冬の日 トキヤは俺のこと何もできないって思っている。 朝早く起きなさい、片付けなさい、肘をつきながら食事をするんじゃありません、洗濯物はすべて出しましたか?課題は終わらせたのですか、夜中にギターの練習など非常識ですよ、どうしてわざわざベランダに出てやるんです?何のための防音室なんですか?もっと考えなさい。 母親のようにトキヤは口を酸っぱくさせて言う。でも、別にお前は俺の母親じゃないだろ。 トキヤは実は劣等感の塊だと言うことを俺は知っている。強靭なプライドと並みならぬ努力でその身を保っていることを知っている。そして、俺のことを大好きなのも知っている。俺を叱りつけて優位に立ちたいことを知っている。 別にそれはかまわない。ただあんまり言われるとうんざりする。逃げたくなっちゃうよ。 翔とかレンとかと一緒にいる方が楽だ。あと那月とかマサとかといるときも結構楽しいな。はは、トキヤ以外になっちゃった。 俺が何をしても、みんな笑ってくれるし許してくれる。例えばどこかへ出かける約束をしたとき、寝坊して遅刻しても笑って仕方ないねと言ってくれる。 でもトキヤだけはあからさまに不機嫌な顔をして、なぜ寝坊したのですか?なぜ前もって早く寝なかったのですか?と問い詰めてくる。正直、緊張するしピリピリするからあまり一緒に出掛けたくない。それでも一緒にいるとなんだかんだ楽しくなってどうでもよくなっていく。 音也ってトキヤに妙に冷たいところねえ? 翔にそんなことを言われたこともある。そうかなあ、と俺は笑って答えると、無自覚かよと更に笑われた。 だってトキヤってば怒ってばっかりなんだよ!俺もちょっとむかつくときあるし。 あーそれはちょっとわかるな。まあ、お前も怒らせるようなことしてるから悪いんだよ。 そんなセリフとは裏腹に翔は穏やかに笑っていた。その表情に本当は、俺翔とかといるほうが楽なんだよなあ、と思わず呟きそうになったがやめておいた。なんとなくトキヤを悲しませるような気がしたからだ。 ある日、せっかくの休みなんだからカラオケオールでもしないかと言う話になった。みんな歌うことは好きだからカラオケは盛り上がる。俺はこういう時はもっぱら翔と気が合うのだ。何歌おうかときゃいきゃいしながらデンモクをタッチする。 トキヤというと、いつも何気なく隣にいる。そんなトキヤに俺は内心いらっとしてしまう。別にこの空間は俺とお前だけのものじゃないだろ。お前レンとかだって仲いいじゃん。何でいつも気づいたら俺の隣にいるの? 俺はトキヤの隣にいたくなくって、やたら席を移動する。翔のとこいったりマサのとことか那月のとこ、レンのとこ。 ふと思ったけれども、俺はこうやってみんなと仲良いからどんな席にも座れるけどトキヤって俺がいないと座れなくない?レンとか翔ならいいけどあの二人が盛り上がってたらトキヤ入れないでしょ。そしたら那月とトキヤとか?うわあ想像できない。でも那月はほわわんとしているし人懐っこいからなんとか話せるだろうなあ。 とかなんとか、翔と一緒に熱唱していてもそんなことを考えてしまう。俺が傍を離れたらトキヤがどうなるかだなんていくらでも想像できるのだ。想像できるのにわざとそうしないだけ。子供じみたことだけど、トキヤがいなくても俺は十分他の仲間たちと楽しくできてますよと暗にアピールしたいのだ。意地が悪いとはわかっている。 別にトキヤの寂しそうな顔が見たいとか、困った顔が見たいとか、サディスティックな性癖があるわけでもない。でも、なんだか見えない鎖で縛られているようなんだよ。 避けていたってわけでもないけど、互いに忙しくなって連絡も取り合わなくなった。そしたら勝手に大人になっていた。でもテレビできちんとお仕事をしているトキヤはよく見る。それと同じくらい自分もテレビに出るようになった。 トキヤはやはりHAYATOと言うアイドルだったから、オファーは同期に比べて格段に多い。レンやマサは元々有名な財閥の御曹司という名目があるからトキヤに負けず劣らずオファーは多そうだった。那月だってヴァイオリンコンクール優勝者だ。テレビというものは肩書きが大好きだからすぐ王子だのなんだのって那月はクラシック番組にひっぱりだこらしい。