?っちょ!ええ!?どうしたの!?ナマエちゃ…ええ!?」

そう言った途端、ポロリと零れた涙。近藤さんはそんな私を見て、俺のせい?え?俺のせい!?とアタフタしだして。慌てて懐からくしゃくしゃのハンカチを取り出すと私の目元へと当てた。

しゃくりあげる私の背中をゆっくりと擦ってくれる温かい手。その手に甘えていたら、段々と睡魔が襲ってくるから。

「ナマエちゃん。こんなところで寝ちゃ風邪引く…アレ?なんか熱いような気が…ナマエちゃん?ナマエちゃんどうし…ってアッツゥゥウ!」
「オイ、近藤さんちょっと…ってどうした!?」
「あああ!トシぃ!良いところに!大変!どうしよう!なんか熱あるっぽい!」

近藤さんの焦った声。それから、久しぶりに聞いた気がする十四郎さんの声。…アレ、おかしいな。十四郎さんに会うの、あんなに気まずかったはずなのに。

…あぁ、それよりも頭がボーッとするの。目も開けられないくらい、身体中が怠くてたまらない。ぐたり、動かなかった体が急に浮遊感を感じたら。鼻から抜けていく煙草の香りと、それから。

「っ近藤さん医者を!それから俺の部屋に氷枕と毛布、持ってきてくれ!」
「わわわ分かった!医者ね!医者!あああと毛布と、ザキィ!ザキちょっと手伝って!ザキィィイ!」

ドタバタ、といろんな足音がして。それからすぐに耳元で聞こえた低い声。…それが誰のものなのか。ボーッとする頭でも、すぐに理解出来た。

時々揺れる、筋肉質な胸板に頭を預ければ私を抱える腕に力が篭る。…彼にしては珍しい、廊下を走るなんて。その揺れと共にされるがままになって、だけど何か言わなきゃ、と渇いた喉の奥から精一杯声を絞り出せば。

「…と、しろ、さ…」
「っこの!バカ野郎!なんで言わねェ!」
「アハ、ハ…迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
「…もうすぐ、医者が来る。それまで頑張れよ!」

ぐい、と引き寄せられた体。さっきよりも近いその距離に途端に全身熱を帯びる。クラクラ激しい頭痛に朦朧とする意識の中で、そっと伸ばした手は。

(必死な顔した彼には、届かなかった…)

end



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