★恋愛相談〜藤堂編〜

【共通設定】
総司はつい最近、千鶴を好きだと自覚しました。ついでに両想いだと自惚れています。
周囲にそれを周知するため、牽制の意味も込めて恋愛相談をします。

時間軸や千鶴ちゃんの好感度は話ごとに違い、それぞれに繋がりはありません。










「――ってわけだからさ。もう千鶴ちゃんと仲良くしないで」

ここしばらくの間ずっと燻っていたモヤモヤの原因に気づいた総司は、その原因を排除すべく行動に出た。
そう、モヤモヤの原因は平助だ。
彼がある特定の人物と仲良くしている様子を見ると、総司の心にモヤモヤが膨らんでいった。
最初はどうしてかわからなかったが、最近やっとこの芽生えた気持ちを自覚したのだ。

「千鶴のこと好き? おまえが……!?」
「そうだよ。だからさ、わかってるよね?」

平助は千鶴と仲が良い。
年齢も一番近く、彼元来の性格も由来して二人は出会ってからすぐに打ち解けた。
それはまぁいい。
平助はそういうものだ、と総司を含めた誰もが自然なこととして受け入れている。
強制的にこの屯所で暮らすことになった彼女にとってもああいう存在は救いだっただろう。

問題はそこから先だ。
なんで名前で呼び合っているわけ? 必要以上に一緒にいるし、手を繋いだりとか意味がわからない。
仮にも千鶴は土方の小姓であり、女性であることを隠している身。
そういう態度では事情を知らない隊士にどう映るかなど考えなくとも検討がつくはずだ。
ゴチャゴチャ理由をつけてはいるが、つまり、要するに――――平助が妬ましい。

「おおっ、そっか。わかった」

千鶴との絶縁を迫った総司に、平助はすんなりと頷いた。
まさかあっさり承諾してもらえるとは思ってもみず、総司はきょとんとしてしまったのだが、彼はなぜか「ちょっと待ってろ!」と言って部屋から走り出て行ってしまった。
ぽつんと一人取り残された総司は考える。
……もし千鶴が突然平助に絶縁されたら、どれくらい傷つくだろうか、と。
そもそも絶縁させるつもりはなかった。
まず最初に大げさな要求をしておいて、最終的に「千鶴に必要以上に触らない」程度の制約を獲得できればいいと思っていた。
なのにどういう風の吹き回しなのだろう。
総司は眉間に皺を寄せながら考え込むが、数秒でそれを放棄した。

「まいっか。千鶴ちゃんが傷ついたら僕が慰めてあげればいいだけだし♪」

とりあえず目障りなのが一人片付いた。
上機嫌になった総司は平助が部屋を出るときに言っていたことをすっかり忘れ、次は左之助へ牽制しに行こうかと廊下へと出た。
そこに……平助が戻ってきた、千鶴を連れて。
しかも平助は千鶴の手首を掴んでいる。どうやらここまで彼女の手を引いてきたらしい。
目敏くそれを見つけた総司は、先程の「わかった」は何だったんだと顔を顰め、文句を言おうとした。
が、それよりも先に平助が爆弾を投下する。

「なんかな、総司がおまえのこと好きなんだってさ!」

平助が……千鶴に総司の気持ちを伝えた。
勝手に。
頼んでもいないのに。
それはもう満面の笑みで。
悪意など一切無いとわかるほどのハチ切れんばかりの振る舞いで。

理解しがたい彼の行動に総司は呆然と立ち尽くす。
物には順序ってものがある。
総司が千鶴に想いを伝えるのは、ほんの少し早いと思ってた。
今はまだ邪魔者を捻り潰すに励む段階で、これから徐々に千鶴の心の中に入っていこうとしていたというのに。

一方の千鶴は、平助の言葉が理解できないという具合に首を右に傾げ、そして左に傾げる。
さらに平助の顔を見て何度もまばたきを繰り返した後、総司に視線を移して顔を顰めた。
その数十秒後にようやく頭の整理がついたらしく、驚愕の声をあげる。

「え…ええっ!? そ、そんなわけ……」
「そーなんだって! なっ、総司」

平助は駄目押しした挙句に話を振ってきた。
相も変わらず平助の笑顔は輝いているが、その隣にいる千鶴は総司へと疑いの眼差しを向けている。
その表情に若干傷つきながらも、総司の表情も穏やかとは言いがたいものだった。

仕切り直したい。だいたいそういう気持ちは自分の口から伝えたいというのに何故言うんだ。
ここはとりあえず「好きじゃない」と否定しておくべきか?
でもそれは図星さされて慌てる子どもみたいで何か嫌だ。
第一嘘になるし、その嘘を千鶴に信じられても困る。