翔はなぜか謎の美少女モデルのほうがやたらオファーがあるらしくあからさまにへこんでいた。けれど持ち前のファッショナブルさからファッション誌によくでていた。 俺も頑張っているんだけどね、一応。みんなも頑張っている。 オフができたら会いましょうとは時折トキヤに暗に言われていて、あーこれはきっと俺と遊びたいんだろうなってわかっていた。けれど俺は暇な日ができてもトキヤに連絡しなかった。そういう日はゲームしたりごろごろしたりした。そんなことを繰り返していたらいつの間にか数か月会わなくなっていた。 ところが、ひょんなことにトキヤとバラエティ番組で鉢合わせたのだ。久々に会うトキヤは思いのほか柔らかい雰囲気で、収録後は思い出話をしながら楽しく飲めた。そして酔ったまま、じゃあ今度のオフ重なったら一緒に出掛けようかと俺は勢いで言ったのだ。すると、はたとトキヤのグラスを持つ手が揺れ、ばちばちと長い睫毛を揺らして俺を見つめる。なんだかいつもより幼くてかわいい顔。 「本当に?本当ですか?」 あ〜ちょっと面倒そうな雰囲気かも、と思いつつ後にはひけない。 「あはは、何そのリアクション。本当だよ。前はしょっちゅう遊んでたじゃん」 「でも音也、忙しそうですし、無理はしなくていいんですよ」 「もう大丈夫だってば!また、近くなったら連絡するね」 「…はい」 そう言ってコクリと小さく頷いた。なんとなくトキヤの声が弾んでいる。俺と久々に遊べてすごく嬉しんだろうなあ。本当にトキヤって俺のこと好きなんだなあ…。 トキヤは淡々と飲みながら話していた。グラスを揺らす姿も様になっている。やっぱりかっこいい人だ。 「トキヤってモテるでしょ?」 「は…?なんですか急に」 「だってさーやっぱかっこいいもん。昔からかっこよかったけど、今はもっとかっこよくなった。彼女とかいなかったの?」 「…仕事に追われてましたから、そういうのは特に…」 「えー何で!もったいない」 「…そういうあなたはどうなんですか」 「えっ俺?今はいないけど…まあ仕事も面白くなってきたし別にいいかなって」 トキヤがはたと目を見開いて俺を凝視した。美人だから迫力が増す。 「今はってことは、いたんですか」 「あーうん、まあ一応…それなりには」 「どうして言ってくれないんです」 「えっ」 それわざわざトキヤに言うこと?そりゃ翔とかレンにはちょいちょい話してたけど。正直トキヤはマサとか那月よりそういう恋愛話ってしにくいよ。本人自体がすごくストイックで潔癖だから合コンだのなんだのって言ったらひかれそうだし。ごまかすように俺はぽつりと無難なエピソードを話すことにした。 「あー…最近行った飲み会で、一人の子気に入られたけど」 「ほお」 「なんか大学のミス候補らしくて、きれいでスタイルもよかったけど、ちょっと芸能界に入りたいオーラが感じられるっていうか…俺をダシにしそうだからメール何通かしたぐらいで返事するのやめた」 「それが正解です」 ぐび、とトキヤがまた無表情に飲む。俺は少しだけ居心地が悪かった。これ以上この類の話はしたくないと思った。 同室の頃もこういった話はしなかった。タブーの領域だったのだ。トキヤの恋愛とかって興味あるけど触れちゃいけない気がしたし、俺もトキヤには笑って話せなかった。もう大人になったのになあ。 ヴーヴーヴー…。 微弱なバイブがポケットから伝わる。携帯を見ると事務所から電話だった。メモメモと慌ててカバンを探すが、今日に限って手帳が見つからない。 「うわあ!手帳忘れた!いいや、紙ナプキンつかお…トキヤ書くもの持ってたりする!?」 「筆記用具ぐらい持っていなさい!仕事の電話ですか?」 「そうなんだよ〜!」 「…紙もペンもあるからこれつかいなさい」 そう言ってテーブルに差し出されたのは、黒のシンプルなトキヤらしいボールペンと、トキヤにはあまりにも似合わない赤いメモ帳だった。俺はそれを見て心臓が握り潰されたかと思った。 その赤いメモ帳とは俺のデザインした「おんぷくん」のメモ帳だったのだ。 デビューしたての頃、初めてのシングル発売の初回限定の特典だ。それはとてもチープなつくりで、表紙におんぷくんのイラストと俺のサインが書かれているものである。 