★斎藤編+α


待ち合わせ場所である駅前のマックでポテトに噛り付いていると、タタタタッと軽い足取りで千鶴が寄ってきた。
スクールバックから紙を取り出し、嬉しそうにそれを総司の前に広げた。

「総司さん、見てください!」

千鶴が広げたのは数学のテスト。89点となかなかの高得点だ。

「もう返ってきたんだ。へえ、すごいね」

「総司さんが勉強教えてくれたおかげです、ありがとうございます」

二人が出会って一週間と少し。
緊急事態、緊張状態をともにした者は急速に親密になるとはよく言ったものだ。悪魔のようなストーカーから守ったことが縁で総司は千鶴とすぐに打ち解け合った。
出会ったのがテスト期間中だったことも大きいだろう。総司が千鶴の苦手科目を教えると申し出て、二人で連日図書館に通った。それがきっかけでこうやってテストが終わった後も放課後に会うことがお決まりとなったのだ。

総司が隣に座るように促すと千鶴は遠慮がちにちょこんと座った。
千鶴の正面にだらりと座っててりやきバーガーを口に運んでいた平助が、ぼやくように言った。

「つーか総司、自分もテスト中だったくせに千鶴に教えてたんだ。いーなー、オレも良い点取りてえ」

「平助君も総司さんに教えてもらえば?」

「ぜってー無理。総司が優しいのは千鶴限定だし!」

「こっちから願い下げだよ。頼まれたって平助なんかに教えたくない」

そう言って二人は同時にそっぽを向いた。
彼、藤堂平助はテスト終了後に総司が千鶴に悪友だと紹介した人物のうちの一人だ。と言っても平助が半ば強引についてきて勝手に自己紹介したのだが。
彼特有の気安さ、明るさのおかげで千鶴とはすぐに仲良くなり、会話もよく弾む。

他にも何人か総司の知り合いを千鶴は紹介されたが、多くは社会人で、こうやって放課後に会う機会もなかった。
同じく学生と言えば……

「え、ええと、あの、さ…さっ、斎藤先輩に教えてもらうのは……?」

どもりながら千鶴は斜め前に座る斎藤へちろりと視線を向け、すぐに元に戻す。不安なのか片手は無意識に総司を掴んでいた。
総司、平助と揃えば大抵一緒にいるのが斎藤だ。
彼は千鶴のいちばん最初の印象どおり真面目で頭がいい。ムラッ気のある総司よりも何倍も勉強の教え方も上手い。

初めて会った日、誤解を解いて散々謝り倒した斎藤は、千鶴がテスト中だったこともあり、良ければ勉強を見ようとお詫びのつもりで申し出た。
千鶴は……総司の後ろで打ち震えながら断ったのだが、直後に総司に「僕が教えてあげる」と言われて頬を染めながら頷いた。
斎藤に怯えて総司に縋る千鶴――昔ならば、前世ならば有り得ない構図……どちらかといえば総司と斎藤の立場が逆である現状に斎藤はちょっぴり落ち込んでいるらしい。



そんな構図が未だに続いている。
千鶴はなるべく普通に振舞うようにしているのだが、そう思えば思うほどに上手くいかなかった。今も総司を盾のようにして、斎藤から身を隠している。
その光景に、ぶはっ、と同時に吹き出し声を殺して笑う総司と平助。斎藤は片眉を一瞬だけ寄せるようにし、二人をじろりと睨んだ。

「だってさ、一君がこんなふうに千鶴にビビられるなんて笑うしかないじゃん!」

「自業自得なんだから仕方ないでしょ。あー、おかしい」

先日ほかのメンバーと千鶴を引き合わせたときも、同じように大爆笑が起こった。まるで他人事だ。(他人事だけど。)
三人の様子を見て一人しょんぼりと肩を落とす千鶴は、消え入るような声で居心地悪そうに謝った。

「ご、ごめんなさい」

「いいのいいの。君は怖い思いをしたんだから」

当たり前のように千鶴の肩を抱いて自分に引き寄せる総司。
前世では総司をやきもきさせていた斎藤が(総司は誰に対してもやきもきしていたが)、現世ではこの様……。しかも斎藤のおかげで千鶴に甘えてもらえる。総司にとって今の斎藤は何とも形容しがたい便利な存在だった。
とはいえ流石に可哀想になってくる。千鶴を怖がらせた罪は重いけれど、いきなり目の前に彼女がいて動揺する気持ちは痛いほどよくわかる。
そろそろフォローを入れてもいいかな。
総司がそんな風に考えたときに新たな火種が降りかかってきた。


ガシャン、と音を立てて何かが床を打った。足元を見ると平助のケータイで、男の子にしては沢山のストラップがついていた。
距離がいちばん近かった千鶴が手を伸ばしてそれを拾う。
はい、と手渡しするときに偶然、開きっぱなしだったそのケータイの待ち受け画面が目に飛び込んできた。
ビシッと音を立てて千鶴が固まる。不思議に思った総司が眉を顰めながら覗き込み、同じく硬直した。その画面に映っていたものとは。


――あのとき盗撮された千鶴の姿。


なぜそれを平助が……しかも待ち受け画面に。
二人の様子に気づいた平助が受け取ったケータイに視線を落とし、ああ!と口を開いた。

「オレの待ち受け、開閉するたびに画像が変わるように設定してあんだよ。間違って保存しちまったみてえ」

平助が自分のケータイをパカパカさせると言ったとおり待ち受け画面が千鶴から別の画像へと変わる。……いや、今知りたいのはそんなことではない。なぜ平助がそれを持っているのかと言うことだ。総司は無言で斎藤を睨む。

「一君……あの画像、他に誰に送信したの」

「幹部全員だ。報告を怠るわけがなかろう」

しれっと言い切った斎藤に、千鶴は眩暈を覚え、総司は一生怯えられてろと呪った。
こうして千鶴と斎藤の溝はさらに広がるのだった。
ちなみに総司はその後、画像データを削除するために幹部たちのもとを走り回ったらしい。










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2011.09.27

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