★恋愛相談〜沖田編〜
★恋愛相談シリーズ雪村編のその後の話です。
「じ、実は私も好きな人がいるんです!」
総司には想いを寄せる相手がいる。だから自分には全く興味がないはずだ。
それを逆手にとって、千鶴は思い切って本人に恋愛相談を持ちかけることにした。
本来の千鶴ならばこんな大胆なことは絶対にできない。
だが幸いにも総司から恋愛相談されたばかり。
きっとお互い様だとか言って話を聞いてくれるに違いない、と千鶴は考えたのだ。
――総司にしてみれば面白くないことこの上ない。
千鶴に好きな人がいるのだとすれば、自分以外有り得ない、有ってはならないと思っていた。
だけど彼女は……本人に直接恋愛相談を持ちかけるような子ではない。
何か大きなきっかけがなきゃ、そんなこと決してするはずがない。
「そんなこと僕に言ってどうしたいの?」
かなりの苛立ちを孕んだ声で千鶴を威嚇するのだが、ドッキドキに緊張した千鶴には突き刺さらなかったらしい。
「そ、その……どうすればいいのか教えてください」
「じゃあ今すぐ告白すれば」
なんの進展も段取りもないままに告白させて、そして玉砕すればいい、と総司は考えた。
千鶴が他の男に恋をしてるというのなら、その恋を完膚なきまでにぶち壊すだけだ。
「え、ええっ!? だ、駄目です、そんなことできません」
しかし、もしものことがある。相手が千鶴の告白を受けてしまう可能性が無きにしも非ず。
その対策もきちんとせねば明るい未来は訪れないだろう。
冷や汗をかいて両手をぶんぶん振り回す千鶴に、総司はにっこり笑んだ。
「大丈夫。僕が一緒についていってあげるから」
手っ取り早く相手を始末してしまおう、と総司は考えた。
千鶴本人の前でグサッとやるのは少々刺激が強すぎるし、方法を間違えればこちらが嫌われる確率も高い。
そう、例えば……崖っぷちなど最高の場所ではなかろうか。
珍しい鳥が飛んでる! とでも言って千鶴の注意を明後日の方向に引き付けている間に突き落とせばいい。
バッチリだ。
「無理ですっ、不可能です」
「じゃあ誰か教えて」
千鶴同伴で危険を冒すよりも一人で闇討ちしに行ったほうが安全だろう、と総司は考えた。
もし千鶴が一緒にいたら情に負けて手を緩めてしまうかもしれない。
確実にヤルならば単独行動のほうが向いている。
総司は自らを分析しながら千鶴に好きな相手を白状するように迫るのだが、千鶴はしどろもどろに誤魔化そうとした。
「な、ないしょです」
「言わないと斬るよ」
「言え、ませんっ!」
「僕に逆らう気?」
千鶴の頬を両側からぶにゅーっと押しながら凄みをかける総司。
ただ相談したかっただけの千鶴は、なんでこんなことになってしまったのだと自分の行動を後悔しまくっていた。
そうやってしばらく睨み合いが続いた後、総司が溜息をついて手を離した。
諦めてくれたのかと千鶴が安堵したのも束の間――
「じゃあいいよ、当てるから」
「へ?」
「千鶴ちゃんって顔に出やすいから、順番に名前を言っていけばすぐわかると思うんだよね」
思わぬ展開に千鶴は目を剥く。
確かにそんなことをされてしまえば……動揺して態度に出てしまうかもしれない。
第一千鶴には新選組の面々くらいしかまともな付き合いがある人はいないため、人間関係をほぼ把握されている。
架空の人物をでっち上げてその場をしのぐことなど不可能に近かった。
「あっ、あの……」
「君の行動は制限されてるんだから相手も絞られてくるよね。まずは、すっごく腹つけど…土方さん?」
逃げ出そうとする千鶴の腕を総司が掴み、光の篭もっていない冷たい目を向けた。
だけど口元は薄っすらと笑っていて、なんだか怖い。
千鶴は抵抗してはいけない気がして、力なく首を横に振った。
その様子を総司が何秒かじっと見詰め、そして次へと移る。
「……じゃあ斎藤君?」
平助、左之さん、新八さん、山南さんに山崎君、島田さん、源さん、近藤さんは奥さんいるよ、と総司は次々と名前を挙げ、首を振って否定する千鶴を観察する。
新撰組の目ぼしい人の名前を言い終えても、付き合いのある街の人たちの名前を挙げてみても千鶴はそれらしい反応をしなかった。
言い当てたなら確実に真っ赤に顔を染めて、声をどもらせて慌てそうなのに。
「まさか風間って奴……なわけないよね」
「違います、あのっ、私そろそろ行きます!」
これ以上は本当に危険だと判断した千鶴は今度こそ逃げ出そうと勢いを付けて総司の手を振り払った。
が、立ち上がろうとしている間に足を掴まれてズルズルと抱き寄せられて、さっきよりも近い位置――総司の足と足の間に座らせられた。
ジタバタもがいても総司の両手が腰をがっちり掴んでいて逃げられない。
そんな千鶴を無視しつつ、総司は考え込む。
「あと誰かいたかな……」
他に言い漏らしている人はいないのか。
それとも既に名前を挙げたのに、千鶴が大して反応しなかったのか。
わかりやすい彼女のことだからそれはないと思うのだが。
――そこまで考え、総司はふと千鶴の相談を持ちかけられた段階で除外していた人物を思い当てる。
「もしかして、僕?」
「――――っ、っっ!!!」
千鶴の顔が瞬時に赤くなり、目尻に涙が溜まる。
逃げ出そうとする千鶴の抵抗が先ほどの何倍にも強くなった。
……総司が想像していたのと同じ反応だ。
「ああ、そうなんだ。なんだ、やっぱりそっか」
総司の表情が知らずうちに緩んでいき、クスクスと笑いながら千鶴を抱き締める。
その腕の中で千鶴は観念したのか動きを止めて、話を本題へと戻した。
「ど、どうすればいいか、教えてください」
「うん、僕が教えるから……全部任せて」
千鶴が小さく頷いたのを確認すると、総司はまた一つ笑みを零し、抱き締める腕に力を込めた。
【相談結果】
そのあと沖田さんが色々教えてくださいました。
知らないことだらけでしたが今はとても幸せです。
END.
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2012.04.30
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