俺は内心、あっと思いながらも電話をとり、トキヤに会釈しメモに、電話から流れる日付、時間、番号を記入する。妙な胸騒ぎだった。 正直あまり頭に入らなかった。頭の中はトキヤとおんぷくんでいっぱいだ。ぴっと電話を切ると、トキヤは何食わぬ顔をしていた。あれっ意外だな。 「あ、ありがと。トキヤ」 「いえ。まったく…社会人としてどうかと思いますよ。筆記用具を忘れるなんて」 「いや…そうだね…、あのさ、そのメモ帳」 「ああ…あなたのCD買ったらついてきましたね」 あっけらかんとトキヤは答える。ドキドキしているのは俺だけか。 「買ってくれたんだ」 「そうですね…基本あなたのCDとかDVDとかは買ってありますから」 「言ったらあげたのに!」 「恥ずかしいじゃないですか!」 「そこは恥ずかしがるポイントなの!?」 「何で音也が顔を赤くするんです」 「い、いや別に……」 カ、と顔が赤くなる。本当にトキヤは俺のことが好きなんだ。ちょっと重いぐらい。だってそのメモ帳5年ぐらい前に発売したシングルの初回限定だよ。初回限定って。しかも持ち歩いてるの。 もうちょっと、トキヤに優しくしようかなとその夜思った。 それからトキヤと俺はまたよく遊ぶようになった。俺はトキヤの部屋に入り浸るようになって、トキヤは自然と俺の分も夕飯をつくってくれるようになった。 学生の頃は少し窮屈だった日々も、大人になってやりやすくなった。トキヤも前ほど口うるさくはない。神経質にはなっていくけど。でも、俺もかわす術を覚えた。 ほぼ同居状態になっていた俺たちだけど、仕事上時間は合わない時もあった。 夜中トキヤがいないとき、俺は勝手に酔いつぶれた翔とか持ち帰るときもあった。翔とかならトキヤは歓迎したけど、ある日トキヤの知らない友達を連れてくるとトキヤはすごく怒っていた。面白い奴だからトキヤも仲良くなれると思ったから連れてきたのにトキヤはすごい剣幕で怒ってしばらく口を聞いてくれなかった。 俺は遊ぶとき友達は多いほうが楽しいと思うし、知らない奴と話すのも好きだし、仲良くなれる自信もある。でもトキヤは妙にボーダーラインをひいていて、基本的にあの家には同期の特に仲良かった奴しか入れない。でもレンとか翔とかマサとか那月を呼ぶと喜ぶ。彼の中でこれはオーケーだというグループとこれはエヌジーというグループがあるのだろう。だから友達少ないんだよお前は。 「ねえ、まだ口聞いてくれないの?」 トキヤはトキヤの知らない友達を連れてきた俺がどうしても許せないらしく、まったく口を聞いてくれなくなった。帰ってきたら夕飯なかったし。どれだけ根に持ってるんだよ。俺は仕方なくマックに行って適当に食べてきたけどやっぱりトキヤは何も口聞いてくれなかった。 「トキヤ、トキヤってばあ。もう口聞いてくれなくて三日はたったよ。そろそろよくない?」 「…あなたは私がなぜ怒っているのか考えないのですか?」 ソファでぼんやりとしている俺を後目にトキヤはカチャカチャと洗い物をしている。遠いし洗い物の音で聞こえにくい。自然と声を張り上げるような形になっていく。 「俺が、この家にトキヤの知らない人あげたからでしょ。てかAさんあの時すげー気つかってたの気づいた?トキヤが態度悪かったからだよ。用事があるからって言ってそそくさ帰ったけど」 「…ここはあなたの家ではありません」 「それはわかってるよ!でも翔やレンを連れてきたときは喜んでたじゃん!」 「あの人たちは私とも友人です!それなら歓迎にするに決まっているでしょう!?」 「Aさんだって面白いし、トキヤと仲良くなれるよ!O型だし」 「………疲れているので、もう私は寝ます」 きゅっと水を止めて、トキヤはエプロンを脱いだ。俺はその動作が妙にむかついて、ソファから離れ、彼に近づいた。 「おい、またシカトかよ」 「疲れているので今度にしてください」 「今度なんかないだろ!俺だって仕事終わりで疲れているよ!」 「…あなたと私を一緒にしないでください」 は?なんで俺が何も疲れてないような言い方してるんだよ。 俺は今度こそカチンときて、トキヤの手首をぐっと掴んだ。呆れるぐらい細い手首。