ワンナイトマリア | ナノ

ワンナイトマリア

※トキヤくん後天性女体化※


「う……」
 昼食を終えた頃、私はひどい頭痛に悩まされていた。日ごろから頭痛持ちではあるがここまで痛いのも珍しい。それに吐き気まで催している。
 風邪でもひいたのかもしれない。とても授業を受けれる状態ではなかったので日向先生に相談し、早退をすることにした。体調管理ができないなどアイドルとして失格だ。しかし不幸中の幸いか今日はHAYATOとしての収録はなかったため寮でしっかりと休ませてもらうことにした。早退の際にシャイニーに断りをいれるようにと指示があったため、彼に理由を伝えると珍しく心配をされ、薬まで渡された。

 悲劇が起きたのはそれからだ。
 パジャマに着替えて眠り、目が覚めると私の体は女性のものになっていた。
 絶対にあの早乙女さんからの薬が原因であろう。間違いない。頭痛や吐き気はすうっと収まり、よく眠れたがとんでもない副作用だ。そういえば、「副作用がありますが一日で収まるでショーウ。心配しないでくだサーイ」と言われた。その言葉を信じてみたいとは思う。しかし問題は同室の…。

「トキヤ具合悪いんだって!?」
 ばん!と大きな音をたてて音也が部屋に帰ってきた。とても病人のいる部屋に入ってくる扉の開け方ではない。
「音也ドアは静かに!」
「えっ」
 思わず怒鳴ると、飛び出た声は自分の声よりも遥かに高いものであった。そう、女の声だったのだ。はっと口元を押さえてしまう。
「え、あの、どちらさま…」
「…一ノ瀬トキヤです」
「俺の知っているトキヤは男の子のはずなんだけど」
 さすがの音也もこの状況にはついていけていないようだった。
「実は…」

***

「あのおっさんの薬なら納得だな…」
「ですよね…」
 音也と向かい合わせにベッドに座り、うーんと唸りあう。
「けれど副作用は一日程度みたいですから…」
「えっそうなの?」
「ええ、なので今日一日は安静に…」
「一日は…って俺の部屋にいるってことだよね?」
「なに自分だけの部屋みたいな言い方しているんですか。私たちは相部屋でしょう」
「七海たちの部屋に行ったらどうかな…」
「正気ですか!?私は見た目これでも中身は男なんですよ!」
「だ、だってトキヤすげーかわいいんだよ!俺何するかわかんないよ!」
 音也が予想以上に大きな声を出して私はびっくりしてしまった。気付けば彼の顔が真っ赤だ。
「だってさ」
「わ」
 ぐんっと腕を引っ張られ、音也の胸に抱かれる。ん?抱かれ…。
「トキヤ気づいてる?背、俺より小さくなっているんだよ?すごく華奢になってるし…男でもトキヤ細かったけどさ…」
「……っ」
 音也の心臓がすぐ近くで聞こえてきて、こちらの心臓まで相手に聞こえやしないか不安になるほどだった。
「お、音也…」
「うわー!その顔やめて!そんな近くで上目遣いとかやめて!パジャマとかやめて!」
「パジャマ?」
「女の子のパジャマ姿に俺弱いんだよ〜…」
 パジャマ属性だったんですか…。
「とにかく着替えてきて!」
「わ、わかりましたから落ち着いて…」
「あっでも」
「!」
 音也の手がむにゅりと私の胸を揉んだ。正しくは揉むほどないそれを。
「トキヤ全然胸ないね!これじゃ俺の挟めないな!なーんてハハハ…痛ッ!」
 音也の頭を思い切り叩いて、私は無言で着替えることにした。

