★記憶めぐり〜ふたりで二次会〜(1/2)

※「記憶めぐり」の直後のお話です。沖田ED後の転生、沖田は大学生で千鶴は高校生という設定。













もう全員乗車したというのにパーキングから一向に出発しようとしないセダンがある。駐車料金を事前清算したのは何分前だったろうか、そろそろ出庫可能時間が気になってくる。車内では先程から激論が続いていた。

「だから千鶴は未成年だろうが。しっかり送り届けてやるって約束をしたわけでな」
「千鶴は僕がしっかり送り届けますから、行き先は僕の家でお願いします」

揉め事の内容は簡単に言ってしまえば、これから千鶴をどこへ送るか。
未成年を監督する立場である土方にとっては、千鶴を無事に家まで送り届けてやるのが大人の義務だ。
前世の夫である総司にとっては、そんなことを土方がするのも癪に障るし、せっかく再会したのに数時間でお別れしなきゃいけないのも納得できない。

「トシ、総司。ここは雪村君の意見を聞いてやるべきだろう」

平行線を辿りそうな二人の間に近藤が入った。当の本人だというのにやりとりを傍観していた千鶴は、いきなり話題を振られて驚く。

「え、ええと、私は……――」

ちらりと顔を上げれば、バックミラー越しに土方と目が合った。
普段真面目な千鶴は門限などを決めていなくとも暗くなる前に帰ってくるような子で、両親からの信頼も厚かった。だから今夜、特に詮索されることなく外出許可を貰えたのだろう。……やはり土方に従うほうが常識的だと思う。

「土方さん、私」

総司が無言で隣に座る千鶴の手を握る。 千鶴はその大きくて優しい手を握り返した。

「もう少し総司さんとお話をしたいです。遅くなるって家にちゃんと連絡するので、私も総司さんの家で下ろしてください」

べこっと頭を下げた千鶴をミラーで確認した土方は、軽く舌打ちする。

「…ったくおまえは、総司が絡むと本当に頑固だな」
「まあまあ、俺たちだって再会した日は朝まで語り明かしたじゃないか。二人は前世で夫婦だったんだ、積もる話もあるだろう」

説得すら面倒だという表情で土方が言うと、近藤がにこにことフォローする。
二人の相変わらずの関係に千鶴は懐かしさと共に嬉しさが込み上げてきて、顔をほころばせた。

「近藤さん、オレたちとこいつらじゃ話が違うだろ。千鶴は未成年で女なんだぞ。総司なんか危険極まりねえ」
「うわぁ、未成年のいたいけな女の子を屯所に閉じ込めて男装させてたような人に言われたくないです」
「その いたいけな奴を率先して殺す殺す言ってたのはてめえじゃねえか!」

土方はエンジンをかけ、クラッチを踏む。そして総司に言い返すと同時に発進させた。








相変わらず近藤の前では猫をかぶっているため、総司は難なく近藤の後押しをもらう事ができた。二人が車を下りたのは総司のアパートに近いコンビニ。総司は土方が千鶴へ厳重な注意を呼び掛けていたことにムッとしたものの、黒のセダンが見えなくなるまで見送り終わったら解放感でいっぱいになる。あとは千鶴を終電まで引き留めて帰れなくしてしまえばいいだけだが、ここは自分のテリトリーであり、相手は千鶴。ならばもうこの勝負、詰んだも同然だった。

コンビニで下ろして貰ったのは千鶴がそこに寄りたいと言ったから。総司は、きっと飲み物やコンビニスイーツでも買うのだろうと予想する。前世の千鶴も甘い物が好きだったから居酒屋デザートじゃまだ物足りないのかもしれない。ソファにぴったり座ってお互いに食べさせっこして…とか想像を膨らませていると何だか楽しくなる。
しかし予想に反して、千鶴は店内奥にある食品コーナーでも飲み物コーナーでもなく、入ってすぐ手前にある日用品コーナーへと進んだ。少し見渡すようにしてから、すぐに目的の物を見つけたらしく商品に手を伸ばす。

不思議に思い千鶴の手元を覗き込むと、片手に歯ブラシセットを握りしめていた。歯ブラシと歯磨き粉がセットになっているビニールケース付きのよくあるアレだ。そしてもう片方の手が伸びた先には『お泊り洗顔セット』と書いてある商品が陳列されていた。クレンジング、洗顔料、化粧水、乳液が一回分ごとに小分けされている、急な外泊のときに便利なグッズのアレだ。
総司は思わず千鶴と商品とを何度も見比べてしまう。