この細さも彼の努力で手に入れたものだ。 「みんな疲れてるけど頑張ってるんだよ!辛いのはお前だけじゃない!俺だって…」 「…は?」 ゆらりと、長い前髪からのぞくトキヤの視線が冷たい。突き刺すような眼球だ。いつになく怒っている。でも怯む俺じゃないと、気をはっていると、 「…!?」 ぱん、と軽やかな音がした。トキヤは俺の掴んでないほうの手で俺の頬を叩いたのだ。 「私は血の滲む努力をしてきました。あなたのように才能だけでのし上がってきた人とは何もかも違うのです。努力をしている者だけがそんなセリフを言えるんです」 トキヤが早口に低温でまくしたてる。女のヒステリーみたいだ。俺もかっとなって、手を出そうとしたが、女のように白い頬を殴る勇気はなかった。だってトキヤはアイドルなのだ。 「何です?その手。仕返ししないんですか?」 「……アイドルに、顔は、まずいだろ…」 「……」 ふう、とトキヤがあからさまに息をついた。 「あなたって、無意識に人から嫌われないようにしていますよね」 「は…?何」 「だから友人も多いのですよ。気付いていませんでした?」 「……」 「案外計算的なあなたが、私は好きですが嫌いでもあります」 もう寝ますと言ってトキヤは俺のゆるんだ握った手からするりと抜けだした。俺はトキヤのセリフがずっと頭に残っていた。 翌日、トキヤは普通に挨拶をしてきてくれたし、朝食も用意してくれていた。昨日のことには特に触れなかったが、ただ一言手をあげてすみませんでしたとは言ってくれた。俺は気まずく、俺も悪かったよごめんと言った。その日の朝食はとても静かだった。 それからは案外平和な日々で、小さな喧嘩はあるけれど特に問題はなかった。 時期はもうすでにクリスマスシーズンで、なんとなく俺とトキヤがずるずると同棲しだして半年近くたったことを思いだした。この時期は例に漏れず恋人がほしくなる。でも俺もトキヤもイブはきっと仕事であろう。 などと思っていたら、十二月の中旬、合コンのお誘いが来た。さすがクリスマスシーズン。飢えた獣同士慰めあうのであろう。せっかくのイブが仕事だけというものも味気ないしやっぱり女の子と食事くらいはしたい。あわよくばその先もしたい。トキヤと二人でケーキも良いかなと一瞬思ったけれど。 本気で恋人を探すために合コンなんていかない。ただその場しのぎだという意識はある。でも、もしかしたら好きになれる女の子が現れるかもと薄い望みをかけて俺は出掛けるのだ。 いざ戦場に出かけてみると、うーんまあまあ。芸能界だけあって女の子のレベルは高いけどピンとは来ない。一人小鹿のように可愛らしいショートの女の子がいたので、ロックオンしてその子とよく絡んでみた。この後二人でもう一軒行く?と口説いてみたけど小鹿ちゃんにはやんわりと断られた。最近の子はガードが堅いね。いつもだったらグイグイいっているかもしれないけど、そういう気力はなかった。 そのまま解散して、トキヤのいる家に帰る。でもやっぱり人の体温がほしいと思ってしまう。あ〜どうしてあの子やらせてくれなかったの。前は結構モテてた気がしたんだけど。あれってモテ期だっただけなのかな。 物寂しい気持ちのまま家に帰ると真っ暗で誰もいなかった。トキヤはまだ仕事のようだ。ソファに寝っころがりながら俺はカチカチと携帯をいじる。そのうちエッチなサイトに飛んでちゃって、画像とか動画とか見ちゃって、俺はそのまま自慰に耽ることになってしまった。 一人でするのは嫌いじゃない。自由だから。ひたすら自分のことだけ考えて高めればいい。自己中心的に動いても誰も咎めない。誰にも嫌われない。 「は、あ…んく…っ」 トキヤがいないから声出し放題だ。声を出した方が気分も盛り上がるし、気持ちが良い気がする。トキヤがいるときは一応布団かぶって遠慮していた。今、俺はとんでもない解放感に満ち溢れているぞ。 「はあはあっ……んあっ…」 しごいていると、ぬるりとした先走りが溢れる。液を絡め取るように指先で先端を刺激する。ぞくぞくとした痺れに襲われる。携帯を放りだし、もぞもぞとソファで動いてしまう。あ〜…っうん、いきそう。いっちゃいそう。出ちゃう…ティッシュどこ…あうっ…。 「ただいま戻りました」 え。 