★恋愛相談〜土方編〜

【共通設定】
総司はつい最近、千鶴を好きだと自覚しました。ついでに両想いだと自惚れています。
周囲にそれを周知するため、牽制の意味も込めて恋愛相談をします。

時間軸や千鶴ちゃんの好感度は話ごとに違い、それぞれに繋がりはありません。













「――と言うわけで僕と千鶴ちゃんの仲を認めてください、土方さん」

何が「と言うわけ」なのかさっぱりわからず、土方は溜息を吐いた。
相変わらず断りもなく勝手に部屋に入ってきた総司が、妙に畏まって話を切り出したものだからもっと真面目で真剣な話題かと思ったのだが……。
この忙しいときに冗談をかまして一騒動を起こそうとでもいうのか。
ともかく土方から言えることはこれくらいだろう。

「寝言は寝て言え」

一旦置いていた筆を手に取り、仕事へと戻る。
こんなアホ話に付き合うほど新選組副長は暇ではないのだ。
その姿に今度は総司が深々と溜息を吐いて、姿勢や足を崩しながら悪態をついた。

「寝ぼけてるのはどっちですか。土方さんにも理解できるように言い直しましょうか?」
「なら聞くけどな、おまえらの“仲”ってなんだ」

土方は面倒臭げに言ってみた。
どうせくだらない返答がくるんだろうと踏んでいたのだが、総司が困惑気味に眉間に皺を寄せたのを見て、違和感を覚えた。
まるで「どうしてわからないのか」と言いたげな表情を浮かべている。
普段の冗談や悪戯を仕掛けてくる表情とは全く違うものだ。

「恋仲以外、なにがあるって言うんです?」

その回答に、土方は手にした筆を再びすずりに戻して文机に肘をついた。
探るように総司をじろじろと見遣ったが、そこにからかいの色は見出せない。
どうやらマジらしい。

「……一体いつからだ」
「自然に……ってやつです。気づきませんでした?」

土方は最近の総司と千鶴の様子を思い浮かべてみる。
特に変わりはなかったように思えるが、自然な流れで恋仲になったというのなら……。
全く気づかなかった、としか言えない。
確かにここ数日は仕事が立て込んでいて部屋に篭もることが多かった。
しかしそういうことには敏いほうだと自負もあったし、何より子供の頃より総司のことを見てきている。
変化があれば今度こそ真っ先に気づいてやりたい、そう思っていた。
土方はちょっとばかり傷心気味に俯き、溜息を吐いた。

日頃から総司が千鶴にちょっかいを出していたのは周知の事実だった。
傍から見ればそれは「好きな子を苛めてしまうガキ」にしか見えなかったが、総司の精神構造がガキの分、自覚することも暫くはないと踏んでいた。
一体どんなきっかけで自覚に至ったのか気になるところだが、問題はそちらではない、千鶴のほうだ。
彼女はあんな総司のどこに惹かれて、総司と同じ気持ちを抱いたんだ。さっぱりわからない。

土方は眉間にいくつもの線を刻みながら考え込む。
いつまでもそうしている土方に、総司は痺れを切らして口を出した。

「失礼なこと考えてません?」
「――ん、いや、何でもねえ。」
「それで認めてくれるんですか、僕たちの仲」
「……そうだな、そのことは――」

総司も大人だ、将来を誓い合える相手を自ずと見つけたのなら認めて祝ってやるのが男というものだろう。
だいたい総司みたいな「近藤のためだけに」という危うい思考の捻くれ者には、千鶴のような支えが必要になるときがいつかやってくるはずだ。
お互いに想い合っているのならばその関係を反対するつもりはない。
だが、考えねばならぬのはその処遇だ。
男装をして誤魔化しているから今はまだいいものを、男所帯の屯所に女がいて、しかも幹部のお手付きなどと明かしてしまえば……隊に悪影響を及ぼす可能性は高い。
屯所内でどうこうされるのは色々とまずいが、かといって二人に所帯を持たせるわけにもいかない。
なにせ千鶴はいまや裏切る心配がないとはいえ監視対象であり、加えて鬼に狙われている身だ。

