★恋文〜千鶴と沖田逆転バージョン〜

※この話は恋文の逆転バージョンなっています。繋がりはありません。
恋文を読んでいなくても平気ですが、読んでいること前提で書いています。
ちなみに千鶴ちゃんは聡くないので差出人が誰かは気付いていません。





「最近どうしたんだ? 機嫌がいいよな」
夕餉の時間、藤堂から指摘された千鶴は、少し照れくさそうな顔をする。他の幹部たちも口々に言う。
どこのどいつがどんな方法を使って千鶴をこんなにも喜ばせたのか、誰もが興味を寄せていた。
その中で沖田だけ千鶴の上機嫌の理由に心当たりがあり、一人口角をあげる。
「その、実は…文を頂いて……」
千鶴が言うには人づてに差出人不明の文を渡されたらしい。
最初は新選組宛のものかと思って土方に渡そうとしたのだが、表面にはしっかり【雪村千鶴】の名前が書いてあった。
とりあえず自分で読んでみて、問題があれば土方へ持っていくことにしたのだという。
そうして開いた文の中身には、千鶴が恥ずかしくなるような甘い言葉が綴られていた。
だけど千鶴はそんな言葉を贈られることが初めてだったため、むず痒くて、恥ずかしくて、でも嬉しくて仕方がなかった。
「恋文か。まあ千鶴なら貰っても不思議じゃないが……」
原田が千鶴の頭を撫でながら言うと、千鶴はそんなことありませんと慌てた様子で謙遜する。
「ん? 待てよ、千鶴ちゃんが恋文って、相手は女か?」
永倉の言葉に誰よりもきょとんとしたのは千鶴だった。
「そ、そういえば私、男装してるんでした。女性から…だったんでしょうか?」
一同ズコッと崩れたのは言うまでもない。千鶴の場合男装しているため、男から貰っても女から貰っても…………何とも言えないだろう。
みんなの反応でそれに気付いた千鶴は、見るからにしょんぼりと落ち込んでしまう。
てっきり男性からの文だと思っていて、名も顔も知らない差出人を想像して恋に恋する気分を味わっていたのだ。
落ち込む千鶴を慰めるように、斎藤が声をかける。
「お前の男装はわかる奴には簡単に見破られる程度のものだ」
だから差出人は千鶴を女だと認識している男…かもしれない。
斎藤はそういう意味で言ったのだが、簡単に見破られる、という部分に千鶴は反応して、一層しょんびりとしてしまう。
「で、文にはなんて書いてあったんだ、言ってみろ」
それまで黙って飯を食っていた土方が言う。
おいおい恋文の内容を聞くなんて野暮なことすんなよーと周囲がヤイヤイ横やりを入れるが、土方曰く、差出人が千鶴を唆して新選組の情報を聞き出そうとする敵だったらどうする、ということらしい。
その一言に沈黙を貫いている沖田がどきり、と小さく揺れた。
「文の内容は、いっ、言いません。言えません……」
差出人もわからないのに敵だなんて、と千鶴は珍しく土方に反抗する。
あれは千鶴だけに向けられた恋文なのだ、千鶴が簡単に他人にその内容を漏らすはずはない。
ツーと背中に冷や汗が流れていくのを感じながら、沖田は千鶴の反抗を心の中で支援した。
しかし次の瞬間、沖田の期待とは裏腹に千鶴がとんでもないことを言い出した。


「言うのは恥ずかしくて無理なので、御自分で読んで判断してください!」


常備していたらしい恋文を懐から取り出して、千鶴はそれをズズイッと前へと差し出す。
同時に、沖田はちびちびと口にしていた酒をぶぶーっと盛大に吹き出したのだった。
「ごほっ、けほっ……!」
「なんだ総司、嫌な咳しやがって。風邪か?」
「い、いえ……ち、千鶴ちゃんその文ちょっと待――」
「えー、では皆の衆を代表してまずは俺が…」
沖田が千鶴を止めようと手を伸ばす前に、隣に座っていた永倉がさっと恋文を奪い取った。
永倉がくるくると文を開き、「あー、字面は男だな」とか言いながら読み始める。隣から藤堂も覗き込んでいた。

暫くすると永倉と藤堂がなぜか照れた様子で顔をあげる。
周りが、どうだった? と伺うように視線を送ると、二人は一度顔を見合わせ、そして言った。
「………なんか、読んでて恥ずかしかった」
「…………俺も……、ほら、左之」
永倉が読み終わった段階で恋文を奪取しようと考えていた沖田だったが、永倉はごく自然な動きで読み終わったそれを原田へと渡した。
受け取った原田もごく自然にそれを読み始める。
「へえ、こりゃー……」
文章のあまりの甘さに原田は思わず口元を緩めるが、数行ほど読むと違和感に気付いた。
(この字…………)
原田にとっては見覚えのある字だった。

いや、しかしまさかアイツが……。

そう思いながら原田が該当する人物へと視線を向けると、沖田はススーッと目を逸らした。
どこか焦っているような、気まずそうな沖田の姿は初めて見るもので、原田は居た堪れなくなる。
「ち、千鶴。これはお前が持ってろ。読んじまったオレが言うのもなんだが、こういうもんは人に見せびらかすもんじゃねえ」
原田はそれ以上は読まず、文を折り直して千鶴に返した。
途端、沖田は彼にあるまじき感謝の眼差しを原田へ向け、ホッと胸を撫で下ろした。――はずだった。

「でも土方さんには確認して頂かないと……」

原田から受け取ったものを千鶴はそのまま土方へと差し出し、あろうことか土方も受け取ってさっさと開く。



「ぶはっ!」
そしてすぐに茶を吹いた。
「ひ、土方さんやだなぁ。千鶴ちゃんの大事な文にお茶ぶっかけるなんて」
もうここしかない! と腹を括った沖田は、心配するふりして土方に駆け寄り、文を奪い取った。
盛大に引き攣り笑いをしている土方は、慌てふためいている沖田の様子がさらにツボだったように笑い倒す。
「千鶴ちゃん、おいで。乾かしに行こう」
「あ、はい」
別に濡れてなどいなかったが、沖田はそんな理由をつけ、千鶴を伴っての広間からの退室を選択した。
途中、文を読みたかったらしい斎藤が立ち塞がるが、「土方さんは問題ないって言ってるから」とまくしたてて誤魔化した。
この後の広間がどんな空気になるかなんて考えたくなかった。




「恥ずかしがりの君が皆に見せるとは思わなかった……」
大いに反省した沖田は、二度と形に残るような手段を使うのは止めようと決意し、この辱めをどう晴らしてくれようかと思案するうちにドSへと変貌するのだった。


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