***

「…で、何でその格好?」
「……」
 私の今の格好は黒髪の三つ編みのウィッグにセーラー服である。それをフーンと眺めながら音也は不満そうに三つ編みをふさふさと指先で遊んでいた。
「ねえってば」
「…今の状況に見合った格好をするべきかと」
「えーっせっかく女の子になってもきれいな顔してるんだからもっと可愛い格好とかしてみないの?こんなメガネ外してさ!」
「ちょっ、音也!」
 今度は、ぱっと手を離してみて私のメガネを外した。その顔の近さに思わずドキリとしてしまう。音也はこんな精悍な顔つきだっただろうか。頬も喉もこんなに男ぽかっただろうか。心臓が痛いほどドキドキしていく。私を見つめる音也の顔は男でしかなかったからだ。
「あ、あの…」
 急にスカートが心もとなくなってくる。この格好をしたのはかえって逆効果だったのではないかと後から後悔の念がおりてきた。
「なんだろ…表情とかはトキヤなんだけど、線が細くなったていうか、やっぱり女の子になっちゃったんだね」
「お、音也…」
 すりすりと男の手が私の頬を撫でる。こんなに大きく熱い手だっただろうか。私の手は頼りなさげにスカートを握ってしまう。手の甲でつい、と顎を撫でられてしまったものだから思わず「んっ」と声を零してしまった。
「ちょっとえろい声出さないでよ…触っただけじゃん」
「あ、あなたがやらしい手つきをするからです!」
「いつもと一緒だよ?」
「それが問題だと言うのです!」
「はは、そんな怒んないでよ!でも、怒っても全然怖くない。…いつもより可愛い」
 可愛い。
 いつもだったらその言葉に複雑な感情を抱いてしまうのに、それを言われて今とてつもなく喜んでいる自分がいる。嬉しい。頬がたまらなく熱くなってくる。
「可愛い、ですか?」
「うん。可愛いよ」
 パチンパチンとクリップを外して音也が私の三つ編みのウィッグを外す。それを外しても今の私はこの格好をしても何も問題がない。元の身長よりも十センチも低くなってしまった今では六センチも違うのである。私を見下ろす音也の視線がいつもよりも優しい気がする。
「嘘ついてないですか?気持ち悪いとか思っているんじゃないですか?」
「俺が嘘つくの苦手なこと知ってるでしょ。本当にかわいいと思っているよ」
 私の面倒な質問にも音也はすらすらと答えてみせる。おまけに額にちゅっと唇まで落とした。
「七海くん、よりも?」
 私の質問に音也は驚いたように目を見開く。
 音也はずっと七海くんのことを可愛いと言っていた。私自身も彼女のことを愛らしいと思っていたからまさか嫉妬など感じたことはなかった。
 けれども今自分が女になって、初めて彼女と同じフィールドに立って嫉妬と言うものをしたのだ。彼女は本当に素晴らしく優しく可愛い女性だと言うのに。体が女になると心まで女になってしまったようだ。
 私が不安そうに目をぱちぱちとさせながら彼を見上げると音也があからさまに苦笑していた。困らせたと嫌な感じに心臓が動いた。音也が大きく息を吐く。彼の一挙一動に不安でたまらなくなる。
「本当に女の子になっちゃったんだねトキヤは」
「…そうですね。自分でも、そう思います」
「七海はもちろん可愛いと思っているよ。でもトキヤも可愛いと思っているのは本当」
「…私は、どちらのほうがと聞いてるんです」
 私の返答に音也はますます眉を下げる。自分自身も実にらしくないと思っていた。でも今、心が不安定でたまらないのだ。
「うーん…そうだな。七海はさ、守ってあげたくなる可愛さなんだよ。ふわふわ笑ってる姿を見ていたいっていうか…」
 自分で聞いておきながら深く傷ついた。もはや泣きそうになっていた。喉元が焼け付くように熱くなり、ぼろりと油断したら涙が零れそうだった。
 音也の指先が私の涙袋にそっと触れる。硬い指先だった。
「でもトキヤはどうにかしたくなる可愛さなんだ。触れたくなる」
 つつ、と指先は私の頬をなぞり、首筋を辿り、鎖骨を撫であげた。
「それは…よくわかりません」
