どうしようもない君がみたい | ナノ



どうしようもない君がみたい




 トキヤが起床するまでに何回も目覚ましを二重にも三重にもかけていることを知っている。同室だった頃、彼は目覚ましを携帯のバイブにしていたみたいで、まったく気づかなかったがベッドを共にするようになってから知った。音ではなくバイブというところは俺に気を遣ってのことだろう。

 朝からトキヤはシャキッとしているのかと思いきや、意外にもぼうっとしている顔を見せてくれた。黒いパジャマを揺らめかせ、そのまま洗面台に立って歯を磨いたりあれこれしている姿は庶民的で可愛い。
 俺が起きてベッドから観察をしているとも知らずにトキヤはパタリと浴室へ入ってしまった。彼は朝にシャワーを浴びるために早めに起きているのである。
 恋人がシャワーを浴びている音が、こちらにまで響いてくる。朝でも昼でも夜であっても、この音はドキドキしてしまう。昨夜散々いじめた体がシャワーを浴び、流れ落ちた液体が排水溝に吸い込まれていくところまで想像して、慌てて頭を振り切った。
 シーツはまだ俺を離してくれない。微睡む温かさが俺に絡みつく。
 しとしととシャワーの音、小雨の音。それらに包まれると心地よい眠りに引き込まれそうだ。

 浴室から出たトキヤはもう朝のぼーっとした雰囲気も洗い流したのか、いつもの凛とした雰囲気の彼が完成されている。髪もセットされている。シャツに黒いスキニーパンツを履いているトキヤはスタイルの良さが引き立っていて、それもまたきれいだけど、少し残念だ。彼氏としてはもう少しだらしのない姿も見たい。そしてツカツカと俺の眠るベッドへと近づく。
「音也。朝ですよ。いい加減に起きなさい」
「んん〜……」
「ほら」
「トキヤがおはようのチューしてくれたら起きるよ」
「…!」
 ぐっと、ベッドに引き込んで、トキヤを引き寄せる。端正な顔、おはよう。
「ん……」
 目を瞑って唇を寄せて、五秒待っても、何も起きない。代わりに降ったのは、
「しませんよ」
 という予想外に冷たい響きを持った言葉だった。
「あ、はい……」
「まったく…朝食用意しますから、さっさと着替えなさい」
 うん、まあ昨日も散々したしね。
 欠伸をひとつして、だらだらと俺は用意を始めた。



「今日、一緒の取材だね」
「ええ」
 トキヤのトーストにバターを塗る姿はとてもきれいだと思う。滑らかなバターはこんがりと焼けた食パンの上で、すぐさまじゅわりと溶けてなくなってしまう。さらさらとトキヤはそれを撫でつけていた。
 俺はバターを塗ったトーストの上にすぐ目玉焼きをのせてしまう。サクサクとそれを口にいれながら、横目でテレビを見る。今日は一日中雨だと天気予報が言っていた。
「ねえ」
「物を入れたまましゃべらない」
「久々の俺との一緒の取材、嬉しい?」
「……」
 きりっとお説教したはずなのに、トキヤの顔はみるみるうちに赤くなる。
「悪くはないですね…」
「はは、そうだね」
 トキヤは素直じゃない。だけど表情ですべてを物語る。だからトキヤはそれでいいんだ。俺だって満足できる。
「ああ、お腹いっぱい。トキヤ、ごちそうさま」
 そう言うだけでトキヤは柔らかく笑う。ああ、ほだされているなあ。
 しっとりとした幸せに包まれている感覚は、温かい。けれど時々、あの孤高の一ノ瀬トキヤを思い出すことがある。
 学生時代の彼は、HAYATOという彼を押し込み、だがひたすらストイックに、歌を追い求めていた。彼の目指すものは常にパーフェクトだった。そのためには努力も何も惜しまなかった。
 そんな彼を、俺が奪ってしまった。そんな妄想に憑りつかれることも多かった。
「今日一日雨なんだって」
「天気予報見ていたので知っていますよ。…少し冷えますね」



