★山崎監察日誌SSL−ホワイトデー−(1/4)


ここ3週間、沖田さんの機嫌がすこぶる悪い。
最初こそ部活動の支障になっては困ると気を使っていた斎藤さんや藤堂さんも、とっくに諦めモードに突入し、沖田さんには近づかないようにしている。
なので一番の被害者は土方先生だ。嫌がらせは日を追うごとにエスカレートし、それに比例するの如くあの人の灰皿には煙草の吸殻が溜まっていく。俺は土方先生の健康面が気がかりでならない。


そもそもの発端は3週間前――2月14日のバレンタインデー。


朝、学園唯一の女子・雪村君が紙袋を抱えて登校したことは、瞬く間に全ての男子生徒、つまり学園全体に知れ渡った。問題は彼女が抱えていたのが大きい紙袋と、小さい紙袋の2つだったと言う事だ。
大きい紙袋には同じ柄の包装紙でラッピングされた手のひらサイズのものがいくつも詰め込まれ――つまり、義理チョコだ。
そして小さな紙袋には赤とピンクのリボンで可愛く装飾された、義理チョコの山とははっきり区別された、たった1つの特別――つまり、本命チョコが入っていた。

誰が雪村千鶴の本命なのか。
どうせいつも彼女を囲んでいる剣道部員か美形教師の誰かだろう、と多くの男子生徒たちが嘆き転がり回ったことは言うまでもない。
ならばせめて義理チョコだけでもゲットしたいのが男のサガ。雪村君のクラスが移動教室のときを見計らい、一部暴徒が彼女のクラスに侵入したのだが、

「薫に見つかったら没収されるので隠しておいたんです」

別の用心深さを発揮した雪村君は、荷物を全て鍵付きロッカーに仕舞い込み、事なきを得ていた。妹に異常なほど執着する風紀委員も今回ばかりはナイスアシストをしてしまったようだ。

本命チョコの件は無論沖田さんの耳にも届いていた。それを聞いた途端、彼はあからさまに上機嫌になり、鼻歌交じりに廊下をスキップしながら駆け抜けていった。一体どこからそんな自信が来るのか俺には理解できない。
確かに雪村君は沖田さんに対してどこか他の人とは違う扱いをしているようにも見える。しかしそれは、土方先生や原田先生、斎藤さん、藤堂さんにも言えることだ。俺個人としては人間性、人望、素質などを考えて一番彼女に合っているのは土方先生だと思う。あの方は素晴らしい方だ。

沖田さんの機嫌悪化はの原因は、その日の部活後に起きた。
雪村君はあろうことか沖田さん、斎藤さん、藤堂さん3人へまとめて同時に、「お世話になってます!」と笑顔で義理チョコを手渡したのだという。藤堂さん曰く、総司の負のオーラがハンパなかった、だそうだ。ちなみに雪村君はそんな沖田さんに気づくことはなかったらしい。彼女にはもう少しだけ人の感情に鋭くなってもらいたい。



あれから3週間。一部男子生徒の間では未だに、雪村君の本命は誰かという論争が続いている。
バレンタインデー以降も雪村君の様子に変わりはないため、本命にOKを貰えたわけでもNOを突き付けられたわけでもなく、返事はホワイトデーまで保留なのでは・・・・・・、というのが一部男子生徒による考察だ。

そして1週間後、薄桜学園は恐怖のホワイトデーを迎える。




----------
2011.03.07

[次へ]

[山崎TOP]

[続き物TOP]

[top]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -