★恋愛相談〜斎藤編〜

【共通設定】
総司はつい最近、千鶴を好きだと自覚しました。ついでに両想いだと自惚れています。
周囲にそれを周知するため、牽制の意味も込めて恋愛相談をします。

時間軸や千鶴ちゃんの好感度は話ごとに違い、それぞれに繋がりはありません。










「どうしたらいいかな?」

主語も無く問われても答えようがない。
第一、総司がそんなことを訊こうとも他人の答えに左右されるとは思えない。ただ話をしたいだけなのだろう。
斎藤は一瞬だけ視線を総司へと向け、話を聞くつもりのあることを示した。
すると総司は口角を僅かに上げてから口を開く。

「千鶴ちゃんは僕のこと好きなんだよね。どうしたらいいかな」
「雪村があんたを好きなわけがない。勘違いだ」

とりあえず真っ向否定しておいた。
冗談話には付き合わない主義だ、ここで少しでも乗ろうものなら総司が付け上がる。
だが否定されて黙っていないのも総司のたちの悪いところだ。

「どこをどう見たらあの子が僕を好きじゃないって思うわけ?」
「どこをどう見ようとも雪村から好意を抱かれているとは思えない」

――ここは雪村のためにも折れるわけにはいかない、もし俺が肯定しようものならそれを免罪符に……こいつは彼女をいじり倒すに決まっている。
斎藤が小さな決意を込めて鋭い眼差しを総司へと向けると、総司は深々と溜息をついて肩を落とした。

「はぁあ。これだから嫌だよね、鈍い男ってさ」

思い上がっている男よりもずっとマシだと思うが……。
斎藤は一瞬燃え上がった反論したくなる気持ちを諌め、今は自分のことよりも千鶴の身の安全を優先すべきだと結論付ける。
そうだ、この男の意味のわからない妄想を打ち砕かねばならない。
勘違いをこじらせた総司が千鶴に何かを仕掛けたとなれば一大事だ。幹部たちがざわつき、屯所が荒れ、最終的には土方の心労が蓄積される。それだけは防がねばなるまい。
行動を起こす前に相談を持ちかけてくれたことを幸運に思えばいいのだ。
……斎藤が心の中でそう決意を固めていると隙に、総司は次の段階へと話を進めてしまっていた。

「僕としてはこれ以上気づかないフリをするのもどうかと思うんだ。まあ、どんな方法をとっても千鶴ちゃんは僕のこと大好きだから喜んでくれると思うけどさ」

勘違いをここまでこじらせると、逆に心配になってくる。
斎藤は眉間に皺を寄せながら、自分なりに総司を刺激しないように言葉を選んで、はっきりと事実を告げる。

「おまえは好かれてはいない。人の話を聞け」
「ほら、千鶴ちゃんって肝心なことを口にできない子でしょ。ここは僕から行動してあげなきゃ駄目だよね」

もはや会話など成立する兆しもなかった。
何なんだコイツは、と斎藤の中に苛立ちめいたものが募ってくる。
だが、ふと冷静になって今朝のことを思い出してみると……――確か土方が総司は微熱があると言っていた。
本人がケロッとした顔で否定していたため、その場にいた全員はまた土方の過保護だと聞き流していたが。

――これはつまりアレか、微熱によって脳細胞が死滅して頭がおかしくなっているのだな。
ならば真っ向否定は逆効果かもしれない。順を追って答えへと導いてやるべきだろう。
斎藤は作戦を練り直し、別の切り口から総司の暴走を止めようとする。
まずは勘違いの原因を追究せねばならない。
そしてその原因たるものを全力で叩き潰して、現実へと目を向けさせよう。

「ゆ……雪村はあんたのどこが好きなのだ。俺にもわかるように説明してくれ」
「説明、かぁ……」

斎藤がようやく否定をやめたことで気分が良くなったのか、総司はいつになく爽やかな笑顔を浮かべる。
そしてどこか遠い場所を見つめながら言い放った。

「しいて言えば“全部”だろうね」

……殴りたい。
いや、ここで殴っても何も解決はしない。むしろ打ち所が悪くて悪化する可能性もある。
それ以前に一度殴りかかってしまえば息の根が止まるまで拳を振り上げ続ける自信がある。
それは局中法度に触れてしまうのでマズイ。
力の込めすぎで震える拳を押さえ込み、斎藤は次の質問へと移った。