「自分に妙な色気があることぐらいは自覚しているだろ。アイドルなんだからチャームポイントは理解していないと」
「う…」
 そして彼の掌はどんどん下降し、薄い胸に触れた。ぞわぞわとした感触にびくびくん、と大きく体が震える。
「えっちしたくなる可愛さだって言ったらわかる?」
「…っ!」
 思わぬ下品な言葉に私はカッとなり目の前の男の頬をはたいていた。私が叩いたことなど大してダメージでもないように音也が笑う。この時私は初めて音也を、男を怖いと思った。
「トキヤ本当に女みたいだね。リアクションが」
 くつくつと笑う姿にもう怒りしか湧かない。もっと怒鳴ってやりたいのに私は声も出ずにボロボロと涙を流していた。
「……っ」
「ごめん、泣かないで…」
 力なく垂れ下がった手を握り、ちゅっちゅっと頬に啄むような口づけを繰り返す。もう涙がとまらなかったし、自分がもうわけがわからなかった。それでも手を握る男の体温と重みは心地よく、それにまた自己嫌悪を覚えた。
「わ、私は…あなたの何なんですか」
「恋人だよ。七海のことを可愛いと思っているのは否定しないけど俺の恋人はトキヤだけだよ」
 するりとセーラー服のスカーフをほどかれ、裾から腹部を撫でられる。中にインナーを着ているとはいえ、薄い生地の上から撫でられると変な気分になりそうだった。
「…てかさ、ひとつ聞いていい?」
「……何」
「ブラとかってつけてるの?」
「……………」
「何その間…えっまさか…いやいくら小さいからってそれはアウトだよトキヤ」
「まだ何も言っていません!」
「でも、つけてないんでしょ?」
「…あなたの言う通り、私のは、その、とても胸がないので、特に必要はないか、と…」
「……ああーっ!もう!お前本当に何なんだよ!」
 突然音也が頭を抱えて叫びだした。その姿に茫然としてしまうが、すぐさまにがっと肩を掴まれ、えらく切羽詰まった顔をした音也がいた。
「トキヤのその隙がえろいんだよ!」
「は…?スキ?」
「隙!自分は完璧だと思っているのに抜けてるところがあるの!だから男に付け込まれるんだよ!」
「まあ、あなたに付け込まれているのは否定しませんが…」
「……」
「あっ否定しないんですね。まあいいですけど」
「い、いいから!今俺が話してるの!」
「はいはい」
 先ほどまでの緊迫した雰囲気はどこかへ行ってしまったらしく私はクスクスと笑ってしまった。音也にだってドキッとさせられることは度々あるけれど隙はある。なんだいつもの音也じゃないかと私は口元が緩まるのが止められなかった。
「…可愛い顔して笑ってるなよ…ったく…」
「ひゃっ!?」
 と、油断してたのも束の間、音也の手が私の胸元で手をわきわきと動かした。ぞくぞくする感覚が止まらない。嫌ですやめてと手をどかそうとしてもびくともしない。
「ほら、女の子になって胸揉まれるの初めてでしょ?どんな感じ?」
「ど、どんなって…」
「ブラつけないからこうなんの。インナーにもセーラーにも擦れるんだろ?」
 言われてしまうと胸の先を意識してしまい、ますますそこが過敏になっていくようだった。う、とか、あ、とか声にならない声が溢れてしまう。
「それ、脱いで」
「……っ」
 耳元で熱っぽく囁かれて何も反論できない。子供のようにばんざいをしてセーラー服を脱がされ、私は黒いインナーだけになってしまった。ぴたっとした素材だから体のラインがよくわかってしまう。
「本当に華奢だね。脱がせるとよくわかる」
「そりゃあ、そうでしょうね…自分でも確認しました」
「ちゃんとあるよ」
「何が」
「おっぱい」
「んく…っ」
 すでにツンと立ち始めていた胸の先を布越しに触れられ、くりっと摘ままれ私は下腹部がじんわりと濡れていきそうだった。いやもうそうなっているのかもしれない。他の誰かに女性の濡れる感覚など教わった覚えはもちろんない。けれどそこが徐々に熱を持っていくのがわかる。
 どこかふわふわとした気持ちのまま音也にインナーも脱がされてしまった。そのまま貧相な体つきが露になって、死ぬほど恥ずかしいと思った。