―もしもデートをするなら、どんなプランを立てますか?
「お相手によりますね。人によって好むものは違うでしょう。その方に合わせてプランニングしていきたいです。あ、あとサプライズは好きですね」
―サプライズ?クールな一ノ瀬さんにもお茶目な面があるんですね(笑)。一体どんなサプライズをするんですか?
「記念日には必ず花束をお渡ししますよ。日付を越えた瞬間に渡したいので、それまで一緒にいても絶対に内緒にしておきます。ああ、トランクを開けたら一面の薔薇、なんてこともしてみたいですね」
―意外に情熱的で、ロマンチストなんですね!それは過去の経験でしょうか。
「はは…。まさか…私の恋人は歌ですから。寝ても覚めても歌のことばかり考えていますよ」
―本当に歌が大好きなんですね。
「ええ。歌が私を一番興奮させてくれますね」

 きわどいトキヤのセリフに、インタビュアーの人も少しびっくりしていた。隣の俺は少し気まずい。
 だけど今トキヤの顔は余裕に満ちていた。何だろう。彼氏ができたことによって、できた女の余裕みたいな…。
 女って。トキヤは男だよ。彼氏は俺だよ。ならばトキヤをこんな風にしちゃったのは俺なのかな。
 クールでストイックキャラだったトキヤは少しずつ剥がれ落ち、元々大人びてはいたけれども、さらに大人っぽいキャラクターになった。雑誌にてレンと一緒にほぼヌードのようなセクシーなショットを載せていたときはさすがに良い気分はしなかった。
 レンはセクシーとは言えども健康的というか、外国人のような雰囲気があるから、かえって格好良いと思う。だけどトキヤはどうにもやらしく見えて仕方なかった。ベッドの上の彼までも俺が知っているからだろうか。



