★僕のこと嫌いなくせに!(サンプル)


P52 / ¥400 / A5 / オンデマ / 2014.11発行予定

屯所パロの沖田×千鶴。
思い込みの激しい沖田さんが、千鶴ちゃんの好きな人を巡って思い上がったり、やっかんだりする話です。

※「僕のこと好きなくせに!」との繋がりはありません※
※文字サンプルは一部改変したり、ウェブでも読みやすいように改行を増やしています※






★画像サンプルはお手数ですがこちら(Pixiv)をご覧ください。


「お帰りなさい、沖田さん……っ!」

 巡察の報告後に廊下を歩いていたら、千鶴が愛らしい笑顔を振り撒きながら声を掛けてきた。
 縁側にちょこんと座っている姿は、まるで総司の帰宅を監視し、待ち伏せていたかのようにしか見えない。

「ただいま、千鶴ちゃん。……島田さんも」

 彼女の隣には千鶴の策略に巻き込まれたであろう島田がいた。
 珍しい組み合わせに総司は一瞬目を見張るものの、二人の手元にある物のおかげで、巻き込まれた原因がすぐにわかった。

「沖田組長もお一ついかがですか?」

 袋いっぱいの饅頭。二つの湯呑み。
 恐らく甘いもの好きの島田が大量に買ってきた饅頭を、千鶴に恵んでやっているのだろう。
 なんともお優しい男だ。
 だがその優しさが運の尽き。
 図々しい千鶴が「このお饅頭を利用すれば沖田さんを待ち伏せできるはず!」と身勝手な閃きをしたせいで、こんな寒い日に縁側なんぞでお茶をする羽目になったに違いない。
 彼女の好意と積極的な行動は迷惑ではないが、島田を巻き込むようなことは止めてもらいたい。
 溢れんばかりの想いならば、自分だけに向けてくればいいものを。
 ――と、総司は思っていた。

「それじゃあ僕も貰おうかな」

 千鶴一人の申し出ならば断ったところだが、島田の厚意は無下にはできない。
 折角だからその誘いの乗ることにして、二人の座っている縁側へと歩を進めた。
 その途端、千鶴が口角をきゅっと上げながら、島田がいない方の隣を意識し始めた。
 どうやら総司をそちらへ座らせたいらしい。袴を正しながら、上目遣いしてきた。
 あからさまな態度に溜息を零しながらも、仕方なく彼女の望む場所へと腰を下ろしてやる。
 それなのに――

「あっ、お茶……お茶を淹れてきますね!」

 なぜか千鶴はハッとしたようにその場から立ち上がり、厨へ駆け出そうとする。
 きっと大好きな男が隣にいるという緊張感に耐えられず、逃げ出すつもりなのだろう。
 わざわざ誘いに乗ってやったのに腹立たしい。

「いいよ、お茶なんていらないから」

 総司は千鶴が一歩踏み出す前に彼女の手首を掴んで引いて、また縁側へと座り直させた。
 そして二度と逃げ出せないように、そのまま掴みっぱなしにしておく。
 それが功を奏したのか、千鶴は素直に応じて深く腰を掛け直した。
 そして頬を赤色に染めながら、掴まれたままの手首をチラチラソワソワと気にし始める。
 好きな男に触れられているのだから、その反応も止むを得まい。
 総司は敢えて気づかないふりをし、千鶴の手の甲へと自身の手を滑らせ、ぎゅっと握り直した。

「……あっ!」

 その直後、案の定千鶴が身体をびくりと揺らして、声をあげる。
 顔色はますます可愛く色づいていき、今にものぼせてしまいそうだ。

「どうしたの、千鶴ちゃん?」

 やはり気づかないふりをして、総司は千鶴の顔を覗き込む。
 彼女の視線が彷徨って、助けを求めるかのように島田のほうを向いた。
 だが島田は空気を読んでいるのか甘いものに夢中になっているのか、空を見上げながら満足げに饅頭を頬張っていた。
 千鶴が助け舟を期待していることなど目もくれていない。
 千鶴自身もそれがわかったのか、諦めたかのように総司へと視線を戻し、再度言い募る。

「あ、えと……でもお仕事を終えたばかりですし、喉乾いていませんか? やっぱりお茶を……」

 どうしてもこの場から一旦離れたいらしい。
 だけど総司がそれを許すわけもなかった。

「帰宅してすぐに飲んできたから平気」
「でも、お饅頭が喉に詰まっちゃうかもしれませんし」

 縁起でもないことを言わないでもらいたい。
 何より饅頭を買ってきてくれた島田に失礼だ。

「そしたら千鶴ちゃんの貰うから平気」

 総司が千鶴の湯呑みを指差して言うと、千鶴がきょとんとした顔つきになる。

「え? これ、私が口を付けてしまってますよ?」

 千鶴にとっては好きな人と同じものに口を付けるなんて、考えられないのかもしれない。
 そもそも男と同じ湯呑みの回し飲みをしたことがないのだろう。

「別に構わないよ。それとも君は嫌なの?」

 わざと手に力を込めて千鶴の手首を握り締めると、千鶴がまた頬を赤くし、俯きがちに首を横に振った。
 総司はますます笑みを深める。
 千鶴が自分だけに見せてくれる可愛い顔をもっと見たくなって、彼女に指を絡めようとした――そのとき。