「千鶴…………泊まるつもり?」

言われて総司を見上げた千鶴は、数秒遅れで自分が先走りしていたんだと思い、みるみるうちに顔を赤に染め上げていく。

「ご、ごめんなさい、私、勝手に…迷惑、ですよね……っ!」
「あ、迷惑じゃないから! ちょっと驚いただけで……」

慌てて商品を元の場所に戻そうとする千鶴の手を、総司も大慌てで止めて、ポポイと買い物カゴの中に投下する。総司は他に客がいなかったらこの場ですぐに抱き締めてしまいたいくらい嬉しいのだが、それはこの後のお楽しみとして僅かな自制心を働かせた。

「どう説得して泊まらせようか考えてたんだ」

恥ずかしさのあまりコンビニを飛び出してしまいそうな千鶴を狭い通路に通せんぼしながら、総司は良かった、と心からの笑顔を見せる。すると千鶴も安心したようで、良かったです、とはにかみながら答えた。



そこからはもう、楽しくて仕方なかった。
千鶴は最初からお泊りするつもりでいてくれて、総司は如何に言い包めて部屋に閉じ込めようかなんて考える必要もなく、二人で手を繋いで入用のものを求めて店内散策する。
例えば雑誌コーナー。女の子向けファッション誌をめくりながら……

「こういう服好きだな、千鶴は?」
「そういうタイプはあまり着ないです。でも総司さんが好きなら…挑戦してみます」
「ホント? じゃあ明日買い物しよっか。一番に見たいな」
「は…はい、一番に見せたいです」

なんてやりとりをして見つめ合った後、今度は某テーマパークのガイド雑誌を手にとって……

「総司さん。タワー・オブ・テラー、乗ったことありますか?」
「去年サークルの皆と行ったときに乗ったよ。千鶴は?」
「まだなくて……」
「暗くなってから乗ると夜景が綺麗だよ。来月あたり…行こう」

なんて会話をして。千鶴は二人でミッキーとミニーのカチューシャ付けて歩く自分たちを想像して楽しくなり、総司は急降下急上昇を繰り返すアトラクションの中で泣きながら抱き付いてくる千鶴を想像して楽しくなった。
例えばペットボトルコーナー。千鶴が炭酸飲料をグイグイいけるタチだと知って総司は大いに驚いた。あまり好みそうにないイメージを抱いていた。対する総司は……

「えっ、総司さん飲めないんですか。スカッとするのに…」
「だって喉が痛くなるし」
「ふふっ……総司さん可愛――」
「子ども扱いしてる?」

総司の瞳がギラッと輝いて見えたため、話はそこで中断し、千鶴はそそくさと次のコーナーへと移動した。
例えばアイスクリームコーナー。あらかた買うものをカゴへ投入しきった二人は、最後の締めというように冷凍庫の前に張り付いていた。

(こんなに食べるつもりなのかな……)

千鶴がチラッと総司の持つ買い物カゴを見る。ドリンク数本、スナック菓子、とろけるプリンやプレミアムロールケーキ、一泊では多すぎる量が入っていた。まあ、日持ちするものも多いので消費できない分は総司の家の備蓄になるだけだし、アイスクリームには賞味期限がないのだから、冷凍庫に入れておいて腐ることもない。

一方の総司は、足りるかな…と真逆のことを考えていた。明日、明後日は休日なのだから一泊で帰すつもりはさらさらない。総司は食にあまり興味がなく、一人暮らしを始めてからは特にエスカレートした。いま、冷蔵庫の中には飲み物くらいしか入っていない。
コンビニに行くのは飲み物の他、たまに弁当を買うくらいだが、こだわりも何もないのでいつも入店した数十秒後には商品を手にレジに並んでいる、というような状態だった。たかが食べ物を買うのにどれにしようか迷ってうろうろするなんて時間の無駄だと思っていた。

「定番のイチゴ味か新商品の杏仁味……う〜ん」

なのに千鶴の迷う姿の可愛さといったら、永遠に見ていたいほどだった。
イチゴ味のアイスを食べる千鶴は絶対に可愛いし、杏仁味のアイスを食べる千鶴も可愛いに決まってる。

「どっちがおいしいと思いますか?」

千鶴が一番おいしいに決まってる! という本音を喉スレスレでとどめ、総司は両方カゴに突っ込んだ。
溶けないうちに帰ろうか、とレジに向かう。こういうときに便利だと思いながら総司はお財布ケータイをかざして会計を済ませた。片手でラクラクできて、千鶴とずっと手を繋いだまま。カゴいっぱいの買ったものは袋二つに分けられて、重いほうを総司が、軽いほうを千鶴が持つ。
そうして二人は三十分ほど滞在したコンビニを出た。総司がコンビニにこんなに長く居たのは初めてで、千鶴と一緒なだけでこうも世界が変わるのかと実感した。とにかく、コンビニデートというジャンルを確立したいくらい総司は楽しんだ。





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2011.08.10

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