★ある初夜の悲劇(1/2)

<注意>
ある夜の悲劇・ある朝の悲劇の一年後の話です。
タイトルで駄目だと思った人は回れ右でお願いします。
タイトルで期待された方もいつも通りの展開なのでごめんなさい。












混乱して爆発しそうな頭と、緊張で破裂しそうな心臓。
千鶴は自分に必死で言い聞かせて呼吸を整える。
覚悟を決める時間など今までに十分あったじゃないか。
まだ何も始まっていないのにこれでは最後まで持つはずが無い。

「千鶴ちゃん、無理ならいいよ。今日しなくちゃいけないわけでもないし」

ガチガチになっている千鶴を総司は気遣う。
一年も待ったのだから今更焦るつもりもないし、やろうと思えばいつでもできる――そんな心境だった。

「だ、だっ、大丈夫です!」
「本当に?」
「……はじ、初めてではありませんし!」

全く大丈夫には見えないけれど、まあ、本人がそういうのだから進めても問題ないだろう。
総司は吹き出しそうになるのを堪えながら千鶴へと最終宣告をする。

「だったら遠慮しないよ」
「はっ、はい! 沖田さん、思いっきりどうぞ!」

言葉とは裏腹に千鶴は身体に力を入れて、目を固く閉じた。
総司は薄い笑みを浮かべながらまず彼女の緊張をほぐすため、銀朱色の唇へと自分のそれを寄せていった。





そもそもの始まりは一年前。
千鶴は酔った勢いで総司と一線を越えてしまい、幹部たちを巻き込んだ話し合いの末、彼に責任を取ってもらうことになった。
千鶴自身は謝ってほしかっただけで責任まで望んでいなかったのだが、決定したときにはそんなことを言い出しにくい空気で。
総司が反論するのを待っていたのに結局そのまま決定してしまった。
――と、いうのは千鶴の解釈だ。

その真実はと言うと、酔った勢いで暴れた千鶴を仕方なしに総司が介抱して取り押さえただけ。
ちょっとした仕返しのつもりで関係があったことを匂わせ、反応を楽しんで遊んでいたら……。
千鶴が真に受けた挙句、他の幹部たちにも誤解されてしまった。
哀しいことに全員が千鶴の味方をして、総司の言葉を信じてくれず。
投げやりになって「じゃあどうしてほしい?」と言ってみれば「お嫁さんにして」と返ってきた。
完全に“否定したら切腹”という空気に場が固まっていて、総司はその申し出を受けるしかなかった。

そんなわけで二人は望まずして将来の約束をするはめになり、その関係は幹部たちに認められた。
最初こそギクシャクしていた二人だが、次第に沸き上がってくるのは相手への独占欲。
たとえば――――



飲みに誘われた総司が玄関へ向かおうとしていると、後ろから千鶴が呼び止めた。

「またお出掛けになるんですか?」
「“また”って言われても先月に行ったきりだけど」

あの三人のように通い詰めているわけではないし、ただ酒を楽しみにいくだけだ。
総司は干渉されるのが嫌で不機嫌な態度を取ると、千鶴が節目がちに言葉を詰まらせる。

「っ、でも……」
「……“でも”、何?」
「女の人がいるんですよね」

行き先は花街だ。
茶屋や甘味屋にも女性はいるが胸につっかえる度合いが違う。
以前、他の人が女目当てで行くわけではないと言っていたが、でも花街は花街。
行くなとは言えないが、こうも堂々とされると千鶴も面白くはない。

「いるけど、それがどうかした?」

しかも総司は千鶴の面白くない理由を全く察してはくれない。
もうこれは千鶴からしてみれば開き直りとも取れる言葉だ。

「…………」

だけど千鶴には何も言い返せなかった。
言う権利は……いずれ婚姻する関係だということを振りかざせばいいのかもしれないが、それはお互いが望んだことではない。
こんなふうに引き止めたいと思うほうが悪いのだ。
卑屈な心理に陥っている千鶴は、しゅんと落ち込み、俯く。
そんな姿を見せられたら責められている気しかしないのが総司のほうだ。
投げやりに溜息をつくと、千鶴の手首を掴んだ。

「わかったよ、行かなきゃいいんでしょ」
「そ、そういうつもりでは……」

千鶴の弁明も聞かずに総司は来た道を戻る。
まだ部屋に貰い物の酒が残っていたはずだ。

「その代わり君が付き合ってよ。あ、でも呑ませないからね」



そんなかんじで千鶴が総司の外出を引きとめたり、渋々了承した総司が千鶴に相手をさせることが度々あった。
また別の日には――



平隊士と話し込んでいる千鶴を見つけた総司は、眉を顰めながら二人に近づいていった。
ここでの生活が長くなるにつれて千鶴も平隊士と接する機会が増えたが、必要最低限はしないようにと未だに言ってある。
第一、二人の様子が“必要最低限”のものには見えなかった。

「なに話してたの?」
「え?」
「やけに楽しそうだったけど」

総司が千鶴の後ろに辿りつく頃には会話も終わり、平隊士は席を立っていた。
まだ会話の余韻が残っているのか、千鶴は顔をやわらかくしたまま振り向く。
その表情を見た総司の眉間には皺がさらに刻まれたが、千鶴は気づくことなく質問に答える。

「神社でお祭りがあったらしいんです」
「ふぅん、行きたかったの?」
「い、いえ……お話を聞くだけで楽しいので」
「あいつと話してて楽しかったってこと?」

総司は自分が拗ねていることを自覚していた。
その原因が、千鶴が他の男と仲良くしているということなのもわかっている。
でも、別に、そんなの自分には関係ないじゃないかと思っている自分もいる。
関係は……いずれ婚姻を結ぶという約束があるが、それはお互いが望んだことではないし、千鶴だって誤解が解ければすぐに解消したがるはずだ。
卑屈な心理に陥っている総司は、千鶴の横にドカッと座って黙り込んだ。

祭りがあったのは知っている、何日も前から。
当日も見廻りの帰りに前を通りがかった。解散後に隊士たち何人かが向かっていったのも見ていた。
でも……千鶴が行きたいと思っていたなんて知らなかった。気づかなかった。
なんだかそれが胸のあたりにつっかえてムカムカとする。
どうしてこの子のせいで苛立たなくてはいけなんだと総司が悪態でも吐こうとしたとき、千鶴が声を裏返らせながら言った。

「あのっ! 次は……い、一緒に行きたいです」

総司と目を合わせようともせず、膝に置いた自分の拳だけを見つめる千鶴。
緊張しているのか肩はぐっと上がっているし、耳も少し赤い。
それを見た瞬間、総司の中にあったムカムカもイライラも全て吹っ飛んでしまった。



――その後、総司が千鶴をどこかへ連れ出すことが増えていった。
土産話や土産物を持って帰宅することも増えていって、中庭や縁側で日向ぼっこをしながら雑談する二人の姿が度々見かけられるようになる。
そんなかんじで千鶴と総司は少しずつお互いの距離を縮めていったのだった。






つづく
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2012.04.16

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