★錆びた欠片と堕ちる恋(サンプル)


P136 / ¥1000 / A5 / オンデマ / 2018.11発行

これまでに出した無料配布・寄稿作品を中心とした再録集。

・枝分かれ恋路
・どうして逃げるんですか?
・免疫ゼロ
・愛か死か〜はじまりの話〜
・千鶴ちゃんの妄想がおかしい
・眠れない夜に(※寄稿)
・告白
・テスト勉強
・送らせ狼
・もふもふマフラー
・ゆめの国
・Hocus Pocus(※書き下ろし)
・うしろの正面
・朝、罠わなわな
・手に負えない傷(※寄稿)

※一部WEB再録済みのものもあります。
幕末から現代まで時代設定などが混在しています。
※文字サンプルは書き下ろし「Hocus Pocus」です。一部改変したり、ウェブでも読みやすいように改行を増やしています※







★画像サンプルはお手数ですがこちら(Pixiv)をご覧ください。
※頒布終了したものは公開終了しています。



『――全身黒服のマスクで顔を隠した男が、ここ一週間ほど近所に出没するんです。
今日も夕方に見かけたと思ったら、さっき帰宅した主人まで「まだ居る」と言っていて……。
うちには小さな子供もいるから不安です』

そんな市民からの通報が入ったのは夜八時を回った頃。
原田は出動しようとしていた同僚に代わってもらい、パトロールへ向かうことにした。

……身長170〜180センチ、茶髪、年齢は十代後半から二十代。
不審者の特徴を頭に叩き込みつつも、思い浮かべたのは千鶴のこと。
彼女はこの春から大学生になり、晴れて一人暮らしを始めたのだが……
その場所が不審者情報の近辺なのだ。

そう無防備な娘というわけでもないが、このご時世なにが降りかかるかはわからない。
まだ訪問しても失礼に当たらない時間だろうし、パトロール帰りに注意喚起にでもよってやろうかと考えた。
不審者の狙いが何なのかはわからないが、制服を着た警官によるパトロールは、これから起きるかもしれない被害を防ぐことにも繋がる。
大切な仕事だ。

そして十数分後――現場付近を見回っていた原田は、電柱の影に潜んでいるどこからどう見ても怪しい通報通りの不審者を発見する。
本来ならば、緊急時でもない限りは不審者に一人で対峙することなどしない。
しかし、同僚の応援を待つこともなくその不審者に声をかけた。
なぜならば――……そいつが知り合いだったからだ。

「こんなとこで何してんだ、総司」

声をかけた瞬間にびくっと反応したものの、総司はゆっくりと振り返り、胡散臭い笑顔を貼り付けて挨拶を返してきた。

「……こんばんは左之さん。仕事中? お疲れ様です」

原田の勤める警察署では、署長の実家が剣術道場ということもあり、剣道の術科訓練にはかなり力が入っている。
その道場の実践剣術は実際に犯人と対峙した際の心構え、行動、判断力に大変役立つと評判で、訓練だけでは飽きたらずに道場へ足を運ぶようになる署員も少なくはない。
と言うのも、その道場にはどういうわけか気のいい仲間が集い、ことあるごとに酒だ宴会だと騒ぎになる。
要は署員の「溜まり場」だ。

そんな道場によく顔を見せるのが、署長の秘蔵っ子でもある沖田総司だった。
図体のデカい年上の有段者を物ともしない実力の彼は、署員の間では割と有名な存在。
原田が総司と出会ったのはまだ彼が高校生になったばかりの生意気盛りの頃で、そこから数年の付き合いを経た今、「親戚の子」のような感覚になっている。

そういう間柄であるため、職務中に出くわすのはなんとなく気恥ずかしかった。
だがそんなことも言っていられないので、とりあえず本題に入ることにする。

「一週間くらい前から不審者が出るらしくてな。見回り中なんだが……」

パトロールの目的を告げると、総司の眉間に皺が寄る。

「不審者? 物騒だな、千鶴ちゃんに知らせておかないと」

すぐに千鶴の心配をするあたりが彼らしかったのだが……。

「……その不審者ってのがお前に似た風貌なんだよ」

身長176センチの二十歳、茶髪で上下が黒い服。
おまけに顔を隠すようなマスクをしている。
……どこからどう見ても通報通りの不審者だ。
原田は疑惑の目を総司に浴びせるも、総司は飄々とそれをかわした。

「へぇ。似てるだけでしょ?」

僕なわけないじゃないとでも言いたげに失笑される。

まぁ確かに似ているだけではどうにもできないし、具体的な被害が出たという報告もない。
それに住民を日々悩ます不審者が総司のはずがないことは原田が一番よくわかっている。



こんな感じの話です(´∀`*)




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