★カウントダウン〜門限〜(1/2)

※カウントダウンの続編でカウントゼロの数日後あたりの話。ノーマル√後の転生で、千鶴が教師で総司が教え子。総司は卒業式の翌日に千鶴ちゃん家に転がり込みました。










いつもより一時間遅い帰り道。
三月中旬に差し掛かった現在、日暮れの時間が緩やかになったことを千鶴は実感する。
まだまだ春が遠いと凍えるようにして家を出たのに、今はコートの前を開けて風を心地良く感じている。
この数日間、帰り道に考えることはいつも夕食のことだ。

沖田さん、今日は何が食べたいかな……

朝食は千鶴が支度にばたついているため、あまり会話ができない。
昼食はもちろんバラバラ。だけど食べているものは一緒。千鶴は職場にいつも手作りのお弁当を持っていくのだが、総司が「僕もお揃いのが食べたい」とご所望したのだ。
夕食になるとやっと一緒に食事が取れる。
これまでの千鶴の夕食は、なにせ一人暮らしだったこともあって適当に済ませてしまうことが多かった。だけど二人なら話は変わる。
朝も昼も別々な分、少しは手の込んだものを作ってあげたい。総司においしいと言ってもらいたいし、栄養バランスも考えたい。いろんな話をしながらゆっくり、時間を過ごしたい。――そう思える一時になっていた。

帰りがけに寄るスーパーを前にして千鶴は一度足を止める。店の明かりを腕に照らして時計を見ると、十九時半を回っていた。いつもなら夕食を調理している時間だ。
冷蔵庫の中身を思い浮かべる。同時にお腹が減ったと駄々をこねる総司の姿も浮かぶ。遅くなったお詫びにリクエストでも聞こうかと携帯電話と取り出す。が、昨晩充電を怠ったせいか電池切れでオフの状態になっていた。
連絡できないのにこれ以上遅くなっても悪いかもと思い直し、再び冷蔵庫の中身を思い浮かべる。お肉と野菜と……とメニューを考えながら、千鶴は街灯で照らされる夜道をカツカツと足早に歩いていった。


最初こそ理不尽だと思っていた総司の押しかけも、何だかんだで千鶴は自分が喜んでいることに気づいていた。
だから口では注意しつつも本気で追い出そうとはしない。まだカレンダー上は教師と生徒という関係のため、いけないことだとはわかっている。だけど前世もそうだったせいか、一つ屋根の下で暮らすことは自然のことのような気がして受け入れてしまう。……同じ部屋、というのは何か違う気もするけれど。
それに、家に帰ると必ず待っていてくれる人がいるのは嬉しい。それが総司ならば尚更だ。
――実は、家に帰ったときの総司の反応が楽しみの一つでもある。

最初の日は、千鶴が自分で鍵を開けて部屋に入った。すると物音に気づいた総司がひょこっと顔を出し、不機嫌そうに主張した。

「どうしてピンポン押さないの。僕が鍵を開けて出迎える予定だったのに」

千鶴ちゃんはなんにもわかってない! とよく分からない言い分のせいで、千鶴は総司から説教を食らった。
でも確かにチャイムを鳴らして誰かが出迎えてくれたら嬉しい……と、千鶴は子供の頃に母親に出迎えられたことを思い出しながら納得する。


翌日、ピンポーンという音の直後にバタバタと足音が漏れ聞こえてきた。千鶴はドア越しに駆け寄ってくる総司の姿を想像して、なぜかドキドキと緊張してしまった。
ドアが開くと総司が笑顔で出迎えてくれて、今日の疲れが一気に吹き飛ぶ気分だった。
玄関に入れば荷物を持ってくれて、ブーツを脱いでいる間にスリッパの用意をしてくれて……。

「なんか……こんなことまでしてもらってすみません」

至れり尽くせり扱いに千鶴が思わず謝ると、総司は楽しそうに笑った。

「ううん、こういうのって新婚さんみたいで良いよね♪」

どうやら総司は新妻気分を満喫しているらしい。そしてそのまま、新妻らしい行動に出る。
千鶴のコートの袖を摘んでツンと引き寄せ、照れ恥ずかしそうに目を瞑った。

「…………沖田さん、どうかされましたか?」

千鶴が首を傾げて総司を見る。総司は唇を尖らせ、拗ねた様子で目を開く。

「わからないの?」

「……? なんでしょう?」

「僕、千鶴ちゃんの帰りをいい子に待ってたんだよ」

「はあ、ありがとうございます……?」

総司が何を言いたいのかわからない様子で千鶴が反対側へ首を傾げる。すると総司は頬を膨らませ、短く言った。

「キス」

「え?」

「キスして」

総司が言うには新婚さんというものは毎日玄関でキスをするものなのだそうだ。
大好きな総司に見送られて、その日一日頑張るための充電のキス――それが、いってきますのキス。朝は千鶴がばたばたしているためまだ実現していない。
大好きな総司に出迎えられて、その日一日の疲れが吹っ飛ぶ癒しのキス――それが、ただいまのキス。昨日は思わず説教してしまって出来なかったため、今日こそはと総司は決めていた。
自分からしてもいいのだが、ここは千鶴の家だ、少しは自重しようという気持ちはあった。

「だから千鶴ちゃんからしてよ、はいっ♪」

そう言って総司は再び目を閉じ、千鶴がキスするのを待った。
千鶴はしばし目を見開いて、次第に顔を赤くしていく。朝と帰りに毎日、しかも自分からキス………

「し、しません! 絶対にしませんっ」

千鶴は総司の手を思いっきり振り払う。
ここは千鶴の家だ、流されがちだが主導権は千鶴にある。それに、ここで流されてしまったらズルズルと毎日するハメになる。まだ三月で二人の関係は教師と生徒だし、阻止できるものは断固阻止しなくてはいけない。
すると総司は不満げにポケットからガサゴソと紙を取り出し、広げ、例のごとく天に掲げて願い事を唱えた。

「いってきますとただいま、おはようとおやすみなさいのキスを毎日欠かさずして!」

先程の言い分よりも要望が増えている。しかし千鶴は差し出された百点のテストを見て、ぷいっと顔を背けた。

「受け取りません」

「なんで? 百点だよ。約束したよね」

「それは数学のテストじゃないですか。私の担当教科じゃなきゃ無効です」

千鶴の主張に総司は愕然とした。そんなことを言われたら持参した満点テストのほとんどが無効になってしまうからだ。
千鶴の教科のテストといえば中間と期末、それと数回の小テスト。ギリギリ二桁といったところだ。
突然つきつけられた減額に総司がぽかんとしている隙に、千鶴は逃げるように室内へと上がっていった。
その後総司は千鶴が夕食を作っている間ずっとベッドの中に蹲って不貞腐れてしまい、ご飯ができたと呼んでもしばらくは出てきてくれなかった。


そんな反省点を活かして、帰宅したらキスはできないけれど総司が出迎えてくれることが嬉しいということはちゃんと伝えよう、そう思いながらチャイムを鳴らす。またパタパタと駆けてくる音が聞こえ、笑顔で出迎えられ……………………………………




と、こんなことを連日繰り返していたため、今日は何が待ってるのかと千鶴は浮き足立ちながら階段を上った。
少し帰りが遅くなってしまった。でも今日はいつも留守番していてくれる総司にお礼として渡したいものがあった。喜んでくれるといいな、と思いながら、一度深呼吸をしてからゆっきりと呼び鈴を押した。
いつもなら総司が玄関に走ってくる音がして、数秒後に鍵が開く。しかしこの日は違った。



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2011.11.11

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