「…っ見ないで、音也!」
「見るよ、全部。てか今更じゃん。俺たち何度もやったのに」
「でも今のこの体を見られるのは初めてです!」
「…うん。そうだね」
 そっと音也が私の胸を揉み、また口づけを降らせた。その小さな音だけで体温が上昇していく。
「俺は、男とか女とか関係なくトキヤが好きだけど」
「…はい?」
「でもやっぱり、女の子の体を見ると触りたいって思っちゃうよ。だから俺、今世界で一番触りたかった体に触れて本当に幸せなんだ」
 予想以上に音也は穏やかな顔をして笑っていた。音也の手は壊れ物を扱うかのように優しい、と思っていたら、触ったら壊れちゃいそうで怖いなと言いながら触れていた。いや十分さっきから触ってますけどね。
「なんだか言っている意味がわからないんですけど…」
「んー?男のトキヤも女のトキヤにも触ることができて幸せって話だよ」
「ん…ふぁっ…」
 そう囁いて音也は私の胸の先に唇を押し付けた。そしてそのまま吸ってしまう。じくじくと胸の先から快感が広がっていく。私はつま先をピンと伸ばし、彼からの愛撫を受け入れていた。
「あっ、音也ちょっと、痛いです…!もっと優しく…」
「…ごめん、なんか興奮しちゃって…」
 音也のやらしい声にどきどきがとまらない。私はもじもじと足を動かしてしまった。
「ねートキヤ…女の子のココ、見たことある?」
「女性の…?」
「うん、ここ」
「…っや、音也…っ」
 音也が私の太股を撫ぜ、そのままスス…とスカートを捲っていく。今日は部屋内の簡易な女装だったためタイツは着用していなかったのだ。直接的な体温に私も息が荒くなる。
「だ、だめ!いけません…っ」
「パンツも男物のまま?」
「……っ」
「ねえ、トキヤ教えてよ…」
「私が、わざわざ言わなくともあなたは見るでしょう…」
「あっそれもそうだね。トキヤ天才」
 にっこりと笑いながらも音也の手は休めない。徐々に開放されていく私の太股の上でスライドしながらスカートを短くしていく。
「俺、無修正のものでしか見たことないんだ」
「何を…」
「女の子の大事なとこだよ」
 やんわりとした言い方のはずなのに、それがとんでもないもののように聞こえる。彼は私の耳元に口づけ、それから言葉を進めた。
「ねえ、一緒に見てみようよ」
「や、やめてください…っ」
「うそうそ。トキヤだって興味あるはずだよ…ね、見てみようよ。俺、トキヤの女の子になったとこ見てみたいな…」
「〜〜っ」
 音也は私のスカートの中に手を侵入させ、つんと脚の間を指先で突いた。ぞわりとした感覚に心臓が握り潰されるだった。そして割れ目を確認するように上下に指先を滑らせたのだ。薄いボクサーの生地ではありありとその感触を感じてしまう。
「いやっ…嫌です音也ぁ…っ」
「トキヤ…可愛い…」
 音也の可愛いと言う言葉に胸がキュンとしてしまう。もう本当に自分はだめだ。
「脱がせるよ…?」
 音也が唇の触れそうな距離で囁き、私は無言でコクコクと頷く。拒否したってどうせ彼は行使するからだ。
「んんっ…」
「は、トキヤ…」
 音也は私の下着をゆっくりと脱がした。ぬるりとした感触がしたような気がする。そして、スカートを捲り上げたのだ。せめてスカートを脱がしてから下着を脱がしてほしかった!どうしてこんなわざわざ恥ずかしい格好で…!
「嫌ですっ…音也…っ」
「…本当に女の子になっちゃったね」
「す、スカート捲り上げないで下さい!」
「自分がこういう恰好してきたんでしょ。あっごめんトキヤからは見えないよねこれ。ほら、ここだよ。自分の体よく見て」
 ばさりとスカート広げ、私の局部が明るいところで晒された。しっとりと下生えは濡れており、とてもいやらしかった。本当に、ない。実際に見るとショッキングはあるが自分のものでもないような、所謂実感がなかった。しかし音也がそっとそこを撫でることによって、今それは自分の体についている器官なのだと教え込まれているようだった。
「トキヤ」
「はい…?」
