――覚えていますか。
六道骸はすっかり氷が溶けかけて水になってしまいつつあるアイスココアをかき混ぜながらそう笑みを浮かべた。
(こんなときに紅茶やコーヒーなんかを飲んでいたほうが格好がつくのにな、とは思うが変なところは格好をつけるくせに、自分がこうと決めたものに関しては体面なんか気にしないタチだから言っても無駄だろう)
と、僕が長く無駄な思考から考えを再びその発言に向けると、首を少しばかり傾ける動作。

「雲雀くん、聞いていました?」
「ああ、うん」

僕も目の前にある緑茶をかき回す。緑茶がこう、グラスに入っているのはなかなかにシュールだなと思うのだけれど、そんなことはまたどうでもいいのだ。
骸はくすくす、というよりくふくふが正しいのか、まあ、何にせよ、笑った。

「またどうせ、少しねじの外れたようなことを考えていたんでしょう」

――こいつは相変わらず人に対して失礼極まりないな。
僕は黙ってシュールなグラスに突き刺さるストローから緑茶を啜った。少し甘すぎる。

「不思議なものですよね」
「何がさ」
「いえ、ね」

この状況が。
骸はそう言う。
10年前のあの日、この不愉快極まりない男に会った訳なのだが、その際は本当に殺してやると思ったし、サービスしても肋骨数本は免れなかったはずなのだ。憎い、という訳ではなかった。ただ自分が負けているという状況に対する屈辱とそれに対する払拭のみを考えていた。

「ココアと緑茶を飲んでいるんですよ雲雀くん」

それはそうだ。
しかもちょっと洒落たカフェなんかで。
たぶん骸もあの時は僕を殺してやる、とは思わずとも殺すことに躊躇はなかったのだろう。となれば、決して友好的ではないし(友好的なんかにされたほうが僕としては殺してやりたくなるところなのだが)、おそらくは。

「そりゃあ、不思議っていうか不気味だね」

「まあ、そうですねえ」

骸はまた笑った。今度は苦笑だった。

何事もない午後のこと、君と僕は仲良くとはいかないがぐだぐだと話をしながらお茶をしている。これは所謂サボりだから、沢田綱吉がため息を吐く様子が浮かぶが、だからといってどうということもないし、むしろ少し愉快なくらいかもしれない。
骸も同感なようだ。

「思えばあの頃から似た者同士なのかもしれませんね」
「なにそれ、すごい不愉快」
「相変わらず君は酷いですね」
いつの間にやら、骸はココアを飲み終わっていた。
氷は全て水に変わっている。

「――さて、そろそろ戻りましょうか。ボンゴレはまだしも、五月蝿いのがいるでしょう」

そう言う骸に僕は、ああ、と短く答えた。
なんてことのない、午後のこと。

(そういえばきみはぼくのことが嫌いでぼくはきみのことが嫌いだったな)

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