★恋愛相談〜原田編〜
【共通設定】
総司はつい最近、千鶴を好きだと自覚しました。ついでに両想いだと自惚れています。
周囲にそれを周知するため、牽制の意味も込めて恋愛相談をします。
時間軸や千鶴ちゃんの好感度は話ごとに違い、それぞれに繋がりはありません。
「――ああもう、なんで左之さんにこんなこと話さなきゃいけないわけ」
膝を抱えて背中を丸めた総司は、不満げにこぼした。
なぜ言ってしまったのかを考えれば、恐らく誰かに聞いてもらいたい気持ちが強かったのだろう。
言い終わってから後悔しても遅い。
総司は自分を上手く言い包めた左之助をじとっと睨んだ。
「後半はおまえが勝手にベラベラ喋ってたじゃねえか」
「あれは誘導尋問だってば。絶対本人に言わないでくださいよ」
左之助が千鶴本人に言うような野暮な男ではないことを知っているが、念には念を、だ。
含み笑いを浮かべて頷く左之助から総司は視線をそらし、片足をゆっくり伸ばす。
別段、この気持ちを隠しているわけではなかった。だけど大っぴらに主張するつもりもなかった。
今日、総司はいつものように千鶴と追いかけっこをしていた。
暇な時間があるとそうやって一緒に遊ぶことが最近の二人の日課。
子供みたいにきゃあきゃあ声をあげてはしゃぐ千鶴は可愛い。
総司の気分も弾んで、満面の笑みで追い掛け回す。
本気を出せばすぐにでも捕まえられるが、うんと加減して、千鶴と一定の距離を保つ。
大抵、千鶴が力尽きて終わるのがオチなのだが、この日は横槍が入った。
『千鶴、土方さんが呼んでるぜ』
『は、原田さん、助けてくださいっ!』
そう言って千鶴は声をかけてきた左之助の背後に隠れて、総司との壁をつくる。
第三者に助けを求めるなんて、と総司はずるをした千鶴へと頬を膨らませるが、でかい男のせいで彼女の顔が見えない。
『いいからおまえは行ってこい、ここは大丈夫だから』
『あ、はい……ありがとうございます』
二人が勝手にやり取りをし、千鶴は一礼をすると小走りで去っていってしまった。
こんなことならさっさと捕まえて誰にも見つからない場所に行ってしまえば良かったと総司が反省していると、左之助が頭を掻き上げながら溜息をついた。
『おまえなぁ、千鶴が好きなのはわかるけどこんなことしてたら嫌われるぞ』
『…………は?』
『“は?”じゃねえよ。好きなんだろ?』
『……そうだけど、何で嫌われなきゃいけないんですか。一緒に遊んでるだけなのに』
総司のまるで何もわかっていない言いっぷりに左之助はますます深い溜息をつく。
てっきりガキ特有の無自覚からくる苛めだと思っていたのだが、自覚はしていて、且つ、苛めているつもりはないらしい。
きゃあきゃあ助けを求めながら必死で逃げ回る千鶴を、楽しげに追い回す総司。
左之助から見た印象はそれ以上でもそれ以下でもない。
近所の子どもには面倒見良くて親しまれているというのに、どうしてそれを千鶴相手に発揮できないのか。
このままでは千鶴が毎日可哀想だし、総司にとっても良い結果は出ないだろう。
仲を取り持つつもりなどないがこの屯所での円滑な人間関係を構築させるため、左之助は総司に人生の先輩として助言をしてやることにした。
そのついでと言ってはなんだが、まあ、興味もあったので総司の千鶴に対する思いとやらをさり気なく聞き出した……ら、ボロボロと零れるように打ち明けやがったのだ。
「公平じゃないな。なにか見返りください」
大半は勝手にべらべら喋ったくせに、総司はちゃっかりと要求した。
見返りってなんだよ、と言ってみれば、そんなに千鶴への態度がなってないと言うのならどうすればいいのか指示をくれということだった。
最初からしてやるつもりだったが、素直に「協力してほしい」と言えばいいものを……。
「まずお前は千鶴を餓鬼扱いしすぎだ。普通あの歳で追いかけっこするか?」
「……楽しんでるんだからいいじゃないですか」
「お前だけが、だろ。自分が楽しむよりも千鶴を楽しませることを考えろ」
千鶴ちゃんだって楽しんでたのに……とぶつくさ言いながらも、総司は左之助の助言に耳を傾ける。