「あのさ、さっきのインタビューの回答きわどすぎない?」
「はい?」
 ビルの中の小さな休憩所で、俺はカフェオレ、トキヤはコーヒーを飲んでいた。自販機の前で缶コーヒーを飲んでいる姿まで絵になる。この人は格好良い人なのだ。
「あの、興奮がどうとかさ…」
「ああ。ちょっとしたリップサービスですよ。あの雑誌の読者はティーンが多いですからね。ちょっと刺激的なことを挟んだ方がウケが良い」
「そう……」
「そんな不機嫌そうな顔をしなくても。私で想像する方々は女性相手なのですから」
「ちょっ…そんな言い方!」
 ガコン!と乱暴にコーラの缶を置いて、トキヤに詰め寄る。彼は何とも思っていなそうな顔をしていた。
「私に抱かれたいと思っている女性はきっとたくさんいます」
「は…?」
「私はファンを大切にしたいと思っています」
 だから何?何が言いたいの?心臓がざわめいた。
「でも私はあなたに抱かれています」
 すっと切れ長の瞳が俺を刺した。睫毛がばさばさと白い頬に影とつくっている。男だけど、とてもきれい。トキヤはトキヤの美しさを持っている。
「それがきっと最高の裏切りなんです。本当の私は違う……」
「……HAYATOみたいなことをまたしようとしてるってこと?」
「…っ違います!でも、私は、せめて彼女たちに夢を見てほしいんです……」
 その考え方は正直よくわからないな。けれど、この業界仮面をつけなければ、やっていけないことはわかるよ。正直者はバカを見る世界だから。
「キャラをつくってるわけじゃ、ありません。過剰な表現はありますが、嘘をついているわけではない」
「嘘はついてないの?」
「ええ」
「じゃあ、歌が一番興奮させてくれるってのは本当なんだ?俺は?」
「…ふ、歌に嫉妬ですか?」
 トキヤがおかしそうにクスクスと笑う。なんだかそれが面白くなかった。こうなったら無理やりにでもキスしてやろうとすると、
「…んんっ!?」
 ぐっと腕を掴まれ、トキヤに乱暴にキスをされた。コーラの缶置いておいてよかった。零すところだった。スムーズに顎を持ってキスをされるとき、彼が俺よりも背が高いんだって思い知らされる。
「ん、んう……」
「は……っ」
 ぺろりと唇を舐められ、目の前で妖艶に笑われた。ファン卒倒もののスマイルだ。そっと白い指先で俺の唇をしーっと抑えるような動作をした。
「あなたは、にばんめ」
「なっ……」
 何だよそれ!
 カッとなって、俺は自販機にトキヤを押し付けた。白い細い手首は強く握りすぎて痕にはならないだろうか。いいやかまうものか。
「ん、」
「ふ、ぁ……」
 がぶりと噛みつくように彼の薄い唇を奪う。あむあむと柔く噛み、そのまま舌を差し込んだ。
「おとや、ここじゃ、人が…」
「うるさい」
「んう……っ!」
 俺にされるがままにキスをされていたトキヤは女のような顔をしていた。孤高の一ノ瀬トキヤよどこへいったのか。俺が彼の男しての尊厳を奪ってしまったのだろうか。だけど、俺だって十分にトキヤに色々奪われているよ。お互い様だよ!
「は、はあ……おとや……」
「ん……反応してる?」
「ひん、」
 すりっと細身のスキニーの上から太股をなぞるとトキヤはびくりと反応した。はふ、と湿った熱い息が耳元で感じられてまたぞくぞくした。
「次もまた取材あるでしょ。我慢して……」
「言われなくても。誰に言っているんですか?」
 ピコピコと光る自販機の前でトキヤが挑戦的に笑った。
「夜、楽しみにしていますよ」
 本当にこいつどうしようもないなあ……。
 と思ったが、黙ってトキヤを解放した。
 トキヤは開き直ると、その精神を曲げない。誰にも負けない。気付いたら俺の知らない間に決断をして、物事を進めている。HAYATOという鎧を脱ぎ捨てたトキヤはますます輝いていく。
 葛藤もあるだろうが、生き生きとしている。実際トキヤは今波に乗っている。人当りも良くなったし、現場の人たちとも楽しくやっているようだ。人付き合いも格段に良くなっている。
「それが寂しいな、なんて……」
「何か言いました?」
「ううん、何でもない」
 トキヤぐぐーっと温くなったコーヒーを飲み干し、ガコンとゴミ箱に捨てた。俺はコーラの中身を少量残したままゴミ箱に捨てた。



 めずらしく今日は互いに取材のみで帰りまで一緒だった。夕飯は久々に外食をしようと言って二人でイタリアンのお店に入った。ちょっとしたデート気分で俺は内心ウキウキだった。
 トキヤは気分が良いからと言ってスパークリングワインを開けていた。俺は適当なフルーツ系のカクテルを頼んだ。
 平日の中途半端な時間だったから、そこまで混んではない。男同士二人でイタリアンとか気恥ずかしい気もしたがたまには良いかもしれない。トキヤも同じことを思っていたのか、ぐいぐいワインを飲んでいた。


「天気予報当たった。今日ずっと雨だったね」
「…ええ」
 食事を終え、談笑をし、店の扉の前で透明のビニール傘を広げる。右にならえのようにトキヤも黒い傘をバン、と広げていた。
「帰ろうか」
「ええ」
 少しだけトキヤの足取りが頼りない。本当は肩を抱いて歩きたい。だけど、うまく手が伸ばせなかった。傘が邪魔だ。トキヤが濡れてしまうかも。
「そんなに飲んでいたっけ?」
「久々にあなたと一日中いれたから、浮かれてしまいました」
「……っ」
 だから朝から上機嫌だったのか。そういうところは素直に可愛いと思う。
 もっとトキヤは大人っぽいと思っていた。一気に陥落してしまったなあ。本当のトキヤはこっちなのかな。それとも俺が引っ張り出してしまったのか、変えてしまったのか。
「こんな日もそうそうありませんから」
「そうだね……」
 そう言って、俺らはそのままマンションへ帰った。



