恋心 ※女体化百合です!!! ※レン♀とトキヤ♀で、イチコではありません。 ※音也くんと聖川くんは♂です ※マサレン♀要素、音トキ♀要素共にあります モデルのようだと昔からチヤホヤはされていたけれど、反面女のくせにでかいとも囁かれていたのはこの身長のせいだ。 私は自分の容姿が好きだ。自信も持っている。しかしあんなにも素直に誉め言葉を受けとることができたのはきっと初めてだろう。 「あなたは背が高くてモデルのようですね。同じ女性としても憧れます」 その視線には明らかなる羨望が見えて、私はおもわず顔を赤くしてしまった。忘れもしない。これは一之瀬トキヤの言葉である。 * 可憐な少女の過去の言葉はいつだって私の胸を焦がしていく。 一ノ瀬トキヤは白い陶器のような肌を持っていた。 第一印象はあまり良いものではなかった。今時、黒髪のおさげにメガネだなんてありえない!と思っていたし、絶対に友人になるようなタイプではないだろうとも思っていた。けれど彼女の歌声を聴いたとき、心が震えた。なんと美しい歌声なのだろうと思った。 それから私は興味本位で彼女に近づいたのだ。なあんだ、よく見ればきれいな顔をしている、と思いながらまじまじ見ていると彼女はふと息をついて冒頭の台詞を私に言ったのであった。 彼女の美しさがまわりにバレるぐらいならいっそこのままでいい思うようになり始める。私はどんなに男性たちに囲まれていてもお昼だけは彼女と取るようにしていた。 今は昼休みの一時である。風がそよそよと気持ちがいい。早乙女学園は学園の広さから、案外穴場が多かった。湖の見えるここは、静かだし、風も気持ちがいい。私は特にこの場所が気に入っていた。お昼ごはんを食べた後ぐらいはゆっくりしたい。 「レン…」 「なに?」 「その…」 眼鏡の奥の伏せた目もとは儚げだ。長い睫毛はレンズにあたってしまうことはないのだろうか。そして、ゆっくりと果実のように濡れた唇が開いた。 「な、なんでもありません…」 やっと絞り出た言葉はそれかぁ、と内心苦笑する。なによそれぇ!と彼女を後ろから抱き締めるといいにおいがした。 「ちょっ…」 「いいにおい…」 「私は香水などつけていません…っ」 「ふふっわかってるよ。シャンプーのにおいだよね?何つかってるの?」 「…っわざとですね?」 「えー?なになに、教えてよー」 長い髪をさらりと手にとり、口付けると彼女が目の前で顔を赤く染め上げた。そして観念したように呟く。 「誕生日に…あなたから頂いた、シャンプーです…」 「…嬉しい…」 ぎゅうっと後ろからますます強く抱き締めてしまう。女の子は柔らかくていいにおいがする。そのまま胸をまさぐると、びくん!と大きく彼女の肢体が震えた。 「なっ…どこ触って…っ」 「あれは?ちゃんとつけてる?」 「あれって…」 「誕生日と一緒にあげた、下着 」 耳元に唇を寄せて囁くように言ってやると、ますますカアー!と派手に顔を赤くさせて面白い。同時にかわいいとも思う。 「で、どうなの?」 「あっ…」 そのまま長いスカートから手を忍ばせ、彼女の柔らかな白い太股に触れる。完全に硬直しきっていた。 「教えてよ…」 「んぅ!」 右手を脚の間に滑らせ、左手を悪戯にぎゅむっと強く胸をもんでみせれば観念したようにイッチーがついに息を吐いた。 「きょ、今日はつけていません」 「あら残念。見せてもらおうと思ったのに」 「あなたはそういうことばかり!」 「あはは!ごめんごめん。で、いつつけてくれるの?明日?」 「ま、まだ封も空けてません」 「えーせっかく買ったのに!」 「特別な日に、着ようと…」 その瞬間、私は言葉を失った。 