「舐めてみたい」
「はぁ…!?」
「なんか…いけそうな気がする」
 音也はいつもと変わらんテンションで言いのけたが私の頭はさっきから混乱しっぱなしだ。しかし彼は私の反論も聞かずにスカートの中に顔を埋めてしまったのだ。
「あっ…!?やだ、やめてください…!」
「ん…ちゅっ」
「〜〜っ!」
 れろんと下から上へ犬のように音也が舐めあげる。それだけで快楽を促すような、痺れるような感覚があった。男のときとは全然違う、女の深い快感だ。
「あっ、あっ、待って、待ってください音也…もっとゆっくり、ゆっくりぃ…っ」
「ん、ふ…はふ…」
「あっやだ、そこ嫌です、やだぁ…っ!」
 ぺちゃぺちゃと下品な音をたててそこをひたすら舐めあげられる。けれども腰が揺れて、もっともっと舐めてほしいと言いたくなる。尖らせた舌先でツンと肉芽を突かれ、大きく体をしならせた。
「ああうっ…!」
「ここが女の子の一番感じちゃうとこだよね、トキヤ」
「やです、音也、怖い…っ」
「一度、女の子の体でいってみてよ」
 そう言ってまた音也は作業に戻った。ぺろぺろと優しく舐めたかと思えば、重点的に肉芽をツンとノックする。敏感なところばかり責められ、啜られるような音を出され、何よりも音也が私の恥ずかしいところに口づけているという事実が一番興奮させた。
「んあ、あっ、あっ…ふ、んん…っ」
「ん…気持ち良くなって…」
 優しく舐めてくれていたはずなのに突如激しく吸われた。肉芽に二、三度キスをして、ちゅうっと吸い上げたのだ。
「ああっ…吸わないで!吸っちゃだめです…っあああ…っ!」
 びくびくびくっと体が痙攣し、大きくしなる。はあはあと息は短くなるし心臓はバクバクで、男とは違う快感だった。女の深い深い快感だ。
 思わずぐったりとしていると音也が、ギ、とベッドを軋ませて、私の上に乗っかった。
 音也やらしい顔しているなと思っていたらトキヤ、えろすぎと言われた。
「どうだった?」
「ん…なんだかすごかったです」
「へえ…羨ましい…俺も女の子になったらやってもらいたいな…」
「そのときは私が舐めてさしあげますよ」
「そんな可愛い顔でそういうこと言わないでよ…」
 はあ、と彼の熱い吐息にこちらまで参る。愛しくなって彼の頬を両手で挟んだ。
「あなたが、私がこんな体になっても優しいから感じてしまったんですよ」
「そりゃそうだよ。だって壊れちゃいそうなんだもん」
 音也が可愛い顔して困ったように笑う。私はそれに不敵に笑ってみせてこう言った。
「壊れません」
 そのまま私とトキヤは自然に口づけあった。今日初めてのキスだ。そのまま舌を絡めあう。
「ん…トキヤ、好きだよ…」
「私もです…」
「ん?」
「ん?」
 今の声は。
 はた、と一度つけた唇を離してみると目の前に驚いた音也の顔。
「おとや」
 今度は音也の名前を呼んでみると私の声は低い男のものになっていた。
「トキヤ…男に、戻って…!?」
 ば、と自分の胸を押さえてみてもない。元々なかったけど完全にない。おもむろに下半身に触れてみると今度はある。なじみ深いものが存在している。
「王子様のキスで戻ったのかな?なーんてハハハ…痛ッ」
「王子キャラは私の方が適任です!」
「ツッコミそっちかよ!」
 すぱこーんと音也を殴ると本来の自分の手の感触が戻った気がする。私のツッコミの際の澄んだ声も戻った。戻った!
「音也ぁー!」
「な、なに…ぐえ」
  がばりと上半身を起こし、目の前のやや自分より小さな体をきつく抱きしめる。安心する。自分の体が一番だ。
「女の私のほうがよかったかもしれませんが、私はやっぱり今の自分が好きです…っ」
「はは、そりゃそうでしょ。みんなそうだよ」
 ぽむぽむと音也が背中を撫でてくれる。なぜだかじんわりと涙がでそうだった。
「トキヤはトキヤだもん。どんなトキヤでも好きだよ」
「音也…」
「戻ってよかった。おかえり、トキヤ」
 そうして音也は私にキスをした。
 女の私にも男の私にも変わらぬキスをくれる音也が愛しかった。