★第1章 第2話(2/3)

平助君に連れられて道場に行くと、近藤さん、沖田さん、斎藤さん、原田さん、永倉さんが揃っていた。他の平隊士の人たちが見当たらないから、今は稽古の時間ではないみたい。

「千鶴と手合わせするって言ったら皆来ちゃってさ」

へへっと平助君は笑った。

「俺も千鶴ちゃんの実力が気になってたからな」

そう言って笑顔を作る永倉さんだけど、目は笑ってない。

「まぁ、お前は女なんだ。無茶だけはするなよ」

ポンポンと頭を撫でながら原田さんが言った。ここで女扱いをしてくれるのなんて原田さんくらい。まあ私はここでは男で通すことになっているので、仕方ないことだとは思うけれど。

「平助、抜け駆けは駄目だよ。千鶴ちゃん、僕とやろうよ」

沖田さんにグイッと腕を引かれる。意地悪そうな瞳は、今日は私ではなく平助君に向けられている。

「な、総司は加減できねぇから駄目だろ!千鶴が怪我するっ」

「千鶴ちゃん相手に手加減なんていらないと思うけど。ね、一君?」

「今回は勝負ではなく稽古だ。総司には向いていない。雪村と手合わせするのは俺だ」

あれ?私、平助君と手合わせするんじゃ・・・?

「だーっ!一君まで何言い出すんだよ」

なぜか平助君、沖田さん、斎藤さんで揉め始めた。原田さんや永倉さんも「総司の相手は俺も反対だ」なんてチャチャ入れしている。そんな皆を見て近藤さんは「仲が良いなー」なんてズレたことを言っている。沖田さんが稽古に向いてない理由が容易に想像できてしまうのが怖い。

「じゃあ千鶴ちゃんが選んで!僕と一君どっちがいい?」

沖田さんが斎藤さんの腕を引き、2人が私の前に立つ。2人から怖いくらい真剣な目を向けられて戸惑う。

「・・・・・・え、っと」

「僕だよね、千鶴ちゃん?」

「あの、・・・・・・・・・・・・斎藤さんお願いします」

沖田さんを選ぶなんて怖くてできなくて、つまり消去法で斎藤さんになるのは容易なことで。途端に、沖田さんと平助君の「えーっ」という残念そうな声が道場に響く。

「千鶴、なんで俺じゃねーんだよ!」

「ご、ごめんね。次は平助君とやるから」

よろしくお願いします、と頭を下げる。顔を上げて斎藤さんの顔を見ると、なぜかそこには優しい眼差しがあった。この人はこんな顔もできるんだ、なんて少し失礼なことを考えてしまった。ただ初めて見る表情が嬉しくて、ちょっと、私のほうが照れてしまう。

ずしん

「えっ・・・!?」

背中に重みを感じて振り向くと、不機嫌な顔をした沖田さんが私にもたれかかっていた。

「はぁあ、なんで一君を選んじゃうわけ?君ってそんなに僕に殺されたいの?」

突然の「殺す」に驚いて止まっていると、斎藤さんがベリッと沖田さんを剥がしてくれる。

「日頃の行いのせいだ。行くぞ、雪村」

尚もブーブーと不満を口にする沖田さん。

「沖田さんとは以前一度やったので」

もう二度とやりたくないです。初めて会った夜を思い出すと身震いする。

「あれは一君に邪魔されちゃったから、やったうちに入りませんー!」

今日の沖田さんはどこか子供っぽい気がする。きっと近藤さんがいるせい、かな?何となく、近藤さんがいるときの沖田さんは雰囲気が柔らかく感じる。



渡された木刀を握り、斎藤さんと向かい合う。向かい合った瞬間に空気が変わる。けどこれは殺気ではなく、覇気。

「始め!」

近藤さんの掛け声と同時に私は飛び出し、迎え撃つ斎藤さん。
斎藤さんは左利き。
実戦経験のあまりない私は、左利きの人を相手にするのは初めて。ぶつかり合う刀身、いつもとは違う手応え。

(・・・やりにくい)

木刀を滑らせて流した直後、突きに転じる。斎藤さんも同じく突きを繰り出してきた。私を目掛けて迫ってくる剣先を少しの動きで避け、斎藤さんの懐に飛び込む。そして――勝負を決めようとするものの、それを察知した斎藤さんは後方へと退ける。空振りして前方に少しだけ体勢を崩した私を斎藤さんは見逃さなかった。

ガッ

木刀がぶつかり合う音が響く。斎藤さんの一振りを体に触れるギリギリで受け止める。私はそのまま斎藤さんの木刀を握り、後方へ思い切り引っ張る。木刀と共に引かれた斎藤さんの手を、腕を掴み、胴体を蹴り上げながら思い切り投げ飛ばした。が、斎藤さんは空中で体を反転させて綺麗に着地してしまう。
ヒュウ、という誰かの口音が聞こえた。斎藤さんが眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。

「雪村、真剣だったら相手の刀をあのようには掴めないだろう」

・・・決着がついてないのにダメ出しされた。

「真剣勝負でも私はああします。相手が体勢を崩したところを狙うんです。・・・斎藤さんは綺麗に着地されてしまいましたが、隙を作るには十分ですよね?」

「駄目だ。真剣ならばお前の手が切れる。血で滑って刀を扱いづらくなる」

「あっ、それもそうですね!」

実際にそんな場面になったことがないから血で滑るなんて考えたこともなかった。
私は鬼だからすぐに傷が治る。なので自分自身の怪我には少し無頓着なところがある。綱道さんにはよく注意されていたし、誰かに怪我が治っていくところを見られたくないから普段は注意しているけれど。






「それよりも斎藤さん、あの、」

私は江戸で道場に通っていた。ただ普通の人間の道場では、鬼の私には満足できる相手はなかなかいなくて。だから、斎藤さんみたいな強い人と稽古するなんて初めてで。

「斎藤さん、左利きですよね」

「・・・・・・・・・・・ああ、そうだ」

少し斎藤さんの顔が強張った?