女が喜びそうな物を買ってやったり、憧れるようなことを実現させてやったり色々あるだろう。
総司はしばらく考え込んだ後、黙ったまま席を立った。
あんな調子で大丈夫だろうかと若干不安になったものの、好きな女に嫌われるようなことをし続けるほど馬鹿な男でもないだろう。
左之助はその背中を見送った。
廊下を歩いているとその先で総司と千鶴が会話を弾ませていた。
縁台に腰をかけて空を見上げ、二人とも実に楽しそうだ。
左之助はなぜだか兄のような気分になり、安堵の息を吐く。
「原田さん、お帰りなさい」
「お疲れ、左之さん。見廻りどうだった?」
「ただいま。特に何もなかったぜ」
左之助は自分の存在に同時に気づいた二人に、それぞれ答えながら歩み寄った。
総司からは先程のような“邪魔するな”という威圧感が全く漏れてこなくて、心穏やかな時間を過ごしていたことが窺える。
ふと千鶴の手元に視線を落とすと、何か小さな包みを大事そうに握り締めていた。
「それ、どうしたんだ?」
「あ、これは……沖田さんに頂いたんです」
嬉しそうに顔を綻ばせた千鶴が、包みの中身を見せるようにかざす。
小粒のコロコロとした砂糖菓子が沢山詰まっていた。
包みの色や印字からして中心街にある店の金平糖だろう。
「千鶴ちゃん、甘いもの好きだもんね」
「はいっ、ありがとうございます。大事に食べますね」
菓子で釣ったのかよ……。
左之助は総司が相変わらず千鶴を子供扱いしていることにガックリするが、まあ、千鶴も千鶴で嬉しそうなので効果は抜群だったのだろう。
さらりと櫛だの花を贈ることができたら、総司が望むような恋愛的距離感がグッと縮まるはずなのに。
そういうところで総司もまだガキなんだな、と左之助が一人で納得していると、千鶴が包みの中から何粒かを摘み上げ、手のひらに乗せた。
白、桃、黄、緑、紫の五色だ。
それを一度見つめた後、千鶴はそれを左之助に見せるようにして笑った。
「七色揃ったら願いが叶うんです!」
「……は?」
「普段はこの五色しかないんですが、たまに別の色の……幻の金平糖が入ってるらしいんです」
確かその店の金平糖は普段はその五色しかなかったはずだ。
それも大半が白色で、他の色は飾りのように一つの包みに数粒ずつ入っている程度。
何粒かに一つしか入っていない色付きの金平糖。子供が自分の好む色をわざわざ選り好んで食べそうだな、なんて思っていたのだが……。
どうやら千鶴もまだその範疇らしい。
だが、それ以前に“幻の金平糖”ってなんだ?
そもそも――――左之助は先程の見廻り時にその店の前を通ったときのことを思い返す。
そう、確か、期間限定で新色を増やしたと店の親父が言っていた気がする。
全然幻でも何でもないじゃないか。
「それで、七つ揃って呪文を唱えたら……」
「“お前の願いを叶えてやろう”って金平糖の精が出てくるんだよ」
出てくるわけがなかろう。
楽しげに、そして夢見がちにキャッキャと話す総司と千鶴に、左之助は気が遠くなりそうだった。
「それでね、左之さん。千鶴ちゃんが僕に願い事譲ってくれるんだって」
「へ、へぇ……」
総司が千鶴の頭を撫でながら、これまた嬉しそうに左之助に報告をした。
すると千鶴は照れ恥ずかしそうにはにかんだ。
「だ、だって沖田さんが買ってくださったものですし……。何をお願いするんですか?」
「まだ内緒。……でも、すごく欲しいものがあるんだ」
総司がじっと千鶴を見詰めながら、優しく微笑んだ。
何だか展開が読めてしまった左之助は、白々しい気分でその場を後にし、巡察の報告へと向かった。
総司も千鶴もまだまだガキで、きゃあきゃあ言いながら追いかけっこしている姿があの二人には似付かわしいのだろう、と思うのだった。
【相談結果】
さすが左之さん。
あと二、三回買えば全色揃うだろうし、考えてたよりずっと早く千鶴ちゃんが僕のものになりそうです。
END.
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2012.04.28
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