「ん、んう……」
「ん……」
 帰るなり、すぐに唇を寄せ合った。この時期は上着を脱ぐ時間がないからいいなあ、と思いつつ、バフンとベッドに倒れ込む。
「は、おとや……」
 目の前でトキヤがデニムシャツをプツンプツンと脱ぎ始める。いつのまにこんなカジュアルな格好をするようになったのだろう。前はもっときれいめって感じだったのに。
 シャツを脱ぎ捨て、がばりと黒いインナーを脱ぎ捨てる。トキヤがあなたも脱ぎなさいと目で言ってきたので、俺もポロシャルを脱いだ。俺もトキヤも上半身裸だ。雑誌とは違う艶めかしさを持った肢体。
 そっと彼の首筋、胸筋、腹筋となぞっていく。切れ長の目がそれをそっと追っていた。
「ああ〜……やっぱだめだ…」
「何ですか」
「やっぱりトキヤのこの体が雑誌に載って色んな奴らに見られていると思うと…」
「ああ…この間のレンとの…」
「いやわかっているんだよ、割り切らなきゃいけないこともわかっているんだけどさあ…」
「だから私で想像をしているのは女性の方なんですからそんなに気に病まなくても」
「男だっているに決まっているだろ!」
 予想以上に強い語尾になってしまった。トキヤはキョトンとしている。
「俺らが付き合っているぐらいなんだから、男が好きな男だっているんだよ!だからトキヤに恋をしている男だっているんだよ!」
「ああ……そういえば男性の方からもファンレター頂きましたね」
「はあ!?何でそれ俺に言わないの!?」
「もう…どうしたんですか…あなたにだって男性のファンぐらいいるでしょう」
 それより、とトキヤが俺にちゅっと軽く音がたつだけのキスをした。
「嫉妬しているのはご自分だけだとお思いで?」
 まただ。またそのイヤラシイ笑い方。口の端をくっとあげるような笑い方だ。切れ長の瞳はキツネのように細められる。
 カチャカチャと俺のバックルを外し、パンツも下着もずらし、彼はつ、と俺自身へ唾液を垂らした。舐めてくれる、とう思ったときにはすでに口にいれられていた。
「は、はふ……」
「あ、トキヤ……」
 先端へキスをしたあと、チロチロと謙虚に舐め始めた。そのうち唇をすぼめてくる。
「ん、ん」
「は、あ……あ、それいい……」
 れろんと裏筋を舐められ、玉も手で刺激される。シャワーを浴びぬまま咥えられるんだから相当どうしようもないと思う。こんなにきれいなのに。俺もトキヤにやれって言われたらできるつもりだけどその命令をくだされたことはない。
「あ、ね、先っぽお願い……」
「ふ、ふぁい……」
「あ、ああ……っ」
 トキヤの唾液と俺のカウパー液が混ざりあって、ヌチヌチと濡れた音を濡らす。いつになく興奮している気がする。
「ん、んう、う………っあふ、」
「は、トキヤ……」
 トキヤの唇から洩れる吐息にも感じる。今すっごいドキドキしてる。ぐっと頭を撫でて、寄せると、苦しげな声を出した。
「あ、ごめんっ」
「うんん……っ」
 その反動か、ぬるんと彼の唇から俺のものが飛び出てしまった。
「おとや、いれてください……」
 この状態で!?せめていかせてほしいよトキヤちゃん。
「あの、お願いです……」
 そんなウルウルした目で見られたら、息もつまってしまう。だって俺お前の恋人だもん。
「わ、わかった、待ってローション……」
「自分でやります」
「もういいから落ち着いてってば!」
 俺がローションを用意し、べっとりとそれを掌にたらし、肌になじませている間、彼はボトムも下着も脱ぎ捨て、膝立ちになり、俺の肩に手をやる。
「は、あ……」
「昨日もやったから、なんか穴ゆるい……」
 ぬち、と指先を埋めると、きっと彼が睨んできた。そういうとこは妙に女の子みたいなリアクションなんだよな。別に怒らなくてもいいのに…。
「悪かったですね…」
「いやいや愛の証でしょ!?俺がトキヤの穴ゆるくさせ…」
「下品な言葉で言わないてください!」
「へぶ」
 べしゃりと顔面に手を叩きつけられた。面倒な恋人だ。
「もう、うるさいなあ、ほら俺限界だからちゃっちゃとやるよ」
「ちゃっちゃとってあなたね……」
 性行為の最中、ずいぶんと軽口が叩けるような余裕ができてしまったんだと思う。
 前はもっと必死でドロドロのグチャグチャだった。トキヤはいつも痛みに耐えていて、俺もどう動けばわからなかった。何度も繰り返して二人で考えてきた。どうやって気持ち良くなれればいいのかって。
 初めて体を繋げた日、トキヤが涙を流している姿を俺は初めて見た。痛みにトキヤは泣いているのだろうと思って、俺は申し訳なく思った。やっと繋がることができて嬉しいなんていうロマンチックなものではなく、痛みによる純粋な涙だったのだ。
 初めて俺のものを咥えたときのたどたどしい舌使い、今も覚えている。今みたいに唾液垂らしたりとか他のとこ触ったりとかもせずに、文字通り咥えてくれた。だけど俺は自分の、決してきれいとは言えないところをトキヤが咥えてくれたとき痺れるほどの歓喜に震えたんだ。



