★目が覚めたら全裸だった(サンプル)


P44 / ¥300 / A5 / オンデマ / 2014.02発行

大学生パロの沖田×千鶴。
千鶴の浮気を疑ってヤケ酒した総司が全裸で目覚める話。
もちろん浮気はしてません。
※文字サンプルは改行を増やしています。







★画像サンプルはこちら(Pixiv)をご覧ください。



 先輩の冗談めいた悪意ある言葉がいつか現実になるんじゃないかって、怯えていたからかもしれない。
 そして――

(……ああ、まずいな)

 そう思ったところまでは、覚えている。
 だけど、そこから徐々に意識が遠ざかっていった。




 総司の彼女、雪村千鶴は、奥手というかガードが堅いというか。
 出会ってから付き合うまでに一年半もかかるくらいには苦労した相手だ。
 そんなに時間のかかった理由は、総司が余計な勘繰りばかりを働かせて素直になれなかったことと、千鶴の周囲にいる邪魔者たちの妨害があったことが大きい。

 付き合い始めてすぐに総司には大学受験が待っていて、その翌年は中距離恋愛に加えて千鶴の受験。
 何にも縛られない生活が始まったのは約一年前。
 都合さえ合えばすぐに会いに来てくれるし、暇さえあれば一緒に出掛けたり、キャンパス内でともに過ごすことだって多い。
 喧嘩だってないし、大事に思われている自信もある。
 順風満帆な関係だ。

 でも、一つだけどうしても気になることがあった。
 千鶴が一人暮らしをしているアパートは、総司のアパートから徒歩十五分。
 微妙に離れた場所にある。
 もっと近く――と言うよりは、一緒に住みたかった総司なのだが、そのアパートは大家の家が隣接していて、そこに住む世話好きのお婆さんが学生たちの面倒を良く見てくれるそうだ。
 住民は女性中心ながら近くには警察署があり、学校や駅へ行く道も明るい。
 安全面では文句のない立地にあり、止むを得ないと思っている。

 それはさておき、総司が気になっているというのは、千鶴がアパートになかなか招いてくれないということだった。
 千鶴の引っ越しを手伝ったときが一回目。
 春祭りに出掛ける際、早めに迎えに行ったときで二回目。
 窓を開けっぱなしにしていたら蝉が入ってきたと涙声で助けを求められたのが三回目。
 夏休み中に地元の剣道仲間が遊びに来たときに皆で押しかけたのが四回目。

 …………たったの四回。
 この一年間のうちに片手で足りるくらいしか、彼女の部屋にお邪魔できていない。
 そしてそのほとんどが、総司以外にも誰かがいた。

 部屋にあげてくれない理由はなんとなくわかる。
 千鶴が御堅いということも大いにあるが、どこぞの双子の兄からある事ない事言い含められ、余計な入れ知恵をされたのだろう。
 それ以外に考えられない。
 確かに可愛い彼女の部屋で二人きりになったら、やることなど一つしかない。
 同じ学生が多く住むアパートだけに、彼女が周囲の目を気にすることもわかるっちゃわかる。
 でもいくら総司だって、そういうところは気をつけてあげられると自負している。
 特にお隣さんと気まずくならないように、騒音には細心の注意を払うつもりだ。

 だから何度も彼女の部屋へ侵入を試みた。
 帰りが遅くなった日は必ず送ってあげたし、用事を見つけては無駄に突撃してみたりした。
 そのたびに警戒され、阻止され、チェーンロックを掛けられ、追い返された。
 三年も付き合っている恋人に対して、鬼畜の所業だ。

 仕方がないので千鶴のカバンを漁って鍵を盗み出そうと――もとい、小一時間くらい借りようと思ったことがある。
 気付かれないうちに合い鍵を作ってしまえば、あとはもう思いのままになるはずだったのだ。
 それなのに妙なところで勘の良い彼女に途中でバレてしまって、「合い鍵は勝手につくっちゃいけない決まりなんですっ!」と頬をぷっくり膨らまされてしまい、しばらく口を聞いてもらえなくなるという最悪の結果に終わった。
 あのときほど淋しい思いをしたことはない。

 ともかく、アパートへの侵入を拒む熱意だけは、、最愛の彼氏に対するものとは思えないのだ。
 まあ、その代わりに彼女は総司のアパートには誘えばほぼ確実に来てくれる。
 お互いに予定や授業がなければいつまでも閉じ込めておけるし、今やいつお泊りしても大丈夫なくらいに千鶴の私物が増え、充実していっている。
 キッチン回りに関しては彼女の方がどこに何を置いてあるのかを把握していて、「自分の家よりこっちにいる方が落ち着きます」とか言われる始末。
 総司に用事があるときに「僕の家で待っていて」と言うと、夕食を作ったりお風呂を沸かして可愛く待っていてくれる。たまに待ちくたびれてソファに座ったまま寝ちゃっていることがあったりして、それを起こすか起こさないかはその日の気分次第というか、大抵起こさないように色々慎重に可愛がって、でも段々止まらなくなって結局起こしちゃうってパターンが多くて、そんなときに特に幸せを――と、まあ長くなるので詳細は省くが、新婚さん気分を日常のように満喫しているのだ。

 そんな感じで総司の家ではイチャイチャラブラブしまくっている。
 そのおかげで彼女の部屋にあがれないという不遇の対応は、なんとなく帳消しにされてしまっているというか、誤魔化されてしまっているというか。
 千鶴を自分の部屋に連れ込むことで、今までは心の平静を保っていた。
 気にしないようにしていた。

 でも、周りから「三年目に破局」とか「三年目の浮気」とか、そんなことを言われると、今まで誤魔化していた不安が一気に膨れ上がってくる。
 彼女が家にあげてくれない理由は、総司に飽きたから?
 他に男がいるから?
 頻繁に会いに行っていたとは言え、一年間も離れて暮らしていた時期がある。
 その間に同級生とか、予備校の講師とか、部活の後輩とか、他の男との出会いや親密になる機会は、いくらでもあった。
 そしてその関係を、総司の知らないところで続け、育んでいたとしたら?
 総司の部屋が千鶴との愛の巣だとしたら、千鶴の部屋は千鶴とその浮気相手との愛の巣になっているのかもしれない。
 総司の部屋が千鶴の私物でいっぱいになっているように、千鶴の部屋もその男の私物で溢れ返っているのかもしれない。
 それならば部屋に招いてくれないことにも納得がいく。
 でも彼女はそんなことをする子じゃない。
 不器用だから隠し事なんてできないし、異変があればすぐに気づける。
 最悪の事態なんて、考えたくない。
 考えただけで、心が引き裂かれそうなくらいに辛い。


 飲みすぎたせいでネガティブになりすぎているみたいだ。
 大好きな彼女の心変わりや浮気を疑うなんて、どこかおかしい証拠。
 総司は眩しい朝日から目を背けるように、寝返りをうった。

「う〜ん……」

 雀の鳴き声。
 やわらかい布団。
 枕からは自分のものではない甘い香りがして、総司は心地良さに顔を埋めた。
 遠くに人の気配を感じる。
 トントンと一定のリズムで聞こえてくるのは、包丁で何かを刻んでいる音だろうか。
 すんっと鼻で息をしてみると、味噌汁の優しい匂いが漂ってきた。

(……今日は和食かぁ)

 朝食には特にこだわりはないのだが、自分一人のときは何も食べないかお菓子を摘まむか、最大限の努力をしてピーナツバターでも塗ったトーストとインスタントコーヒーくらいが精々だ。
 朝から和食だなんて、自分のために手の込んだ事をしてくれているみたいで嬉しくなってくる。
 総司は良い匂いのする枕へ、さらに顔をぐりぐりと押し付け、肌触りのいい布団に身を委ねた。

(…………和食……? 肌、ざわり……?)

 あれ? と疑問に思うと同時に、寝ぼけ眼が一気に覚醒する。
 昨晩はゼミ生での飲み会だった。
 いつも以上に飲みまくってしまったところまでは覚えているが、そこから先どうしたのかが記憶にない。
 嫌な予感がして、布団から顔を出すことができない。
 この甘い香りがする寝具は、明らかに総司の家のものではなかった。

 と言うことはつまりここは別の誰かの家。
 総司をさらに焦らせたのは、自分の身体と布団のシーツとの間に、本来あるべき衣服の感触がなかったことだ。
 直に肌へ触れるシーツのひんやりとした温度。
 目をぎゅっと閉じたまま恐る恐る自分の身体を触ってみると、上半身はもとより下半身にも何も纏っていなかった。全裸だ。

 もうじき春になるとは言え、まだ二月。
 先週末には大雪も降り積もったくらいに寒い。
 それに総司には裸で寝る習慣なんてなかった。
 と言うことは、つまり裸の理由は、裸で行うようなことをしたってこと……かもしれない。
 ますます嫌な予感しかしなくて、布団の中で頭を抱えた。
 ここは一体どこなのか、一晩のうちに何が起きたのか。
 確かめるのが怖くて仕方がない。
 千鶴の浮気を疑っていたくせに、まさかその翌日に自分がこんな状況に陥るとは思いもしなかった。

 いや、だがしかし、いつまでもこうして蹲っているわけにはいかない。
 自分の身に何が起きているかをしっかり確認して、昨晩なにをやらかしたかも逃げずに知らなくてはならない。
 色んな結果を想定し、覚悟しながら、意を決した総司はガバッと起き上がった。



こんな感じの話です(´∀`*)




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