彼女に似合うと思って買った白いコットンレースの上下の下着はいつか私ではなく男に披露するのではないかと、脳裏にあらぬ妄想が浮かんだのだ。 あのラベンダー色の刺繍は高貴な彼女をおもわせたからこそ捧げたのに。 いつの日か知らない男に抱かれ、花を散らすのかと思うとほの暗いきもちになった。 「レン…?」 「せっかくプレゼントしたんだから、早くつかってあげてね…」 ああ、もう恥じらったように可愛く笑わないでよ。 「あの、レン、私…」 「何?」 「……やっぱり、何でもありません…」 お昼休みの終了を伝えるチャイムが鳴るまで、イッチーは目をあわせてくれなかった。 * 「イッチー…」 ざわめく教室の中、私は目を見張った。 私の知っていたイッチーではなくなっていたからだ。 「おはようございます、レン」 「その髪、眼鏡も…」 「似合いませんか?」 長かったみつあみはばっさりとなくなり、外はねのショートの、まるで少年のような髪型になっていた。元々中性的なきれいな顔立ちだ。よく似合っている。それを隔てる眼鏡もない。あれだけ長かったスカートも短くなっている。 「いや…よく、似合ってるけど」 「やっぱりあなたの言う通りにしてよかった」 「私の?」 「変わりたいと思うならまず見た目からって言ったのはあなたですよ」 そんな格好して気持ちまで暗くならない?変わりたいと思うなら見た目から変えなきゃ。 そういえば、そんなようなこと言った気がする。彼女の黒髪を撫でながら。 「レン、報告したいことがあります」 こういうとき、大抵良いことは起こらない。少しでも時間を伸ばしたいがために、また昼休みにね、と一言いった。震える声を必死で押し殺した。 * 今日のお昼はどうにも喉に通らなかった。熱いコーヒーを何も考えずに通してしまう。嫌な胸騒ぎがしていた。イッチーはまだ重い口を開かない。きっと言葉を選んでいるのだろう。私はぼんやりとその横顔を見ていた。 彼女はこんなにも涼やかな顔立ちだっただろうか。ショートにして、少年らしさと女性的な可憐さが入り混じって独特の色気が溢れている。ますます魅力が倍増だ。 「…なんですか?」 「髪、似合うなって」 「ありがとうございます…」 照れた顔は長い三つ編みをたらしていたときと変わらない。 「あの、私レンに話したいことがあって」 「うん、なあに・・・」 「あの、笑われるかもしれませんが、私…」 「うん」 「想いを伝えたい人が、いて」 「うん……」 いつかこんな日が来るのではないかとは思っていた。男は簡単に女をさらってしまえるのだ。 髪を切った彼女を見たとき、なんとなく想像はできていたのだ。 「相手は、男?」 「…?え、ええ…」 そんな不思議そうな顔しないでよ。なんだか段々とイライラしてきた。乱暴に三つ編みを掴もうとも、もうそれは存在していない。 「私よりきれい?」 「それはありえません!」 ずいっと顔を近づいても、顔をそらしたりなんてしない。白い肌がつるりとしている。化粧っ気がないのに、とても美しい。私よりもあなたのほうがずっときれいなんだよ。 「どんな男?」 彼女の白い頬に指先を添え、囁くように言ってやる。みるみるうちに頬は赤く染まっていく。 「明るくて、いつも元気で、こちらまで気持ちが明るくさせるような人、です」 「好きなんだ?」 「…好き、です」 熱っぽい瞳と甘い声色で、そう答えた。一ノ瀬トキヤはもう女でしかない。男を求め始めた女だ。私の中の何かが崩れていく。嫌な緊張感で胸は高鳴り、息苦しくなっていく。私は苦し紛れに彼女の頬、首筋に唇を寄せた。 「レン…?」 「…妬けるな」 「…っレ…!?」 無言で彼女のリボンをしゅるりとほどいた。