「茶なら用意した。総司、あんたはこれを飲め」

 突然背後から声がかかって振り返ると、湯呑みと急須を乗せた盆を持つ斎藤が無表情で立っていた。

「あっ斎藤さん、ありがとうございます!」
「いや、気にするな」

 千鶴が待っていたとばかりの声色で斎藤を迎えるものだから、総司はあからさまに眉を寄せ、邪魔をするなという顔で彼を睨んだ。
 それが功を奏したのか、斎藤は島田の隣――いちばん端に腰を下ろそうとする。
 だが、なぜかそこで島田が空気を読み、サッと横にずれた。
 結局斎藤が座ったのは千鶴と島田の間。
 どうやら総司よりも先に声を掛けられていたらしい斎藤が、自分の分の茶を用意してきたという流れみたいだ。
 ただでさえ千鶴が饅頭とそれをくれた島田にうつつを抜かしているというのに、さらに別の人間が介入してくるなんて面白くない。
 いつの間にか千鶴に手を振り払われてしまったし、さっきまでの良い雰囲気だって台無しになった。
 総司は受け取った湯呑みをすぐ横に置いて、饅頭に噛り付いた。
 きっと千鶴だって総司との甘い時間を邪魔されて、内心絶望しているに違いない。
 だけど恥ずかしがりの彼女は、それを表立って態度に出すことはできない。
 こんなにわかりやすい恋心でも、本人は一応隠しているつもりなのだから。
 そんなことを考えつつ、隣の千鶴をちらりと見た。
 彼女はさっきまで頬張っていた饅頭を既に食べ終えていて、もう一つ食べようか食べまいか、饅頭の入った袋をチラチラと見ている。
 総司がここに来た時点でいくつ食べていたのかは知らないが、食い意地が張っていることには変わりない。
 そうこうしているうちにも、斎藤が一つ二つ三つと饅頭を次々と平らげていく。
 見かけよりも大食らいな斎藤を横目に、千鶴がそわそわと焦っているのが見て取れた。
 そして――

「おっ、沖田さんも、もう一ついかがですか?」

 自分の食いしん坊っぷりを紛らわすためか、総司を巻き込んできた。
 だから仕方なく、千鶴の望むような言葉を返す。

「僕は一つで十分。千鶴ちゃんはもっと食べたら? ね、島田さん」

 買い主である島田にそう話を振れば、島田はにこやかに頷いた。

「ええ、もちろんです。雪村君も遠慮なくどうぞ」
「そう仰るなら、もう一つ……」

 千鶴はあくまで「勧められたからおかわりする」と言うていで、だけど物凄く嬉しそうに頬を緩めながら、饅頭に手を伸ばした。
 だがその手が伸び切る前に、千鶴の動きが止まる。それと同時に――

「きゃっ、きゃああっ!」

 叫び声をあげ、仰け反るように身体をずらし、勢いよく総司へと抱き着いてきた。
 彼女の突然の行動に、斎藤も島田も驚いたように眉をあげる。
 当然総司も驚いて、一瞬動きを止めた。
 だけどすぐに彼女の意図することがわかり、慌てて千鶴の肩を掴んで押し返した。

「ち、千鶴ちゃん? 駄目だよ、人前じゃ……」

 そう、我慢できなくなってしまったのだろう。
 斎藤が真横に居ようとも、島田がこちらを見ていようとも、総司に対する想いが溢れて止まらず、ついつい抱き着いてきてしまったのだ。
 その気持ちは嬉しいけれど、でも時と場所を選んでもらえなきゃ迷惑でしかない。
 いくらなんでも、もっと気持ちを抑える努力くらいはして、せめて二人きりのときにやってもらいたかった。
 しかし千鶴は、どんなに努力しても抑え切れない状況らしく、ますますぎゅうぎゅうと力強く抱き着き、額を総司の胸元にぐりぐりと押し付けてくる。

「千鶴ちゃん、ちょっと落ち着いて……!」

 襲われんばかりの猛攻に総司が戸惑っていると、目の前を何か黒っぽいものが横切った。
 そしてその直後、千鶴が涙声で主張する。

「虫っ……虫が、こっちに………っっっ!」

 同時に僅かな羽音が聞こえ、それが千鶴の着物の袖にぴたりと止まった。
 千鶴は総司に顔を押し付けているせいで、そのことに気づいてはいない。
 いや、気づいていないふりをしているという作戦なのかもしれない。
 だから総司も、千鶴に合わせてのほほんと受け答えた。

「コオロギだよ。昼間なのに珍しいね」

 寝床に天敵でも現れて逃げてきたのか、それとも千鶴のいい香りに誘われてきたのか。
 どうせなら夜に出てきて心地いい鳴き声でも聴かせてほしいものだが、今はそれどころではない。

「追い……っ、遠くへ追い払ってくださいっ」

 そう言いながら必死に縋ってくる千鶴を、ただジッと見守る。
 なぜなら千鶴の本音は確実に「沖田さんにずっとくっついていたい」だ。
 だからさっさと追い払ってしまえば、千鶴が総司にしがみつく理由がなくなってしまう。
 虫の出現を最大限に利用している彼女に敬意を払って、少しくらいこの一時を長引かせてやってもいいと思えたのだ。

「大丈夫だよ。針も毒もない虫だから」

 総司はくすくす笑いながら、千鶴の顔を覗き込むようにする。
 だけど千鶴はぶんぶんと首を横に振り、ますます総司の胸元に額を擦り付け、埋めた。
 千鶴にとっては再び訪れるかもわからぬ千載一遇の機会なのだから、何が何でも離すつもりはないらしい。
 そんな彼女をからかうように、総司は千鶴の髪に指を絡めるようにして言った。

「でもこのコオロギ、千鶴ちゃんの着物がお気に入りみたいだよ」

 千鶴の袖に止まったままの虫を見下ろしながら笑うと、千鶴の動きが一瞬止まる。
 そして数秒後、総司の言葉を理解したらしく、また盛大に取り乱し始めた。


こんな感じの話です(´∀`*)





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