ああーっとここでお約束の展開だ。なんとトキヤが帰ってきたのだ。俺はと言うと下半身丸出しですごい間抜けな状態。トキヤは驚きに切れ長の瞳をばっちりとさせている。 「あ、その、すみません…」 すっごい申し訳なさそうな顔している。むしろこっちがすみません。俺は反射的にがばりと上半身をあげた。びきーん。下半身がちょっと痛いです。 「え、トキ、ヤ、終電あったん、だ」 「タクシー拾ってきまして」 「そ、そうだよね、そうなんだ…」 「……あの、すみません、私はシャワー浴びてきますのでどうぞ続けて…」 「え、あ、あ、うん…」 トキヤは肌が白いから赤くなるのがすぐわかる。もう真っ赤だ。そういえばトキヤが猥談に参加しているところ見たことがない。 ていうかトキヤってどんなセックスするんだろう?どんなオナニーするんだろう?俺は単純な疑問が浮かんだ。 「トキヤってどんな風に抜くの?」 「は」 思ったことがそのまま出てしまった。トキヤが目を丸くしている。あ、うん。そうだよね。けれど今、俺だけが恥ずかしい状況がどうにも理不尽なように思えた。 「ね、教えてほしいんだけど…」 「とりあえずあなたのそのみっともないものをしまいなさい!」 「みっともないって失礼だなあ!?…っくしゅ!」 「…こんな寒い中毛布も掛けずにそんなことをしているからですよ。今持ってきます」 と言ってトキヤは俺に毛布を持ってきてくれた。優しい。そして毛布を掛けてくれたトキヤの手をひっぱり、そのまま座らせてしまった。一応しまいましたよさっき露出させていたものは。 「ねえ、教えてよ」 「…あなた飲んでますね!?」 「あ、うん今日飲み会だった。えへ」 「……」 どこかふわふわとした気持ちで俺はトキヤに囁く。近いです!と言われて、べしゃと頬を手でつぶされた。 トキヤにも毛布をかけてやり、今俺たちは一つの毛布を共有している状態で、妙に近い距離で話していた。 「トキヤも飲んでる?」 「少し飲みました…」 「へえ〜誰と?」 「プロデューサーの方と…」 「あっ!また大きな仕事のオファーだ」 「…よくわかりましたね」 「マジ?」 「それについてはまた話します」 「え〜!ずるい…いいなあトキヤ」 「私はHAYATOという財産があるから今の位置にいるだけです」 ふふ、といつになくトキヤは柔らかい雰囲気で笑った。なんか可愛いなあ。今日の小鹿ちゃんとはまた違う可愛さがある。 「トキヤ…俺、ちょっと今ここ辛いんだけど」 「は?ひっ…!?」 毛布の中に潜める俺の爆発しそうな性器を触れさせるとトキヤがおもむろにビクンとした。でもトキヤの手冷たくて気持ちが良い。自分の手と他人の手じゃ全然違う。はあ、と大きく吐息が零れた。 「ね、俺の、触っていかせて」 「私を女性と間違えているのですか…」 「違うよ、でもトキヤ美人だから俺抵抗とかそんなにない」 「意味がよく…ってちょっと!」 トキヤのバックルも外し、チャックをさげ、ここからしてもいいかなあとか思ったけど邪魔そうだったので、脱がすことにした。 「腰、浮かせて」 そう命令するとトキヤが素直に言うことを聞く。どんだけ飲んできたんだよ。細身の黒いスキニーを脱がせ、下着越しに触れるとそこは少し反応していた。 「トキヤ反応してんじゃん」 「……っそれは」 「俺も今すげーどきどきしてるよ」 「あっ…」 きゅっとトキヤの自身を握りこむと大きく体が揺れた。その動作からかトキヤの冷たい手も俺のものに力が入る。ちょっと痛かった。でも他人の手って気持ちが良い。トキヤと同居してから全然触れてなかった。人の体温って気持ちが良い。 「んんっ…あっ、おとや…っ」 「濡れてきた…」 「やだ、言わないでくださ…っんく…」 ふるふると震えるトキヤが可愛い。久々に触れる温かさに俺は興奮していた。それが男のものであっても、トキヤだから気色の悪さなんて感じなかった。きっとそれは彼が美しいからだ。 「ねートキヤ、俺のも…」 「は、はい…」 「あっ…!はあ、あ、きもちい…」 トキヤの手は男にしてはとても細い指先だった。それが俺のものに絡みつき、扱いていると思うともうどうにかなりそう。元々射精一歩手前まできていたんだけど。