ぎょっとした彼女が瞳が見慣れない表情で少しおかしい。 乱暴に制服を脱がそうとすると、七を察したのか途端に暴れだした。 「いっ嫌ですレン…!何をするんですか…っ」 「いいから…」 「や、嫌…レン…!」 少女の砦である制服はなんとまあ繊細で、そして弱いのだろう。少し触れれば簡単に壊れる。 彼女の下着を無理やり見たとき、予想をしていた悲しみが溢れた。 「これ、今日つけてくれたんだ」 「……っ」 誕生日送った私の下着を彼女は本日つけていたのだ。白い肌にも、小振りな乳房にもよく似合っている。ラベンダー色の刺繍も予想以上にぴったりだ。 「よく、似合ってる」 「……あの、そろそろ見るのやめてくれませんか」 「どうして?」 「恥ずかしいんです…」 「でもいつか一十木音也に見せるかもしれないよね」 「なっ!!」 「わかりやすいんだよ…」 あの男に、こんなにもかわいい彼女が奪われるのか。ああ、本当に面白くない…。 「レン、すみません私そろそろ…」 「えっ、昼休みまだ終わってないよ」 「音也と約束が…」 イッチーの言葉に胸がずきりと痛む。もう泣きそう。私はずっとずっとイッチーが好きだったのに。伝えることさえままならなかったのに。 「レン」 「……」 「そんな泣きそうな顔しないでください」 「泣いてなんか…っ、!」 その瞬間、ちゅっと音をたてて柔らかな唇が頬に降った。茫然としていると、目の前で彼女が照れたように小さく笑う。 「やられっぱなしは性に合いませんからね…お返しですよ」 「……え」 「ふられたら、慰めてくださいね」 うふふ、と笑って短いスカートを翻し、彼女はぱたぱたとその場を後にした。そんなにもかわいい君をふる男なんていくら探してもいないと思うよ。 それにイッキはずいぶん前から君のことを気にかけていた。 「あー…落ち込むなあ…」 ごろりと芝生に寝っころがると、思いのほか広大な空が広がっていた。いつかこんな日はくる。女は男に奪われるものだ。どれも、傷つかないように覚悟をしていたものなのに。それでもじんわりと涙は浮かぶ。私は、本当に彼女が好きだったのだ。そのまま目をつむっても浮かぶのは彼女のことばかり。どんどん悲しみに明け暮れそうだ。 「おい」 すると、ふと低い男の声がした。ぱちりと目を開けるとそこにはよく見知った奴がいた。 「聖川真斗…!?」 「そうだ」 「なっ何当たり前のように隣に座ってるの!?」 慌てて、体を起こし、短いスカートを引き延ばす。私の仕草などまったく気にならないように一瞥した。 「メロンパン食べるか?」 「そんな高カロリーなものいらない」 「涙もひっこむぞ」 「涙なんか出てない!」 「そんなに目元赤くして何を…」 聖川の手が目元に伸びて、私は思い切り彼の手をはたいた。彼は表情を変えなかった。そういうかわいくないところが嫌いだ。 「男は触るな!」 「相変わらず男が嫌いで、女が好きなのかお前は。女のくせに」 「…っそういうお前は相変わらず古めかしい考え方だな。男のくせにとか、女のくせにとか」 「女は男に勝てない。それが世の理だ」 「……今、それ言う?」 思い出しただけで涙が出てくる。これから先、イッチーはイッキにすべてを侵され、すべてを奪われる。私には絶対にできないやり方でだ。誰のもでもなかった清廉の少女が汚される。 私は膝を抱え、丸くなり、顔をそこに埋めた。真っ暗なそこにもまだ彼女はそこにいる。 「お前は早く俺を好きになればいい」 「………」 「そうすれば楽になれるぞ」 「もう黙ってよ…」 私の秘かな恋心よ、さようなら。 こういうとき、何も言わずに隣にいてくれる聖川真斗のことが、私は嫌いではなかった。 |