「では……どんなときに雪村からの好意を感じる?」
「千鶴ちゃんっていつも僕のこと捜して纏わりついてくるでしょ? 構ってあげると尻尾を振って喜ぶし、すぐに僕と二人きりになりたがるんだよね。しまいには顔を真っ赤にしてモジモジしちゃうしさ、ホントわかりやすい子だよね」

……そんな姿は見たことがない。
斎藤はますます眉間に皺を寄せ、考え込んだ。
どんな頭の構造をしていたらそこまで事実を歪曲できるのかわからない。
千鶴は総司に纏わりついていないし、尻尾などついてない。二人きりになりたがりもしないし、もじもじもしない。わかりやすいという点だけは否定はしないが――――順を追って総司に現実を受け止めさせねばならない。
項目が多すぎるな、と小さく溜息をついた時、廊下に小さな足音が響き、近づいてきた。

「沖田さん、こんなところにいらっしゃったんですか。あ、斎藤さんまで……」

開いたままになっている障子戸から顔を覗かせた千鶴は、斎藤に向かってペコリと頭を下げる。
総司は表情を柔らかく変えながらそれを眺めて、千鶴が顔を上げると同時、斎藤へと目配せをした。
「ね?」と言っているようなその表情に斎藤は顔を顰める。
恐らく総司は先程の「いつも捜して纏わりついてくる」に当て嵌るだろ、と言いたいのだろうが、この程度で纏わりつくとはちゃんちゃら可笑しい。

「まだ熱があるのにどこに行ったのかと思いました」
「もう下がったよ。いま君の話をしてたとこ」
「私の……?」
「うん、気になる? ここにおいで」

総司は畳をポンポンと叩いて千鶴にそこへ座らせようとする。
千鶴は総司の手元を見た後、不思議そうな表情を斎藤へと向ける。
きっとどんな話題を出されていたのか気になるのだろうが、斎藤は小さく首を横に振り、話題など出していなかったような振りをする。
あんな内容、とてもじゃないが千鶴には教えることはできない。
すると千鶴は斎藤のことを信じたのか、総司へと向き直って口を尖らせた。

「気になりませんっ! お薬をお持ちしますので先に部屋に戻ってください」

そう言って総司の腕を掴んで引っ張りあげようとする。
体格的にそんなことをしたって無理だろうと斎藤は呆れ眼を向けるが、そんな斎藤に総司が再び目配せをした。
……恐らく「二人きりになりたがる」に該当していると言いたいのだろう。馬鹿げている。
千鶴は土方が山崎に頼まれたことを一生懸命勤めようとしているだけだ。

「仕方ないなあ、じゃあ君も寄り道しないで来てよ」
「ちゃんと着替えてお布団に入っていてくださいね」

頑なに疑い続ける斎藤をもはや面倒に思ったのか、総司は千鶴に引かれるままに立ち上がった。
どうやら部屋に帰るらしい。
千鶴にぐいぐいと押され、総司はそのまま部屋の外へと出て行く。
その様子ですら斎藤の目には風邪を引いて駄々を子供と、その面倒を見る母親のようにしか見えない。
このどこが「千鶴に好かれている」状況なのか全く理解はできない。

が。

総司の足音が遠ざかり、聞こえなくなった途端、千鶴がその場にペタンと座り込んだ。
はぁぁ、と長い長い溜息をついて両手で両頬を包むように隠している。

「どうした、雪村?」
「えっ、あ、あの……何でもっ、ないです!」

まるで斎藤がいたことを忘れていたかのように身体をびくつかせる。
それと同時に、緊張の糸が切れたらしく千鶴の顔がボボンッと一気に赤くなった。

「顔が赤い。もしや……」
「っっっ! ち、違います、お、沖田さんを、好っっっ、なわけ」

真っ赤に染まった顔、慌てふためく様子、モジモジと身を小さくして、首をぶんぶん振って尻尾のように髪を揺らす姿。
これまでの流れから言ってもうアレしかないだろう。斎藤はすぐにピーンときた。



「総司の風邪がうつったか」



「……違います。私、沖田さんのところに行くので失礼します」

千鶴は袴をはたきながら立ち上がると、一礼をしてその場を去っていた。
そこへ取り残されたのは、納得がいかない表情を浮かべた斎藤だけ……――。







【相談結果】
鈍い誰かさんはどーでもいいから部屋で千鶴ちゃんといちゃいちゃしようと思う。


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