だったら「うん、大好き!」と肯定すべきか?
でもそれは友達に代弁を頼んだ勇気のない子どもみたいで何か嫌だ。
第一この流れで既に疑いの眼を向けている千鶴は信じてくれるだろうか。
信じてくれなかったらそれはそれでヘコみそうだ。
あーでもない、こーでもないと総司が対策を講じている間に、平助はまた厄介な発言を上乗せした。

「で、総司はおまえともっと仲良くしたいんだってさ」
「な……仲、良く…………?」
「そっ。名前で呼んだり手ぇ繋ぎたいってさっき言い出してさ」
「……え、えっと」

千鶴は困惑の色を隠せず目を泳がせ、総司は眩暈を起こした
平助と千鶴が仲良くするのが腹立つ、名前で呼び合うな、手も繋ぐな――とは言った。
決して、仲良くしたい、名前で呼び合いたい、手を繋ぎたい――とは言っていない。
それが平助の中でコロコロ転がって、そういう解釈が成り立ったのだろう。
それはまあいい。そこまではギリギリ許そう。どうして千鶴に言ってしまうんだ。

だけど…………。

名前で呼ばれてみたいとか思ったりして。
平助みたいに君付けで「総司君」…………は違和感がある。呼び捨てで「総司」…………は彼女みたいな子が年上に使いはしないだろう。なら、「総司さん」………………? 総司さん総司さん総司さん。
――総司は千鶴にそう呼ばれている場面を想像する。
なんだか恋人や夫婦っぽくてすごく良い! と顔がにやけてしまった。
今もまだ平助が千鶴になにやら指示を出しているようだけど、このまま平助を泳がせておけば千鶴の口から「総司さん」が聞けるかもしれない。
期待に胸を膨らませつつ、総司は“見守る”という選択肢を選んだ。

「だから名前で呼んでみろよ、せーの!」
「そ……そう…」

柄にもなくドキドキと鼓動が早まる。

「……そ、総………………」

千鶴が言葉をつかえさせることすら愛しく思える。こんなふうに焦らされるのも悪くない。
だが、まあ、思い通りに事が進むと思ったら大間違いだ。

「そ……えっ、えと、もうっ! からかわないで平助君。沖田さんに限って絶対に有り得ないよ」

そう言って、千鶴は苦笑いまじりに平助の腕を叩く。完全に誤魔化しにかかっている。
限って?
絶対に……!?
有り得ない……!??
気持ちを全否定されたが、ガッカリするよりも先に苛立ちが膨れ上がった。
総司は二人にゆらぁっと近づき、千鶴にまだ何かを吹き込もうとしている平助に睨みつける。
そして千鶴の両耳を両手でバチンと塞いで、何も聞こえないようにした。

「平助、これ以上余計なことを言ったら――――、よ?」
「…………!」

後半はとてもじゃないが千鶴に聞かせられない呪いの言葉で、平助は絶句しながらコクコクと頷いた。
その間、頭を固定されたままの千鶴は目をきょろきょろさせて何が起きたのかを把握しようと努めていたが、総司はそんな彼女を小脇に抱えて歩き出す。
もうこれ以上ここにいたくないのと、平助の余計な言動から千鶴を遠ざけたいのと、“有り得ない”の仕返しをしたい気持ちが入り混じっていた。

「えっ、ちょ…っと、お、沖田さん、転びます! 離してください」

千鶴は総司の腕に捕まりつつ声を上げた。
辛うじて地面に足をつけながら、体勢を崩したまま着いていくような状態だ。
だが総司は構わず進んでいく。

「だって離したら逃げるでしょ」
「逃げません」
「逃げるってば」
「逃げませんから……っ!」

しばらく問答をした後、総司はこんなことしてたらさらに“絶対有り得ない”になるだろとと気づき、千鶴を渋々解放した。
なんだか踏んだり蹴ったりだ。
不貞腐れたき持ちを抱えながら、総司は千鶴に手を差し出す。

「はい」
「……?」
「手。逃げるの?」
「……あ、その…………あっ」

戸惑う千鶴の手を捕まえて、総司はまた歩き出した。
名前で呼んでほしかったわけじゃないし、手を繋ぎたかったわけでもない。
これは手を繋いでるわけではなくて、逃げないようにしているだけだ。
誰にするわけでもない言い訳を心の中で繰り返しつつ、総司は自分の顔がいつもより熱いことに気づく。
こんな顔で千鶴のほうを向けるわけもなく、総司は目的地もなく歩き続けた。

「沖田さん。あの、さっきの…………本当ですか?」

絶対有り得ない、と思っている相手にそんな質問をする千鶴はずるい。だけど…………

「本当だったら、なんなの」
「……な、なんでもないです」

だけど、繋いだ手から伝わる千鶴の温もりがうんと熱く感じることは、きっと総司の自惚れではないはずだ。
総司がぎゅっと力を込めると、千鶴も握り返してくれたような気がした。




【相談結果】
平助に相談した僕が馬鹿だった。ホント、最悪。




END.
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2012.04.15

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