★山崎監察日誌−エイプリルフール−(1/2)

例年ならば通学の電車からも桜並木の華やいだ景観を見ることができるのだが、今年は桜の開花が遅く未だ飾り気の無い木々が立ち並ぶ。
しかし季節はすっかり春だ。
この時期特有の強風に顔を歪めながら駅のロータリーに差し掛かると、行き交う人々の視線が一点に集中していることに気づいた。
待ち合わせスポットでもあるそこは普段から人が多く、ストリートミュージシャンや大道芸などのパフォーマンスもよく行われている。
今日も昼間から誰かが何かをやっているのだろう程度の考えで山崎はその方向を横目で見ながら通り過ぎようとする。
そして衆目の的をその眼の捉え、絶句した。

「何あの二人」
「いくら春だからってこんなところで……ねぇ」
「あ、でも男の人かっこいいよ」

特に女性から注目を集めるその先には、よく知る男女の姿。
沖田総司と雪村千鶴が…………ロータリーのド真ん中で人目も憚らず抱き合っていた。
総司はともかく何故千鶴がこんな状況を許しているのか、山崎には全く理解ができない。
春の陽気な気候にあてられて血迷いでもしたのか。
普段の千鶴ならば有り得ないその光景に、山崎は思わず足を止めてしまった。
……しかし、そもそも理解するつもりも関わるつもりもない。
見なかったことにしてさっさとその場を通り過ぎようと足を踏み出そうとしたとき、目敏い男に見つかってしまった。

「あっ山崎君ー、こっちこっち!」

片腕でしっかりと千鶴を抱き締めたまま、総司は片手を挙げて山崎を呼び止めた。大きな声で。
するとそれまで二人に注目していた人々の視線が山崎のほうへと注がれる。
そういった視線が苦手な部類の山崎は、うわっ、と心の中で悲鳴をあげ、逃げるように後ずさりする。
幸いにも周辺には男性の通行人も多く、みんな総司の手を振る先に「山崎君」らしい人物を探しているだけにすぎない。
いますぐこの場を脱出すればギリギリ巻き込まれずに済む。だがそれを総司が許しはしなかった。

「どうして制服なの。学校帰り?」

その余計な一言によってギャラリーの視線は一気に山崎本人へと集中する。
今日は四月一日、春休みの真っ只中だ。
しかも年度の境目であるために制服を着ているものなど周囲には……山崎しかいなかった。


「……こんなところで何をやってるんです」
「見ての通り、千鶴ちゃんが離してくれなくってさ。困ったなーって思ってたら君が来たってわけ」


山崎がうんざりしながら二人の元へ行き、事情を聞くと、総司はおよそ困ってるとは思えない嬉しげな表情で答えた。
確かに総司が千鶴を抱き締めてはいるものの千鶴のほうもその腕の中でギュッと総司に捕まっていた。
顔を彼の胸に押し当てるように埋めているため表情は伺えない。
だが赤くなった耳とその態度から、山崎はなんとなく事情を悟った。

「また彼女に嫌がらせをして泣かせたわけですか。いい加減にその子供染みた性格を――」
「うわぁ、酷い決め付け。今回は千鶴ちゃんが仕掛けてきたんだよ。ね?」
「……は、はい。私が、っ……」

総司に呼びかけられてようやく千鶴が声を震わせながら顔を上げるも、総司がそれを防ぐようにギュムッと彼女をさらに抱き締めた。
理由など何となくわかる。
どうせ「千鶴ちゃんの可愛い泣き顔を誰にも見せたくない」とかそんなところだろう、聞き飽きた。
もはや指摘するのも面倒くさい。
山崎は明後日の方向をぼんやり眺めながら、そのままフェードアウトしようとゆっくり体の向きを変えた……のだが。

「あ、これからお昼食べるけど山崎君も来るよね、もちろん」
「はあ!? 何を言ってるんです、俺は……」
「ぜ、是非ご一緒してください、山崎先輩」

強制するような総司の物言い、それを後押しするような千鶴、そして周囲からの視線。
山崎は力なく頷くしかなかったのだった。








「沖田先輩は……まだですか?」

十三時を過ぎたとはいえ休日のファーストフード店はとても混雑している。
店に入ると千鶴は総司に促されて化粧室へと直行し、山崎は席の確保。そして総司はカウンターへ注文に行った。
千鶴が化粧室から出てきて席へ行くと山崎が一人ぽつんと座っているだけで、千鶴はその向かいの席にちょこんと座った。

「あの、先程はお見苦しいところを……それと無理やり誘うようなことをしてすみませんでした」
「気にしていない。だから君も気にしないでくれ」

千鶴が下げた頭を山崎は上げさせる。
二人きりの空間を邪魔をする者に容赦がない総司から誘われたのにも驚いたが、千鶴も山崎に無理強いをさせていると自覚あっての誘いだということにさらに驚く。
なにか、自分がいなければならない理由が二人にはあったのか……と山崎が考え込むと、千鶴が勝手に話し始めた。

「実は私、沖田先輩をびっくりさせたかったんです」

普段から総司にからかわれて遊ばれている千鶴は、ふと逆襲を試みたくなってしまったのだという。
きっと春のぽかぽか陽気が彼女の頭までぽかぽかにしてしまったのだろう、常ならば考えもしない行動を千鶴は実行に移そうとした。
しかしそういった行為に慣れていないため、逆襲するにしたって何をどうすればいいのか勝手がわからなかった。
そこで目をつけたのが間近に迫ったイベント――本日のエイプリルフールだ。
総司を驚かせる嘘を吐いて驚かせたい……。でもどんな嘘を吐けば驚いてくれるのか全く予想できなかった。

「君にしては思い切ったことを考えたんだな」

想像よりもずっと下らない内容でのイザコザらしいことが伺える。
山崎は小さく溜息をつき、千鶴が続けるのを待った。
すると千鶴はコクンと頷いて今日起きたことを打ち明ける。



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2012.04.01

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