雲雀恭弥はとても不思議な人だった。
にこりとも笑わずに僕のことを殺気に満ちた瞳で真っ直ぐに見ていた。それは――。
(それじゃあ、いけませんよ)
その時、僕は彼にそう言った。
それは、ぞくりとするような真っ直ぐな真っ直ぐな瞳だったけれど――如何せん真っ直ぐ過ぎる。
それは人を殺すという確固たるものから過ぎている。
その真っ直ぐな殺意は、殺意であるが殺意ではなかった。
(君、人を殺したことがないでしょう)
僕はくつくつと笑った。
彼は――彼は、僕を殺すことなんて出来ない。
いや、もしかすると、そうすべきではない。この真っ直ぐとした殺意になれない彼の闘争への欲、それが消えるのが惜しかった。何より僕をこうしてただ一つの対象として睨み付けるその瞳がそらされるのが惜しかった。
欲深い。そう、僕は自分のために彼を生かしたのだろう。最終的な標的となるのはボンゴレ十代目だ。それなのに雲雀恭弥を闘うことが儘ならない程に痛め付けたというのに殺さなかった理由とは、単純に言えば面白そうだと思ったからである。
その瞳が暫く退屈しなくて済みそうな色を含んでいたからだ。黒い相貌がまるで猛禽類が獲物を狩るように僕を睨み付けていた。
獲物を狩るような本能――しかしそれは人間の醜い殺意とは違った。
少しばかり、人間のそれより、それは美しかった。

「だから、僕は君に殺されたら本望なんですよ」

僕は、雲雀くんにそう言った。
あの時の感情が所謂恋愛感情のような綺麗なものだとは言わない。どす黒い、余りにそれはどす黒い感情だった。何せ僕は欲深い人間なのだから仕方のないことだった。
誰か自分を殺すに値する人間がいてもいいのだと思った。なかなかに彼は僕を楽しませてくれた(なんて言ったら雲雀くんは怒るのだろう、人に踊らされるのが嫌いな人だから)。

「骸」
何度死んだって、巡って巡って、意味などないならばせめてこうと決めて死んでいきたい。だからいつか、いつか、ねえ雲雀くん。
そうして、不意に雲雀くんは僕に口付けた。
「雲雀く――」
「――死ぬなら勝手に死になよ」
彼は真っ直ぐに僕の目を見た。
「君は何処にいるの。何を見ているの」
ぽかん、とする僕に雲雀くんはまくし立てるように言った。
「僕と君はいま此処にいる」
そのまま胸ぐらを掴まれる。相変わらず、華奢な癖に力の強いことだ。
そして先ほどよりも落ち着いた口調で、今度は彼は手を離す。

「殴ってあげないよ。僕は君みたいに優しくないからね」

酷く不機嫌そうに言われて、僕はそれは困りましたね、と笑った。

(殴ってあげないよ。僕は君みたいに優しくないからね。)

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