★オークション(サンプル)
P80 / ¥600 / A5 / オンデマ / 2017.11発行
沖田×千鶴。
オークションで落札された献上品を一時預かることになった新選組。
どんな珍しい品物がくるのかと期待していると、やってきたのはただの少女・千鶴だった。
※文字サンプルは一部改変したり、ウェブでも読みやすいように改行を増やしています※
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※頒布終了したものは公開終了しています。
新選組の屯所では、幹部隊士たちが集められた。
最後に広間へ入った総司は、局長も副長もいないのに何の話をするんだ、という疑問を暗に乗せて訊ねる。
「あれ……ひょっとして僕が最後ですか?」
笑っているんだか笑っていないんだか曖昧な表情の山南が、総司が腰を下ろすと同時に切り出した。
「もうじき近藤局長と土方君が戻ってきますが、その前に話しておかなければならないことがあります」
組織のトップ二人が揃って屯所を不在にしているのは、将軍直々のお達しがあったからという理由がある。
悪い話ではなさそうだが……と出立したのが一昨日。
戻ってくるのは昨日の予定だったがそれが延び、今朝、同行していた野村だけが先行して帰ってきた。
その野村が山南と先程まで話し込んでいた様子から、今回集められたのはその件についてだということはわかる。
深刻な話でもなさそうだが、一体どのような案件なのだろうか。
「先日、秘密裏に開催されたオークションがあったそうです」
そう切り出した山南に、各々が首を傾げる。
新選組がこの京の町に組織されてからそう日は浅くないが、そのような催しの噂は聞いたことがなかったからだ。
「秘密裏……ってことは違法オークションか?」
「つまり、俺たちはその取り締まりをすればいいんだな」
幕府直々のお達しだ。
結果を残せば大きく評価されるだろうと意気込み、原田や永倉は拳を鳴らした。
しかし、山南が小さく首を振り、思わぬことを言い出した。
「そのオークションで将軍家への献上品が落札されたらしく、しばらく新選組が預かることになったようです」
「はぁ!? なんでそうなるんだ?」
それが事実ならば、完全に面倒事を押し付けられたことになる。
新選組が違法品の保管をしていることが明るみに出れば、立場が悪くなるどころの騒ぎではない。
取り締まられる側に回ることになるのだ。
つまり、いざそうなったときに簡単に切り捨てられる組織と見做され、選ばれたのであろう。
「残念ながら我々に拒否する権利はありません」
だから秘密が漏れないよう、ここにいる者だけで対処せよということだ。
自分たちの置かれた微妙な立場に一同は沈黙するが、任務さえ全うすれば評価は上がる。
気持ちを切り替えなければならない。
「……で、その献上品ってのは何なんだ?」
それも将軍家への献上品と言うからには豪華絢爛な品なのだろう。
全員が野村に視線を向けるも、彼は眉間に皺を寄せるだけだった。
「俺は……その。違法品の保管の話が出た段階で離席を命じられて……」
ざっくりとした状況を伝えるために一人帰されたらしい。
「………………」
役に立たないな、という視線を向けたのは総司一人ではないはずだ。
そんな視線に後押しされるように、野村が慌てて付け加える。
「ただ、役人が『献上品は逃がさず躾けて世話しろ』と言ってたんですよ。だから生き物じゃないかなっ!」
と言いながら、懐からゴソゴソと分厚い冊子のようなものを出した。
一同が「なんだそれ?」と首を傾げれば、野村は恐ろしいことを告げる。
「オークションカタログっす。今回は密命あってのことで追及できないけど、いずれこの違法組織ごと潰せるようにと証拠を……」
……くすねてきたらしい。
「こわっ! 変な正義感で危険を増やすなよ」
平助が身震いする素振りを見せれば、原田が野村を小突く。
「こんなん持ってんのが見つかったらヤバいだろうが!」
その隙にカタログを拾った総司は、パラパラと捲って中身を確認する。
よくある通販カタログほど情報量で埋め尽くされているわけではないが、写真から詳細な商品履歴まで載っていてわかりやすい仕様だ。
「コレ、読み物としては面白いかも。ほら、左之さんに一君」
原田には古酒のページを、斎藤には日本刀のページを見せてみると、思いの外、食い付いてくる。
「へぇ〜、意外と手を出せる値段のやつもあんだな」
「なるほど、このような場での売買もあるのか……」
よくよく見てみれば違法品ではないものばかりが載っていた。
将軍家への献上品なのだから、法に触れるようなものは流石にないのではと安堵さえしてくる。
そこから気が緩んでしまったのか、平助が妙な提案をした。
「じゃあさ、土方さんたちが帰ってくるまでヒマだし、どれが献上品か当てっこしよーぜ!」
「面白そうじゃねーか。晩飯のおかずでも賭けるか」
――という具合に話が進んで、しばし全員がカタログに目を通す時間が設けられた。
野村の報告から献上品の品目は大体絞られている。
『逃がさず躾けて世話しろ』
きちんと囲っておかないと逃げ出す可能性があり、そして新選組の不躾な男でも世話が容易なものなら……。
(やっぱりペットになるような動物かな)
水槽で飼うような生物なら逃げ出す可能性は低いから除外する。
爬虫類は個人的に好ましくないのでページも開かずにスルーした。
自分がもし世話をするならという点に念頭を置けば、鳥類や哺乳類を候補として推したかった。
アルビノの孔雀、ホワイトタイガーにアシェラ猫……。
金持ちが好みそうな品種がページごとに並べられているが、正規ルートでも購入することは可能なものばかりだ。
(大人しくて静かで面倒の掛からない子がいいな)
脱走されて追いかけっこする羽目になるのなんて困るし、鳴き声が煩ければ隠し通せないだろうし。
まあ、総司にはハナから世話をする気などなかった。
こういうのは動物好きがやればいい。
ページを捲りながら、できるだけ自分と近藤に迷惑がかからないものを探していると……
「…………ん?」
なんだか妙な文字が視界に入り、総司は指を止めた。
カタログナンバー28.鬼
鬼って……。
何かの固有名称なのだろうか。
それとも隠語なのだろうか。
他の出品物には数種類の参照画像が載っているのに、これには一つも画像がついてない。
詳細情報にはよくわからないことが書いてあり、何より商品の参考価格でもある落札スタート値が「時価」となっていた。
胡散臭い。
怪しさで溢れている。
つまり、このカタログには載せられない違法なものなのだろう。
(まぁ、僕たちには関係ないか)
総司はさっさとカタログに目を通し、次の人へと回した。
そして全員であーでもないこーでもないと予想を繰り広げ、ひとしきり盛り上がった後。
ようやく近藤と土方、そして同行していた相馬が屯所へ戻ってきた。
真っ直ぐに広間に向かってきてくれた彼らに一同期待を膨らませるが、献上品と言えるようなものは持っていない。
まあ、献上品は動物なのだから……庭先に繋いであるとか、玄関先にケージごと置いたままだとか……?
だがそれよりも全員一致で不思議に思ったことがある。
三人以外に見知らぬ人物が広間に入ってきたからだ。
それも、どこからどう見ても下手くそな男装をした女の子――。
彼女はビクビクした様子で視線を彷徨わせ、土方に促されると広間の隅に座った。
こんな感じの話です(´∀`*)
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