十四郎さんに腕を引かれて戻ってきたのは真選組屯所。玄関を抜けると奥から大きな足音を立てて走り寄ってきたのは近藤さんだった。ずぶ濡れな私たちを交互に見て、無事で良かった!と号泣し始めた彼に慌てて謝って。

そしたらその大きな手が雨でぺしゃんこになった頭に乗るから。…何故か、涙が浮かんだの。

「…おい、まだ濡れてんぞ。これで拭いとけ」
「え、あ…すいません」

差し出されたのは柔らかなタオルだった。どかり、と目の前に座る彼の髪の毛も心なしか濡れている。けれど、その肩に同じ白いタオルがかけられているところを見ると既に拭いた後らしいので何も言わずに受け取った。

…私は今、何故か十四郎さんの部屋にいる。

あの後、近藤さんにお風呂を勧められて有り難く入らせてもらった。温泉みたいな湯船に浸かって雨で冷えた体を温めて。浴場を十分使わせてもらった後、肩まで伸びた髪の毛を乾かす間もなく十四郎さんに呼ばれて今に至るわけだけど。

「…あの、十四郎さん?」
「…なんだよ」
「あの、私…」

どうしてここにいるんでしょう?

その一言が言えなくて俯けば、彼から漏れるのは小さな声。上手く聞き取れなくて聞き返せばギン、とその鋭い目で睨まれて何も言えなくなる。乾いた笑いを漏らせば十四郎さんの大きな手が頭の上に乗って、そして。

「とう…っあ!あいたたた!」
「痛いか?痛いだろう」
「めっっちゃ痛い!!」

ぐりぐり、と拳骨同士に挟まれて私の頭が悲鳴を上げる。いやなんかもう痛いの通り越して何が何だか。やめてやめて、と涙目で訴えてみても彼には通用しないらしい。だって目が合わないもの。虚空を見てるもの。一体どこ見てるの十四郎さん。

「仕置きをくれてやる。有り難く受け取れ」
「あう!お仕置きは結構で…あ、ごめんなさい嘘ですスイマセン」

ぐり、と頭を締め付ける力が込もって、痛みから咄嗟に謝ればすっと引いていった十四郎さんの拳骨。目に溜まった涙が流れていくから袖で拭えば今度は私の頭を乱雑に撫でる大きな手。

「…十四郎さん?」
「…気になってんのか」
「え、?」
「近藤さんから聞いた話」

ずっと逸らされていた目は、今は私を捉えてる。細くて鋭い目の中には泣きそうな顔した私がいて。…そう言われたら、何も言えなくなるじゃない。

「まァ、なんつーかだな…アレは昔の話であって、今は」
「…もう、いらっしゃらないのでしょう?」
「!…全部、聞いたのか」

バツが悪そうな顔で私を見る彼に苦笑を漏らせばガシガシと自分の頭を掻いて。そして少し辛そうに笑う。好きだったんだ、と。

それを彼の口から聞けたことで少しだけスッキリしたはずの胸は、次第にキリキリと痛みだす。

…初めてだったの。私に笑顔を向けてくれたのは。

(そんな辛そうな顔で笑わないで)

end




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