「私、左利きの方に相手をしてもらうのが初めてで、あの、すごくやりにくくて、」

「・・・・・・そう、か」

「だから、すごく勉強になりました!斎藤さんさえ宜しければ、また、稽古をつけてほしいです・・・・・」

斎藤さんの目が見開かれてることに気づいて、言葉尻が濁ってしまった。なにか失礼なことを言ってしまったのだろうか。
そもそも、今日が特別なだけで、道場にくることを私は許されてない。

「ご・・・ごめんなさい、図々しいことを言ってしまって!今のは、聞かなかったことに――」

「いや」

頭を深く下げて謝ると、斎藤さんが制止する。恐る恐る顔を上げていると、先程とは比べ物にならないほどの優しい微笑みが飛び込んでくる。

「俺で良ければ、いつでも相手になろう」

「!」

斎藤さんに認められたような気がして、私はすごく嬉しくなる。今日だけじゃなくて、たまにでいいから道場に出入りできるようになりたいな。

「ねぇ、続きはやらないの?終わり?」

壁際で見ていた沖田さんがパンパンと床を叩きながら聞いてくる。

「ああ、一先ず終わりだ」

斎藤さんのその言葉を合図に、平助君と近藤さんが駆け寄ってくる。

「千鶴すげーじゃん!一君相手に速さでも負けてねぇし!!」

「驚いたぞ雪村君!なかなかの使い手だ。隊士にしたいくらいだ!」

それはお世辞もなにもない、真っ直ぐな言葉だった。近藤さんと平助君はこういうところがわかりやすくて嬉しくなっちゃう。

「あ、ありがとうございます」

気づけば後ろに原田さんがいて、頭をポンポンと撫でてくる。これってもしかして原田さんの癖なのかな?

「大したもんだな、道場に通ってたのか?」

「はい、子供の頃に。でもそれからは我流で特訓していて」

わしゃわしゃ撫で回され、髪の毛がボサボサになってないのか気になる。でも、少しだけ薫にそうしてもらったことを思い出して、寂しいような懐かしいような気持ちになった。

「千鶴ちゃんを隊士にしたいなんて、良い案ですね、近藤さん」

沖田さんの楽しそうな声が響いた。原田さんと斎藤さんは呆れた顔をし、平助君と永倉さんは驚き、近藤さんはニッコリ笑った。

「総司もそう思うだろ?どうだ、皆」

「千鶴ちゃんなら平隊士よりも実力あるし、いいと思いますよ」

いきなりの話に私がポカンとしていると、近藤さんと沖田さん2人でどんどんと盛り上がっていく。

「おいおい近藤さん、千鶴は女だ。隊士として扱うわけにはいかねぇだろ」

「そうだぜ。この子は監視対象だ。行動範囲を広げて逃げられたら困る」

永倉さんが少し敵意を込めた目でこちらを見るので、ウッと身構えてしまう。

「でも千鶴も外に出たいよな。ずっと部屋に閉じ込めっぱなしだしさ」

「一番組においでよ。巡察ついでの綱道さん探しをすれば一石二鳥じゃないかな。それに僕なら君を逃がさないし、逃げようとしたら斬ってあげるし」

隊士になれば巡察に行けて、巡察に行ければ綱道さんを探せる。確かに、いつ外に出られるかわからない今の状態よりはいいかもしれない。
・・・でも隊士にはなりたくない。人間同士の揉め事に巻き込まれるのも、ちょっと嫌。沖田さんの一番組も、怖いから嫌。

「まず副長に意見を聞くのが先だろう」

「あ、あ!じゃあさ!!屯所の外に出せないならさ、千鶴が好きなときに道場で稽古に参加できるってのは駄目なのかな」

平助君が思いついたように斎藤さんと近藤さんを交互に見やる。正直、それは私も思っていたので嬉しい申し出だ。でも許可なんて下りるわけがないよね。

「それは俺から副長に進言しよう。雪村程の実力ならば平隊士たちも学ぶことが多いだろう」

「それはいい!俺からもトシに言っておこう」


私は平隊士たちとはあまり話してはいけないため今すぐには許可ができない、という事らしい。でも土方さんが出張先の大阪から帰られたら許可は下りるだろう、と皆言ってくれた。
その日は平助君や原田さん、永倉さんと手合わせをしたり、型を教えてもらったり、沖田さんからひたすら逃げ回ったりと、久しぶりに動き回った。
なんだか今日だけで色々と進展した気がする。




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2011.03.13

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