It's a very cute!






紅葉色付き、気温が下がってきて北風小僧が走り抜ける。やたら懐かしい。
もうすぐ冬。
伊月くんと付き合い始めて2ヵ月になる。



「森山さん!」

寒空の下、何時もの駅の前で待ち合わせ。
自主練をいつもより少し長めにとったら電車を一つ逃した。

「伊月くん」

恒例と化した自販機の横に寄りかかっている俺に走り寄ってくる伊月くんも、恐らく自主練を済ませてきたところだろう。
お互い様だが恐れ入る。

「待ちましたか?」
「いや…平気だよ」

街はもうクリスマス色溢れる。
北風小僧が連れてきた北風はやっぱり寒くて、俺はブレザーの下にカーディガン。それからマフラー。
伊月くんも薄手のコートにマフラー、と、厚着をしている。

「さぁ…行こうか」

今日は上演最終日の映画を見に。

所謂遠恋状態の俺たちは、普通の恋人たちには足りない位の時間しか会えない。
それを補うように、だいたい2週間に1度位、こうして時間をつくる。
そのたまの逢瀬も潰れたりする。
俺だってまだまだ現役で部活やってるし、伊月くんなんてまだ2年生だし。
なにより、お互いが2人の時間も部活の時間も大切だから仕方ない。

もうすぐWC。

それでもお互いに無理矢理作る時間は愛おしい。

「次何時でしたっけ?」
「18時30分。もうちょっと時間あるね」

適当にぶらぶらしようか。
と、提案すると、伊月くんははい、と素直に応えた。
初めの頃はぎこちなかった遣り取りも、今じゃ少しスムーズになった。

「寒いねぇ、伊月くん」

ひとつ、進展したいな。なんて。
いや、伊月くんの手が寒そうだったから!
2ヶ月たったのに今更可笑しいか。
いや、だって、俺なんだかんだで恋人そんなにいた方じゃないし、長続きなんてしないし。

伊月くん好きだし、恥ずかしいっていうかなんていうか。

「そうですか?今日はあったかい方ですよ」

そんな俺を知ってか知らずか伊月くんのこの反応。いや、伊月くんが少し天然入ってること位知ってたけどさ!

そんな伊月くんも可愛いけどさ……

「いや…今日は寒いよ。だから…温めてあげる」

そう言って右手を差し出すと、伊月くんはきょとんとした顔でその手を見つめた。

その顔がかぁあああっと一気に赤くなる。
つられて俺も顔が熱くなった。
顔にあたる風がやけに冷たい。

「あ…えっと、俺…っ、すいません………」

おずおずと左手を俺の右手に乗せながら、照れた口元をコートの袖で隠す伊月くんの可愛いこと。

「ん」

きゅ、と、その手を握り締めると伝わる、伊月くんの暖かさ。

あたた…え?

「……森山さん、やけに冷たくないですか」
「…あー、うん。俺冷え性なんだよね…」

これじゃ温める以前の問題だ。
逆に冷えてしまうじゃないか。
あああああああああ俺の馬鹿!
格好つかねぇ!!

「ごめっ」
「あっ、ちょっと!」

反射的に引っ込めた右手を、今度は伊月くんの両手が捕まえた。

右手に伝わる、伊月くんの温かさ。

伊月くんは徐に両手で俺の右手をさすりだす。
摩擦熱で温かい。温かいが。

「いっ、伊月くん…っ」
「森山さん、我慢」

制止しようとするが止まらない。
今度は彼は、俺の右手を口元に近づけ、はーっと息を吐き出した。

流石に、これは。

ヤバい。

顔熱い。耳も。
寧ろぼーっとしてくる位。

「はい、森山さん。次左て…」
仕上げとでも言うように、少しの間両手で俺の右手を包み込み、手放したかと思うと、残る左手に手を伸ばしかけた伊月くんの動きが俺の顔を見て止まった。

一拍置いて、その顔が真っ赤に染まりあがる。

「〜〜〜〜〜〜ッ!すいません!!」

恥ずかしさも最高潮なのか、伊月くんは身体ごと凄い勢いで俺に背を向けてしまった。

触り心地の良さそうな髪の隙間から、ちらりと見える真っ赤に染まった耳朶。

この子、こんなにやたらに可愛かったっけ。

始めて見る伊月くんの新しい一面と、それが俺だけのものなんだっていう嬉しさ。

「いーづーきーくん」
「ぅわ!?」

向けられた背中にのしかかり、肩口から伊月くんを抱き締める。

「映画、行こうか」

耳元で囁くと、素直に振り向いてくる。

俺は、伊月くんが温めてくれた右手を差し出した。
それに、伊月くんの左手が重なる。

「………、はい」

肌に触る風は冷たい。
だけど、胸の中は妙に温かい。







あとがき

読んでいただきありがとうございます。
森月可愛い\(^O^)/
ネタはフォロワーさんにいただきました!いつもお世話になっています!!
右手を差し出すのは守る人、左手を差し出すのは守られる人っていう小ネタを密かに入れたのは内緒ですww






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -