オトミ | ナノ



オトミチャンの誘惑


※音也女体化の音美ちゃんです!


はあっ…はあっ…はあっ…。
 荒々しく息を吐いているのは間違いなく彼女である。それは彼女であって彼ではない。私と同室の彼ではないのだ。けれど、彼は彼女でもある。
終わりの見えない果てしない方程式に私の頭は限界を迎える。プシュウと音をたてて、自分の中のゼンマイが完全に停止した感覚を確かに感じた。
「んっ…んん…どう?」
「熱くて…ぬるぬるしてます…」
「うん…どうしてこんなになっちゃったと思う?」
 大きな瞳が挑戦的に私を見上げる。いつもより幾分も小さい身体が妙に艶めかしい。私は耐えきれなくなって視線を逸らした。彼女が愉快そうにケラケラ笑う。
 下の毛も赤いのだろうか、などと一瞬下世話なことを考えた自分を呪いたい。私は確かにその秘めたそこに触れているのにスカートの中は覗けずにいた。それでもその花弁を裂いてしまおうと指先を埋めているのである。ぬちぬちと部屋に水音が響き、羞恥でどうにかなりそうだ。けれど彼女は、先ほどから短く息をついている。
「あっ…!」
 彼女が一際大きな声をあげて、びくんと体をしならせた。今までと違う反応に少し驚いてしまう。快楽に身を興じたと思えば、すぐさま姿勢を立て直し、私を射抜く。
「はあっ、そこ…その、コリコリしてるところもっと擦って…」
「こ、ここですか…?」
 試しにやや強めに、きゅむっと摘まんでみると先ほどよりも大きな嬌声をあげた。あまりに反応がすごくて怖くなる。
「うん…うん、そう。そこ女の子が一番気持ち良くなるところだよ…」
「痛くはないですか…?」
「…ちょっと乱暴なぐらいが濡れるの」
甘い蜜のような声色で、ずる、と顔を近づけて囁いた。私はこれ以上ないほどに頬を紅潮させてしまう。
だって仕方ないではないですか。私は女性とこんな濃密な触れ合いなどしたことがないのですから。
女性?女性…。

 一十木音也は確かに男だった。男性である私と同室なのだからそれは当たり前の事実のはずだ。夏までは確かに男だった。けれど、罰ゲームで女装してから音也は本当に音美と言う名の女性になってしまったのだ。
音美だなんてふざけた名前、いい加減にしなさい!と怒鳴ると、「この名前気に入っているのに!トキヤでもひどいよ!」と、わっと部屋で大泣きしてしまった。レンにはレディを泣かすだなんて最低だとか、翔には女を泣かすなんてぜってえ許さねえ!とか始めは私をみんなでからかっているものだと思っていた。
けれど私は見た。音也の体には二つの膨らみが宿っているのを。その膨らみは本物ですか?と聞くと、触ってみる?トキヤならいいよ…とかなんとか口説かれて、そのまま乳房へと誘われてしまったのである。

そこから私の人生、日々は転落する一方だ。ちなみに柔らかかった。
なぜか、音美の胸に触れた翌日HAYATOとしてレギュラー出演していたクイズ番組が降板となった。新しいグラビアアイドルを使いたいからとのそうだ。クイズ番組は体をはった罰ゲームも多くあったし、了承をした。氷室マネージャーはあのディレクターはわかっていないとずっと運転中愚痴をこぼしていた。
よって収録時間がひとつぶん空きが出たわけである。その分部屋に入れる時間が増えた。音美はやけに可愛い顔をして、今日は仕事ないのお?とか聞いてくる。なるべく無表情でないですよと言ってみせると、嬉しい!と明らかにハートマークを語尾にまき散らしたような口調で私に抱きついた。柔らかな膨らみが纏わりつく。
「今度はこっち触ってみる…?」
音美のショートパンツからは無防備な太股が伸びている。健康的な肌色がまぶしい。思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。
「…そう言ったことは、やめなさい」
「どうして?」
「じょっ女性ならもっと慎ましい行動を目標とっして…」
「あはは。トキヤ噛んだ」
「…………」
「ふふっ…トキヤかわいいね…かわいい…」
 音美がますます近づき、私の胸を撫でる。夏場の薄いTシャツにはあまりにも暑すぎる体温だ。掌でそっとなぜ、胸の尖りに悪戯にカリ、と爪をたてられ、大きく息を吐いた。
「やっやめなさい!」
「もう本当にトキヤかわいい」
 それはこっちのセリフです!という言葉はぐっと飲み込んだ。
「だ…男性に可愛いなんて言葉は…」
「だってさっきからトキヤ、おれのこといやらしい目で見てるよ」
 はっとして彼女に視線を流すと、にんまり満足したように笑っていた。まぶしいスマイルだ。それでもどこか色気の含んでいるような気がする。視覚から、鼻腔から、少しずつ彼女が私を犯す。振り切るように息を重く吐き、ついに私は彼女の豊満な乳房に顔を埋めてしまった。
「おれのからだはトキヤのものだから、好きにしていいんだよ…」
その言葉を最後に私はがむしゃらに彼女のTシャツを脱がし、乱暴に胸を揉み、頂きに吸い付いた。夢中すぎてブラジャーの色や柄なんて覚えていない。白だったようなピンクだったような…。でもショートパンツは脱がせていない。

 予定していたコンサートが延期となった。
会場側の都合で、セットに不備があったようだ。危険かもしれないので点検が必要とのこと。夏のコンサートは冬に持越しにされた。
このショックはクイズ番組のレギュラー降板を遥かにしのぐものであった。今回は、真面目な曲も曲目に入っていたのに。
目に見える落胆ぶりもHAYATOのキャラクターでは絶対に見せてはいけない。残念だにゃあ!みんなまた今度!星マークを三つつけるぐらいの勢いでトークをしなければならない。
この件に関して氷室マネージャーは、涼しい顔をしていた。ハヤトッ!ドンマイ!いやに軽やかに言われた。海鮮料理でも奢ってやろうかと言われたけれども、そんな気にはならなかった私は、そのまま寮へ帰った。

 寮へ帰ると、なぜかバスタオル一枚でウロウロする音美がいた。どうしてそんなに無防備なのでしょうか。濡れた髪がパタパタと滴り落ちる。一応ただいま帰りましたと聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟くと、玄関で待っている飼い犬のように、走ってきては…こなかった。
「え!?わっトキヤ!?予定より帰ってくるの早くない!?バイトは!?」
「……中止となりました」
「ええ〜!うそお!うわっおれ、こんな格好で…!ご、ごめん!」
 今まで散々誘惑しておいて、ここは恥らうポイントですか?
バタン!と大きな音をたてて、浴室に彼女は籠ってしまった。そしてそろりときちんと部屋着を着て、戻ってくる。それでの髪は濡れていて、頬は蒸気しているし十分いやらしい。羞恥からかますます顔を赤くさせていた。
「みっともないとこ見せてごめん…」
「いや…意外ですね少し」
「意外って?」
「そんな格好ぐらいで恥ずかしがるだなんて」
「………っ」
「あいたっ」
 ベシン!と派手な音をたてて、彼女は私の二の腕を引っぱたいた。私は色が白いので目だってしまうではないですか。
「おれのこと何だと思っているの!一応女の子だよ!」
 顔を真っ赤にさせて音美はそんなことを言った。いや、女の子と同室なほうが問題ではないのですか。
 でも、上目遣いの潤んだ瞳、濡れた唇に薔薇色の頬、どれもとても可愛らしい。私は気づけば、一歩一歩と踏み出して、彼女の頬に掌を添えていた。
「トキヤ…?」
「本当にかわいい人ですね…」
 そのまま誘われるように濡れた唇へ私は…。「…いいの?」
あと何ミリかと言うところで音美が口を動かした。ピタリと寸前で止まる。
わ、私は何を…。その瞬間、頭の中に退学と言う文字が浮かび上がった。今までの心臓の鼓動が一気にせりあがってくる。止まっていた時間が動き出した。バクバクバクと走り去る。
彼女は気にすることもなくニッコリと笑って、ドライヤーで乾かしてくると言っていた。いつもドライヤーつかってましたっけ?
その晩も特に何することもなく一日は終わった。
次の日は氷室マネージャーの電話でたたき起こされた。今度は動物バラエティの出演のオファーらしい。彼の興奮した声からゴールデンタイムであることは予想された。
なんだか毎日めまぐるしい。
すべて音美に振り回されている気がする。
ん?音也はどこに行ったのでしょう。
日に日に音也の影が薄くなる。音美に塗り替えられていく。

ついに私は、襲いくる誘惑に耐えられず彼女のショートパンツを脱がしてしまった。
そして冒頭に至るわけである。
彼女の中を指先で埋め込み、好き勝手している。でもスカートの中身は結局見れていない。制服はもうだるんだるんだ。冷房もつけずに、汗まみれになってこんなことをしている。汗ばむ空気と肌、質感。
彼女が一番弱いと言う、花弁に眠る芽を私は弄り続けた。ぷっくりとそこは興奮に膨らんでいる。私も気付けばゼエゼエ息と吐いていた。けれど相も変わらず挑戦的な瞳だ。私の方が余裕がない。
「トキヤ、パンパン」
「うあ…っ」
スラックス越しにすりすりと撫でられ、私のそれはもう先走りに濡れている。やや乱暴に指先を抜くと、ぬるんとスカートの中身と私の指が一瞬指先を紡いだ。
「音美…だめです、もう私は…っ」
「我慢できない?」
「はあっ…はあっできませ…っ」
「いれたい?」
音美が膝立ちになって、スカートをひらひらさせる。彼女が膝立ちになったことによってシーツに染みができていることに気付いた。ひらひらとスカートが揺れている。私はもう唾液もだらだらで、心臓も痛いぐらいなのに彼女は余裕そうに笑っていた。
「ね、トキヤいれたい?」
「い、いれたいです…」
「本当に?いれてもいいけど…」
「けど…?」
彼女はゆらゆらとスカートを揺らしたまま笑っている。
「全部失うよ、たぶん」
「どういう…」
「今まで頑張ってきたものすべて」
いつもの音美とは違う雰囲気であった。普段の可愛らしさなど微塵にもない。淫靡なそれのみである。それでも滴らせる愛液は一体何なのか。
「いれたいなら、キスして」
 なんとまあ、可憐な声なのだろう。すっと澄んだ声色だ。
「君は…歌をうたわないのですか」
「歌…?」
「君と出会ってから、君の歌を聞いていないと思って…」
「……」
「そんなに人を惹きつける声を持っているのに歌を歌わないなんてもったいないですよ」
「ふふ…音楽バカだね、トキヤは本当に」
意識が朦朧としていく。熱を持て余す下腹部を今すぐにでも放出してしまいたかった。自分が何を話しているかもわからない。
コツン、と音美が額を私にくっつける。そこはなぜか異様に冷たかった。
「トキヤ、キスしてよ」
「ええ…」
そのまま、あの晩できなかった口づけを私は彼女に落とした。あんなに触れ合ってきたのに、彼女にキスをしたのはこれが初めてであった。

***

「トキヤ!!」
「ん…?」
 長い夢を見ていた気がする。目が覚めるとそこはいつもと同じ天井だ。
寝ぼけた眼をこすらないまま、ぼうっとしてるとトキヤトキヤと声が聞こえる。
音也だ。
「音也…?」
「そうだよっもう時間だよ!起きて!」
 その声がまぎれもなく男の声であった。男子の制服を着た音也だ。
「めずらしいね、トキヤが寝坊なんて
「少し疲れていまして…」
「そう?俺はいつもよりスッキリ目がさめちゃった!あ、俺準備あるから先朝食食べちゃった」
「はい…」
 モソモソと洗面台に行き、顔を洗うと少しシャキッとしてきた気がする。濡れた顔を拭うためにタオルでふくと、ふと洗面台の鏡の後ろに彼女がいたのだ。
「音美…!?」
「えっどうしたの急に大きな声出して」
 にへらと笑う顔は音也でしかない。
 ドクドクと動悸が早くなる。
「今日また女装実習なんだ!似合う?」
「え、ええ…とても…」
 くるくると回る姿はとても可愛らしいが、私はうまく笑うことができずにいた。
どこかでまだ彼女を渇望しているのかと、ほの暗い願望にはまだ気づかないふりをしていたかったのだ。