さすがに毛布に飛ばすのは悪いから俺は先ほど用意しておいたティッシュを握り締めた。いや元々いっちゃいそうだったんだけど、一度はショックで萎えたんだけど、やっぱりどうもトキヤの手が気持ち良くて、俺はそのまま吐精してしまった。 「あっ、ああ〜…出る、出ちゃうよっ…!」 とか間抜けな声をだして。 「はあ〜…はあ、はあ…」 「音也…」 毛布の中で足をもぞもぞとさせてしまう。トキヤの頬も真っ赤だ。 「今度は俺が、トキヤを気持ち良くさせてあげるね」 「えっ、私は、その、あう…!」 毛布の中だからよく確認できないけど、トキヤの俺のより長いような…?これ女の子喜ばせられるだろうなあとか下世話なことを考えてしまった。 なんだかトキヤのきれいな顔にこんなものがついていること自体がとんでもないことのように思える。俺は今これに触れて、彼が喘いでいることにも。 「ん、あっ、ああ…」 「先っぽトキヤも好きなんだ?俺も好き」 「も、もっと優しく…っ」 「あ、ごっごめん」 ごめんと言った傍からぐりっと先端を指で弄るとトキヤはますますびくびくした。その姿にますます心臓が高鳴る。しばらく触れていると苦しげにゼエゼエしだした。 「音也…もう、もうだめです…っ」 「ん!?早くない!?」 「うるさ…、気にしているんです…っ!」 気にしているんですか。その時のトキヤが妙に幼くて、可愛かったから俺は思わず笑ってしまった。そのあとキッ!と思い切り睨まれたからまた可愛くって。 「いいよ、気持ち良くいってね…」 「あっ、んん〜…っ」 俺の肩に頭を預け、いっちゃうトキヤはびっくりするほどやらしくてかわいかった。 「あっ…やだ、毛布に…私…っ」 わあ。何その顔。えろい。 白い頬が上気して真っ赤で、目元とかうるうるしてて超かわいい。女の子だったら最高。もう百回くらいキスしてる。あーもういいやしちゃえ。 「…トキヤ、かわいい」 「ん…!?んむ…っ」 ちゅうっとキスしてあげると薄い唇が遠慮がちに開いた。お望みのままに舌を差し込むとびくびくする。はふはふと口づけあっているとトキヤの白い顎に唾液が滴った。 「は、はふ…ん、トキヤ…」 「んん…ちゅっ…」 毛布の下で脚を絡めあい、俺たちはそのままずっと夢中でキスしあった。そしてそのまま、眠ってしまった。 朝、起きるとトキヤはいなくて、かかってあった毛布は違う毛布になっていた。ゴウンゴウン唸る洗濯機が怪しい音を出している。 ぼうっとしたまま、冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、鮮やかすぎるそれをコップに注いだ。今日は仕事午後からだったっけ。あっそうか。だから昨日飲み会いれたんだった。 何で今、すごく事後みたいな朝を迎えているんだろう。昨日はハントに失敗したはずなのに。 そのまま野菜ジュースを飲みながらテレビをつけると、爽やかな顔した翔が朝の子供向けの番組で笑ってダンスをしていた。翔この番組めちゃめちゃ似合うな。翔の元気な顔を見てこちらまでにこにこしていると、「翔ですか」 「うわ!?トキヤ!?」 ぬっとトキヤが背後から現れたのだ。がしがしとタオルで髪を拭いている。こちらからもそこはかとなく事後のオーラが…。 「あ」 トキヤを見て、俺は昨晩のことを思いだした。そういえばさわりっこみたいなのしちゃったんだった。わー途端に恥ずかしくなってくる。うわー。 「翔はやはり子供向けのアイドルですね…身長も低いから親近感を持たれるのでしょう」 さりげなく失礼なこと言われているよ、翔。 「もう、おはやっほーニュースの時代ではないのですね」 トキヤが少し寂しげな顔をして笑う。その顔を見て俺は、胸がなんだか締め付けられた。 「トキヤ」 「何です」 「今年、一緒にクリスマス過ごそうか」 きれいな目を見開いて驚いた顔している。俺はおかしくなって笑みを深めてしまった。 「…仕事が入ると思いますけど」 「そのあとだよ。この家でシャンパン飲んで、ケーキ食べるだけ。十分でしょ?」 「それもそうですね…」 ふんわりと笑うトキヤは可愛い。 今年のクリスマスは寂しくないなと俺は今からウキウキとしてしまうのであった。 |