そういう細かいことは追々近藤と話して決めればいいか、と土方は一息つくために冷めた茶を口に含む。
その直後、総司がケロッとした顔で信じがたいことを言ってのけた。

「まあ僕もさっき気づいたばかりなんですけどね」

土方が盛大に茶を吹き出すのは、もはや恒例行事だろう。

「っ、けほ……て、てめえ、どういうことだ」
「言葉のまんまですけど、それが何か問題でも?」


そう、総司がこの気持ちを自覚したのはつい先程。
今日も今日とて手透きの時間に千鶴を発見し、捕獲して遊んでいた。
千鶴は楽しい、すぐに顔に出る。
瞳をふるふる震わせて目にじんわり涙を溜め、それが零れないようにと耐える表情――それが総司の一番のお気に入りだった。
でも今日は少しやりすぎてしまって、そこからいくつもの涙が溢れ出る。
彼女の泣き顔は初めて見た。
それに目を奪われ言葉を失っていると、千鶴が詰まらせながらも絞り出した。

『沖田さんは……っ、わ、私のこと嫌いだから、いつもこんなことするんですか』
『……僕は――』

嫌いだったらそもそもこんなふうに構わない、関わらない。答えは否だ。
だがそれよりも総司の頭の中を占めたのは――

可愛い……。

顔を真っ赤にさせてボロボロと零れ落ちる涙を必死で拭う千鶴を見て、総司の中でなにかが弾け飛んだ。
そこからはもう無意識とも言える。手は勝手に千鶴へと伸び、壊れ物を扱うかのように優しく頬に触れた。
もう片方の手は千鶴の背中へと回り、二人の距離をぐっと近づけた。
千鶴が不思議そうに総司を見上げれば、総司は微笑みながら千鶴を見つめる。

『君の事、嫌いじゃないよ。だから泣かないで……不安にさせてごめんね』
『え?』

好きな人にちょっとした意地悪をされたら、そりゃあ誰だって「嫌われてるかも」と不安になるだろう。
きっと日々のそれが散り積もって今日ついに限界を迎えてしまったんだ。
総司はそう解釈して、これまで無自覚とはいえ不安にさせてしまっていた自身に反省し、千鶴の想いをしっかりと受け止めた。

『僕“も”君が好きだよ』
『……ええっ!?』


――ってことがあった旨を総司が説明すると、土方はガンガンと痛みを帯びて響く頭を抱えた。
おかしい。色々とおかしいところが多すぎる。多すぎて何から突っ込めばいいのかわからない。
千鶴のどんな表情が気に入っているかは趣味嗜好の範疇として放っておこう。
自覚したきっかけも――この際、多少捻くれ捻じ曲がっていようと今は置いておこう。だが……

どこが恋仲なんだ。
そもそも両想いですらねえだろうが……。

ちらりと視線を上げて総司を見てみれば、ニコニコウキウキと土方の言葉を待っている。
これはもう完全に勘違いして浮かれている男の姿だ、下手に総司を刺激しようものなら血を見ることになるだろう。
土方は何と声をかけるべきなのかわからず、どうやってこの場を切り抜けようかとひたすら考え続ける。
そしてようやく出てきたのはこれだった。

「関係は……認めてやる。が、千鶴は大事な預かりもんだ。おまえは手は出すな」

己を身を守るためには関係を認めなくてはならないが、千鶴を守るためにもしっかり釘は刺しておかねばなるまい。
たじたじになりながらそう忠告すると、総司は嬉しそうな表情のまま頷いた。

「それくらいわかってます。ちゃんと大事にします」

意外にも大人な返答をみせた総司に、土方は驚きつつも胸を撫で下ろした。
恋をすると人は変わると言うが、総司も自覚を経て成長したのだろうか。兄貴分としては喜ばしいことだ。
千鶴の気持ちという肝心な問題が残っているものの、二人の今後を見守ってやりたい――。そんなことを思わなくもなかった。





【相談結果】
僕から手を出すのは駄目らしいから、千鶴ちゃんから手を出してもらおうと思う。



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