★恋愛相談〜雪村編〜(1/2)
【共通設定】
総司はつい最近、千鶴を好きだと自覚しました。ついでに両想いだと自惚れています。
周囲にそれを周知するため、牽制の意味も込めて恋愛相談をします。
時間軸や千鶴ちゃんの好感度は話ごとに違い、それぞれに繋がりはありません。
「女の子はさ、どういうことされたらその人のこと好きになる?」
沖田さんの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった――それが千鶴の率直な感想だった。
酷い言い草かもしれないけれど、総司は女性に好感を持たれたいとかそういう感情は一切ないと思っていた。
彼に片思い中の千鶴にとってそれは絶望のようであり、希望でもあった。
振り向いてもらえる可能性が無いに等しいとはいえ、他の誰かに取られてしまう可能性も無いものだと考えていたのだ。
「どういう意味ですか?」
まさか、そんなはずはない。
千鶴は自分に言い聞かせるように、恐る恐る聞き返した。
だが答えはあまりにも残酷だった。
「僕のこと好きになってほしい子がいてさ」
「それって……」
「うん、その子のこと好きなんだ」
いつもずっと見詰めていたのに全く気づかなかった。
胸の奥がぎゅうっと収縮し、冷や汗が背中をつたう。
そんな話など聞きたくない。だが千鶴の口から飛び出したのは真逆のものだった。
「ど、どんな人なんですか?」
「どんなって、例えば?」
「……年齢とか、住んでる場所、です」
きっと相手のことを知ってしまえば自分と比べて卑屈になるだけだ。
聞いたって意味がないのに。落ち込むだけだとわかっているのに。
「年下で京に住んでる子」
総司の答えに千鶴は一瞬目を点にする。
てっきり、総司のような必要以上に人を寄せ付けない性質の人はサバサバとした付き合いを好み、年上の女性を恋愛対象にするのだと思っていた。
だから鼻から諦めていたのだが、年下でも平気なら自分も範疇に入っているではないか。
千鶴はほんの少しだけ気分を上昇させる。
「よ、よくお会いするんですか?」
「うん、まあまあかな。僕はもっと会いたいけどね」
「そうなんですか……」
まあまあということは数日に一度くらいの頻度だろうか。
だったら、毎日会っている自分の方が……同じ屋根の下で生活している自分の方が、総司と過ごす時間は多いはずだ。
千鶴は妙な対抗心を燃やしながら、自分を慰める。
「どうすればいいと思う?」
「……もっと会う機会を増やしてみれば…どうでしょう」
「でもそういうのって女の子からしたらどう? 毎日何度も煩わしくないのかな」
「わっ、私はそんなことありません!」
言い切った後にハッと気づく。
ここで後押ししてどうするのだ、と。
確かに総司が幸せになってくれたら嬉しいのだが、あまり、応援など……したくはない。
だがそんな千鶴の心情に全く気づいていないのだろう、総司は続けた。
「本当に? じゃあ君は、僕が用も無いのに会いに来たら、好きになる?」
「…………え、えっと」
好きな人を自分に置き換えられたあまり、千鶴は言葉を詰まらせる。
総司が用もないのに会いに来てくれたら嬉しい、すごく嬉しい。もうとっくに好きだけど。
そんなことを言えるわけもなく口をマゴマゴさせていると、総司は答えを否だと判断したらしく小さく溜息をついた。
「ほら、そんなんじゃ駄目でしょ。他に何かない?」
呆れ混じりの口調に千鶴はびくっと肩を揺らす。
総司が他の人とくっつくための協力はしたくない。
でもここできちんと答えなければ、総司の自分に対する評価が下落してしまう。これはこれで嫌だ。
「では、その人の好きなものを差し上げたりすれば……」
「好きなものなんて知らない」
「さりげなく聞いてみたらどうですか」
心の中でじたばたと葛藤しながらも千鶴は助言を続ける。
すると総司はふむ、と頷き、にっこりと笑みを作った。
「……わかった、今度やってみる。ちなみに千鶴ちゃんは何を贈られたら嬉しい?」
「えっ、私ですか?」
「うん、女の子なんだし参考に聞かせてよ」
参考と言われても、千鶴には思い浮かぶものが特になにもなかった。
みんなからもよく言われるが、物欲というものが昔からあまりない。
「私は……その、特に……ありません」
「えぇー、言い出したくせに君にはないの?」
「す、すみません」
「何でもいいから言ってみてよ、形に残る物と消え物どっちがいいとかさ」
総司から貰えるのなら何でも嬉しい。
消え物でも思い出を残すことができるのなら素敵だ。
だけどこの想いは成就しない。時間と共に薄れゆく思い出よりも、どうせなら形に残る確かな物がいい。
「残る物が……いつも持っていられるものがいいです」
「いいかもね。その子が僕のあげたものを常に身に着けていてくれたら嬉しいし、櫛や簪ならすぐわかるかな」
「……はい」
思わず、総司に貰った簪をつけている自分を想像する。
みんなに「総司からの贈り物」だと言い触らしたい気分になりそうだ。
それに、その簪だけで何十倍も女の子らしく可愛くなれる気がした。
……すごく、素敵だ。千鶴は想像を噛み締めながら頬を染める。
「なんで赤くなってるの? 君も好きな人いるんだ」
「いっ、いないですっ! 私なんて、そんなっ」
いきなり話題を振られて千鶴は慌てて首や手を横に振った。
だって片思いだし、好きな人には他の好きな人がいるのだし、報われることのない想いを打ち明ける勇気などない。
「ふぅん、詰まらないな」
「……詰まらなくて結構です」
詰まらないと言いたいのはこっちのほうだ。
明日さっそく買い物に行ってくると楽しげにしている総司を見つめ、千鶴の気分はだんだんと落ちていく。
何が悲しくて好きな人の恋愛相談を受けなければならないのか。
方向違いなことを言って、総司の想いが成就しないように邪魔したい。
そんなことを考えてしまう浅ましい自分が嫌いだ。
だが、その一方でそれを実行する度胸のない自分も情けなくて嫌いだった。
つづく
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2012.04.29
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