「はー…はー…」
 美しい肢体は俺の上で揺れている。白い体に肉色の自身がぷるんと震えていて、本当に彼に似合わないものがついているなあと思った。コンサートのときは男らしくて、本当に格好良いのに。
「は、ア、あー……ン……」
「気持ちよさそうに腰揺らしてるなあ……本当に上に乗るの得意だね。乗馬でも始めてみれば?」
「…っあなたって、ほんっと最低……」
「いやごめん冗談……だよっ」
「ひゃん!あ、あう……っ」
 ぐっと腰を打ちつけば、ぐらんぐらんと不安定に細い体が揺れていた。本当にトキヤってスタイル完璧。オールヌード写真集も怖くないね。肌が白いからどんどん桃色に色づく姿も、俺を煽って仕方ない。本当に最高の恋人を手に入れた。
「は…私が騎手なら、あなたが馬ですよ」
「え…?」
 ひゃん!とか言っていたのに今度はトキヤは強気な笑みを浮かべた。
「手綱が必要ですかね…?」
 と言って、つつ、と俺の首筋をなぞる。ちょっと怖い。
「それはちょっと嫌だなあ…俺も仕事あるし」
「ははっ…あなたが仕事だなんて、偉くなったものです」
「わわっ、ちょ、いきなり締めないで……っ!」
「ん、んう……あン」
 トキヤは好き勝手に腰を揺らして、自分の欲望のまま動き出した。いつも自分を抑えているから、自己中心的に動くトキヤはすごく魅力的だと思う。もっと好き勝手に動いていいんだよ。
「は、きもち…もうちょい頑張って…」
 でもやっぱりちょっと悔しいから、そっと手を伸ばし、パン、と彼の臀部を掌で叩きつけた。
「ああん!」
 その瞬間びくびくびくっと彼の肢体が揺れる。俺もその締め付けっぷりに我慢ができなくて、彼の中に出してしまった。
「あ、は、おとやのがぁ……っ」
 そのままくてんと俺の体に倒れ込んでしまう。腰だけ高くあげたトキヤは本当にいやらしくて、どっちが馬なんだよと思ってしまった。

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 トキヤが起床するまでに何回も目覚ましを二重にも三重にもかけていることを知っている。今日もいつもの通り携帯のバイブの目覚ましが震えていた。
黒いパジャマを揺らめかせ、そのまま洗面台に立って歯を磨いたりあれこれしている。その姿をベッドから眺めていた。そして浴室にまた入ってしまった。昨日やったあとシャワー入ったのにまた入るのか…。トキヤにとってシャワーを浴びることは気合いをいれることなのだろうか。潔癖な彼らしい。
「ふあ…俺はもう少し寝てよ…」
 また仕事でしばらく会えない日々が続くのだろう。でもまたこんな日があればいいのに、と思いながら俺は二度寝をすることにした。